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英雄。15

朝食を取り終えた後、リーンは30分ほど時間を置いて外へ出た。
太陽は燦々と輝き、それでいて熱くも無く、寒くも無い。まさに何をするにしても理想的な天気だ。
(いい天気だな…)
今日までずっと情緒不安定な状態が続いていたリーンにとって、こうやって落ち着いた気持ちで外に出るのも随分と久しぶりだ。
これまでは外の天気など快晴だろうが、雨が降ろうが、リーンには全て同じ物としか思えていなかったのだ。
少し深呼吸をして、辺りを軽く見回す。早朝だというのに早くも町は活気に満ち溢れ、そこかしこで人の笑い声や威勢のいい商人の声が聞こえる。
フレイヤはまだ来ていない。リーンが外に出る前に、店主と何か話しているのは確認していたので宿屋の代金を払っているか…昨日、血まみれで自分が運ばれてきた事の説明をしているかのどちらかだろう。
何もしていないのも退屈だったので、リーンは何気なく準備体操を始めた。

(…そういえば、昨日の'アレ'は一体何だったんだろうか)
屈伸運動を繰り返しながら、リーンはぼんやりと昨日の事を振り返る。
眼からの出血が止まらず苦痛に喘ぐ中、リーンはこの宿屋に連れてこられた。
痛みやら何やらでそれを口にすることはなかったが、あからさまに重症な人間を宿屋に運ぶのは間違いだろうと思った事は覚えている。
だが…部屋に入るや否や、フレイヤはリーンの右眼に掌を向け'何か'を唱えるとみるみる内に痛みは和らぎ、やがて血は止まったのだった。
(あの時…アイツは何をしたんだ?あんなのまるで…)
おとぎ話の中に出てくる'魔法'のようでは無いか。
(…。)
単調な屈伸運動を続けながら、リーンは更に思考する。
心が安定した今になって思えば、どうして考えてこなかったのかと却って不思議なくらいだが…リーンは漸く今、自分がいる場所について考え始めた。
思い返せば…今いるこの場所はリーンにとって不自然な点が多すぎる。
(この町…ヘネシスと言ったか。これ程の町なら直接関わる事は無くとも僕が知らないという事は、まずあり得ない。)
一国の皇を務めていたのだから、世界の国々の名前ぐらいはリーンは把握している。
だが、このヘネシスという町はこれまで来たことは勿論、聞いたことすらなかった。
これほど活気に満ち溢れた場所なら…詳しく調べなくとも解る、間違いなく此処はこの国にとって重要な立ち位置にある事は間違いない。
そんな場所をリーンが'知らない'。というのはあり得ない事だった。
更に屈伸運動を続け、思考する。
(次に通貨の'メル'。これも聞いたことが無い…)
このような町で使われている通貨ならば、リーンの国にとっても無関係でいられる筈が無い。
貿易やら何やら…必ず何処かでリーンの国と繋がりが無ければおかしい。
(そして、何よりアイツが使ったあの'魔法'のような物…)
あれは'ような物'では無く、'魔法'そのものではないのか?そして、ここではそれを使えるのが当たり前なのではないか?
だからこそ、宿屋の主人は何も言わずに血まみれの客人を中に招き入れたのではないか?それを治す手段が有ると解っていたから。
(だとすれば…ここは…いや、'この世界'は…)
「おや、自発的に準備運動とは感心感心。」
思考しきっていたリーンは突如かけられた声に思わずビクりと体を震わせる。
振り返ると、そこにはいつの間にかフレイヤが立っていた。いつも通りの朗らかな笑みで。
「ですが、屈伸だけではあまり効果がありませんよ?もっと体全体を解さないと。」
その指摘を受けて、ようやくリーンはさっきから考え事に集中しすぎて、間の抜けた屈伸運動をひたすら繰り返していた事に気が付き…その姿の滑稽さを想像し、少し顔を赤らめた。
「…解ってる。これから…やるつもりだったんだ。」
負け惜しみのように言葉を吐き、リーンは体勢を変えた。


