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英雄。18

その日は、雨が降っていた。
思えば、久方ぶりの雨だ。最後に降ったのはいつだったかは流石に覚えていないが、少なくともリーンが修行を始めてから雨が降ったのは今日が始めてだった。
雨が降っていても修行には関係無い。そう思ってリーンはいつも通り、走り込みと素振りを始めようとしたが、外へ出ようとするリーンをフレイヤは止めた。
故に、今日は言ってみればリーンにとって久方ぶりの休日だった。
休日とはいえ外が雨である以上、やれる事は特にない。何をするわけでもなくフレイヤとリーンは同じ部屋でぼんやりと過ごしていた。
「…そろそろ、このヘネシスから移動しましょうか。」
窓の外で降りしきる雨を見ながら、フレイヤは何気なくそう言った。
「え…どうしてだ?」
突然の言葉にリーンはそう聞き返す。
この地を離れる理由が解らなかったし…そして何より、この地を離れたくないという気持ちがリーンには少しばかりあったからだ。
気候もよく、住民は穏やかで優しい。修行をするには、ここ以上に適した地は無いとリーンは思っていた。
「近頃、物騒ですからね。ここの近くで死体が見つかりましたし…'警察'もそこかしこに居てあまり居心地もよくありませんしね。」
'警察'とはエレヴ警護偵察隊を略した言葉である…らしい。
詳しい事まではリーンは知らないが、こういった事件の捜査は基本的にこの'警察'が先導して行うらしい。
フレイヤの言葉にリーンはフン、と軽く鼻で笑い言う。
「なんだ?やっぱり盗人だから警察は苦手か?」
「ハハハ。まぁ、それもあるかもしれませんね。」
悪びれる事無くそう答えるフレイヤに、リーンは悪戯心が沸いてニヤニヤと笑いながら続けて言う。
「警察にお前が僕の剣を盗んだと話せば、もしかしたらお前を捕まえてくれるかもしれないな?」
「……さぁ、どうでしょうかね?剣が盗まれた。しかし、剣を盗んだ張本人は自分のすぐ目の前にいる。そんな状況でそんな言葉を信じる人が果たしているでしょうか?」
「…」
確かに、フレイヤの言う通りだ。全くもって不服だが。
盗んだ人間の行方が解らないならともかく、盗んだ人間がすぐ近くにいるのだ。
おまけに…リーンはまだ子供である。『フレイヤに剣を盗まれた』と申告したところで、『危険な刃物を子供から大人が遠ざけた』程度にしか見てもらえないであろう。
尤も、リーン自身もそれは解ってはいたし、何より剣は自分の力で取り返すという意志があったので、そんな事を言うつもりは毛頭無かったのだが。
不貞腐れたように、再びリーンは鼻を鳴らし、視線をフレイヤの背中から離す。
…そこでふと、数日前にフレイヤに聞いた質問を思い出し…何気なく再び同じ質問をした。
「…あの死体が見つかった場所が、僕達が決闘した場所と同じだったのは…やっぱり偶然なんだよな?」
「えぇ、偶然です。私自身が何より驚いているぐらいですから。」
数日前、新聞に'死体が見つかった'という記事が載った日。
フレイヤが宿屋に戻ってきて開口一番にリーンはその事をフレイヤに告げた。
それを聞いてフレイヤは僅かに沈黙し…『そうですか。』と答えただけだった。
フレイヤ曰く、あの場所を知っていたのはギルドの依頼でよくこの旧道の魔物を討伐しているから、その時に偶然あの場所を発見したという事だった。
嘘を吐いているようにはリーンには見えなかった。…尤も、フレイヤは時折何を考えているのかよく解らない時がある。
そんなフレイヤが嘘を吐いていたとして、リーンにはそれを見破れる自信は無かったのだが…
「それに…この辺りの魔物はある程度落ち着いてきたようです。依頼の数は目に見えて減っています。これ以上この場所にいてはお金が足りなくなってしまうでしょうしね。」
「そうか…」
死体が見つかった。警察がそこかしこにいて居心地がよくない。金になるような依頼も少ない。
この地を離れるには十分すぎる理由だ。
そして何より…金が足りない一番の理由はリーンの高価な武器を買い与えたからだろう。
ここで使われている通貨の'メル'についてはリーンは実際の所、詳しくは解っていない。
ただ、この宿の1泊、更に2食付きの値段は5000メル。フレイヤがリーンに武器を買い与えた日、武器屋の店主に差し出していたあの白銀貨が1枚あればこの宿屋には1年近く泊まることができる…らしい。
そんな白銀貨を3枚、あの日の内にフレイヤは使っていたのだ。他ならぬリーンの為に。
自分の大切な剣を奪っていったフレイヤに対して、こう思うのもリーンにとっては複雑だったが…少しばかり後ろめたい気持ちがあるのが事実だった。
だからリーンはそれ以上何も言わず、素直に返事を返した。
「なら…準備をしておく。」
「えぇ、お願いします。明日は晴れるみたいですからね…明日、朝食を食べた後にこの地を離れます。」
「解った。」
そう返事を返して、二人の間にはまた静寂が訪れる。
フレイヤは…ずっと窓の外を見ていた。一度もこちらを振り返る事も無く。
(…あぁ、'また'だ。)
降りしきる雨を見ながら、彼女は何を考えているのだろうか。
表情すら窺えない。だから、リーンには想像すらできない。
…ただ。
ただ、その後ろ姿は。リーンには何処か哀しげな物に見えた。


翌日、目を覚ましたリーンはいつもと同じ様に部屋を出て、階段を降り、食堂へと向かった。
フレイヤはやはり先に居た。寝ぼけ眼を擦りながら卓へと近づくリーンを笑顔で迎え、「おはようございます」と挨拶をして見せた。
「あぁ……おはよう。」
フレイヤの笑顔はいつもと同じ物だった。屈託が無く、悪意を一切感じさせない、穏やかな笑顔だ。
先日のどことなく悲しげな様子はもう感じられない、そのことに「よかった」とリーンは安堵した。そしてその瞬間、ハッと我に返り舌打ちをした。
一転して不機嫌そうな顔をしたリーンの真意までは、フレイヤには解らなかったが…
リーンが不機嫌な顔をしているのは、フレイヤにとってのいつもと同じ事だった。
顔を横へ向け、露骨に視線を合わせようとしないリーンに苦笑しながらも、フレイヤは卓のベルを鳴らした。

「もういっちゃうのね…寂しくなるわ…」
名残惜しそうにリーンにそう言ったのは女将だった。
'もう'と呼ぶにしては既に1月以上はこの宿屋で世話になっている、旅人の滞在期間としてはむしろ長すぎるくらいだ。
出会いもあれば、別れもある。宿屋を営んでいる人間であるならば、それは尚の事だ。
だというのにここまで寂しそうな顔をして、別れを惜しまれるとリーンはなんだか申し訳ないような気持ちになった。
「今まで…本当に世話になった。有難う、女将さん。」
「…えぇ、元気でねリーンちゃん。またヘネシスに来ることがあるなら必ず顔を見せてね。」
そう言って、女将はリーンの頭を優しく撫でまわした。
公衆の面前で気恥ずかしい物をリーンは感じたが、抵抗はしなかった。
それはやはりリーンとて、別れを寂しいと感じる所があったからだろう。
しかしこのままでは寂しさは大きくなる一方だ、そう感じたリーンはやがて顔を上げ。
「あぁ。約束する。」
屈託のない笑顔で、女将にそう言った。


「おや、もういいのですか?」
宿屋から出て、扉のすぐ隣でフレイヤは立っていた。
リーンが女将から可愛がられている事は、フレイヤも知っている事だった。だからこうして、水を差さないよう先に外へ出ていた。
リーンは「あぁ。」と小さく答えた。
その表情はいつもと同じくどこか不機嫌そうで、固い顔だった。
「…なんだ?」
何も言わずに、じっと自分の顔を見つめるフレイヤに疑問を思ったのか、リーンはそう問う。
「いえ…貴方も素直に礼を言ったり、笑ったりできるのだな、と思いましてね。…私にもそういう態度を向けてくれてもいいのですよ?」
「…盗人に礼の言葉などある訳無いだろう。馬鹿な事を言っていないでさっさと行くぞ。」
「これは手厳しい。」
そう言ってフレイヤは大げさに両手を顔の横に上げて、首を振って見せた。
そして、それ以上は何も言わずに歩き始める。リーンもその後ろに続いた。
(…笑顔か。)
思えば、あんなに屈託の無い笑顔を見せたのはいつ振りだろうか?
…自分に笑顔を見せるような資格など、無いというのに。
そうだ、自分はそもそもこうやってのうのうと生きている資格など…
(いや…)
そこまで考えて、リーンは首を振るい思考を彼方へ吹き飛ばした。
今はこんな事を考えるのはやめよう。今するべき事はそんな事じゃない。
(…それに、事が済んだら散らす命だ。だから今はどうあってもいいじゃないか。)
そう自分に言い聞かせ、リーンは少し早足でフレイヤの後に続いた。


夜になった。
フレイヤが次の目的地としている町の名前はカニングシティーという名前であり、ヘネシスから歩いていけば丸1日はかかるという事だった。
故に、途中で野宿を挟む事は覚悟していたし、その事に対してリーンに不満はなかった。
「…ん。」
リーンはいつの間にか眠っていたらしい。眼を擦って体を起こすと、覚えのない外套がリーンに被せられていた。恐らく、フレイヤが被せたのだろう。
パチり、パチりと木々の弾ける音が焚火から聞こえる。それを前にして、フレイヤは座り込んでいた…目もしっかり開いている。
「フレイヤ?」
そう声を掛けると一瞬、驚いたような表情を見せてフレイヤはリーンの方へと顔を向けた。
「…あぁ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
「いや…」
別に起こされた訳ではない。リーンが自分で勝手に目を覚ましただけだ。
…それ以前に、リーンはここ数ヶ月間まともに熟睡できた試しは無かった。
リーンは、眠りに落ちる度に夢を見る。その度合いは日によって違うが、リーンが毎夜見ているのは…間違いなく悪夢だった。
酷い時は叫び声と共に目を覚ます時がある。今日はそのような事は無かったし、先ほどまで見ていた夢の中身をリーンはもう忘れてしまっていたが、'悪夢を見ていた'という事だけは間違いがない。背中に流れる冷や汗がその証拠だろう。
そう考えると、リーンは再び眠りに付くのがなんだか怖くなった。ましてや、間違って悲鳴を上げてしまうような事があればフレイヤに何を思われるのかも解らない。
「…フレイヤは寝ないのか?」
「…ここは比較的に安全な場所とは言われていますが…'守護陣'がある訳ではないですからね。見張り役は必要でしょう。」
「…。」
確かにそうだ。何一つ気にしていなかったが、ここは安全地帯では無い。
この場所について、火を起こして夕食を摂ってる最中にもフレイヤはそんな事を一切口に出さなかった。
リーンに一切の負担をかけず、最初から自分が見張りをやるつもりだったのだろう。
きっと、リーンが朝に目を覚ましていれば、フレイヤはあたかもリーンより少し早く起きたような態度で接してきたに違いない。
それに気づいて、様々な。そして複雑な心情を全て吐き出すように、リーンは深く溜息を吐いた。
「…寝ろ。見張りは交代する。」
「お気になさらずともいいですよ?私はこういう事には慣れていますから…」
「町までまだ距離があるんだろう?寝不足状態で何か間違いがあってケガでもされたら困るんだ。…お前は、僕の剣の師なんだろう。」
リーンが見張りを交代すると申し出たのは、眠る事で悪夢に苛まれたくないから…と、いうのも勿論ある。
だが、それ以上あったのは………尤も、リーンはそれを認めようとはしないであろうが。
そんなぶっきらぼうなリーンの態度に、フレイヤは優しく微笑んだ。
「…そうですね。ではお言葉に甘えて休ませてもらいましょうか。…有難う、リーン。」
「フン…」
そう言って、フレイヤは横になった。
平気そうな顔をしていたが、やはり疲れていたのだろう。寝息は、ほどなくして聞こえてきた。


見張り役、とはいえ何かが起こるような気配は一切なかった。
魔物の声は聞こえず、聞こえてくるのは優しい虫の音色と…焚火の中の木々が弾ける音だけだ。
少し肌寒い。よくよく見ると、火が小さくなったような気がする。
リーンは近くにあった木の枝を何本か掴み、それを小さく折り焚火の中へと放り投げた。
ざっ、と火の粉が舞い上がり、火は少し大きくなって…声が聞こえた。
「……ッ――」
何事か、とリーンは身構えて辺りを見渡す。
しかし、その声の発信源が横になっているフレイヤだと気づくと、ほっと胸を撫でおろした。
「めん…なさい…」
「?」
寝言、なのだろう。
言葉が切れ切れになっており、何を言っているのかリーンにはよく解らなかった。
「る…さない…」
やはり、聞こえない。
何と無しに気になって、リーンは少し体をフレイヤの方へと傾けた。
だが、そもそもしっかりと発音できていない寝言に聞き耳を立てた所で何を言っているか解る筈もない。
しばらく、聞き取れない言葉をごにょごにょと口にしていたフレイヤだったが…たった一つだけ、聞き取れた言葉があった。
「ヨシュア…カルセム…」
それは人の名なのだろうか。
ヨシュア…きっと男の名なのだろう。
一体誰なのだろうかと、解る筈の無い疑問をリーンは考えようとした…その刹那に。
パチり、と少し大きな音は出して焚火が弾けた。
その音にリーンは少し驚き…すぐに静寂がリーンを包んだ。
それがあまりにも静かな物だから。
フレイヤは、最初から何も言っていなかったのでは無いのだろうかと、リーンは錯覚した。

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| 小話 | 23:39 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

九英雄関係者だ!
すごく丁寧に進んでいくのでぼくはうれしいです。
このくらいのボリュームがあると話として重厚感が出ると
よく分かりますねぇ。

| あ | 2018/06/04 23:52 | URL |

重厚感わかる
あごもがんばれ

| らがくた | 2018/06/05 19:39 | URL |

あ>
重厚感・・・?重厚感?

らがくた>
重厚感ってなに!?

| L | 2018/06/05 23:42 | URL |















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