「それで?今日から僕は何をすればいいんだ?」
準備運動を終えた後、リーンはフレイヤにそう聞いた。
そう言われた彼女は「そうですねぇ…」と、顎に手を当て考える。
そんな彼女の態度にリーンは軽く呆れたように言った。
「…人に剣を教えると言っておいて、まさか何も考えて無かったのか?」
「いやいや、考えて無い訳ではないですよ?ただどういう順序でこなしていくのがベストなのか、とね。」
そういうフレイヤの表情に後ろめたさのような物は一切無かった。どうやら'考えていない訳では無い'という言葉に嘘はないらしい。
うーむ、とフレイヤは小さく声に出しながら、リーンの体を頭から足の爪先にかけて舐めるように見回し…やがて答えが出たのか「うん。」と小さく頷いた。
「この宿屋の外周は…約300m程と言った所ですかね。」
宿屋の外観を見ながら、フレイヤは何気なくそう言った。
「…?それがどうした。」
唐突に出たフレイヤの言葉にリーンは疑問の声を出した。
剣の修行と宿屋の外周に、一体何の関連性があるのか全く解らなかったからだ。
そんなリーンの気持ちを露知らず、フレイヤは当たり前のように告げる。
「私が'いい'と言うまで…リーン、この宿屋の外周を走りなさい。」
「は?」
「'は?'と言うほど難しい話では無いでしょう?とにかく何も考えずに走りなさい。何周したかどうかも数えなくて結構。私が見ていますから。」
「お前…僕に剣を教えるんじゃなかったのか?」
「'お前'では無く、'フレイヤ'です。…さぁ、いいから黙って走りなさい。師の命令です。」
「えぇ…」
困惑した表情を浮かべるリーンとは対照的にフレイヤの表情は至って普通だ。…いや、'お前'呼ばわりされたからか少しばかり不機嫌に見える…気もする。
これ以上、何かを言っても無駄だろう。リーンは少しむくれたように走り出した。


剣の修行。それ自体はリーンが皇帝の座に就くまでは毎日欠かさずやってきた事だった。
しかし、こんな原始的な走り込みを行った事はこれまで無かった。
修行が始まれば、'講師'と模造の剣を打ち込み合い、適当な所で終了。リーンにとっての剣の修行とはそういう物だ。

…正直、その'講師'からしてみれば堪ったものでは無かったのだろう。
そもそもリーンはやがて国の長となる皇帝の一族。国宝の剣はあれど、剣技を代々継いでいるような家系では無い。だから剣の修行も、外部から講師を招いて行っていた。
この話を持ち掛けられた時、講師は悩んだ。
未来の皇となる人間を厳しい修行で傷付ける訳にもいかず、かといって断るわけにもいかない。
そもそも、争いも何も無い平和なこの国で皇自身が剣術を覚える必要が何処にある?そういった荒事がもし起こるのであるならばその時は兵士に任せれば良い。
皇子なら皇子らしく、やがてその座を継ぐ時に必要になる知識をしっかり覚えればいいのだ。
この話も、暇を持て余した幼い皇子が思い付きで言い出した話に過ぎないのだろう?
様々な思いが頭で混沌としながらも悩みに悩んだ末、講師が出した答えは…言ってしまえば'チャンバラごっこ'の延長だった。…尤も、リーンはそれに気付いていなかったのだろうが。
そのような背景もあり、こういった走り込みはリーンからすればこれまで全く縁が無かった訳で…


(ハァ…ハァ…い、今は何周目だ?)
もうこれが何周目になるのか解らない。
フレイヤは'数えなくていい'と言っていたが、走り出した最初の何周かはリーン自身も数えていた。
それが、10周、20周と重なるにつれ…段々そのような余裕も無くなってきたのだろう、自分の思考を全て呼吸と足を動かす事に集中し始めた為、自分が何周したのか解らなくなっていた。
フレイヤは走っているリーンの様子をただずっと見ている。…時折、ニヤけたような、おちょくっているような表情になっているのは気のせいだろうか?しかし、未だに'いい'という言葉は無い。
(いつまで走らせるつもりだよ……!!!)
内心で恨み言を吐きながら、リーンはただただ走り続ける。


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(もう…もういいだろ…?いいと言ってくれよ…頼む…)
今にも泣きそうな顔を浮かべつつ、リーンと通り過ぎる瞬間にフレイヤの顔を見た。
その表情に気づいたフレイヤはただニコりと笑みを浮かべるだけで何も言わない。
頭の中はいつのまにか恨み言より、もうやめたい、もう勘弁してほしい。といった泣き言の方が多くなってきていた。
(い、今は…何周目だ……?最後に…数えた…時…からどの…くらい…経った…?)
思考の中ですら、最早息絶え絶えだ。
脇腹は刺される様に痛み、足の感覚も若干無くなってきている。
それでも尚、足を動かし続けようとしたリーンだったが…
(もう…ダメだ…)
やがて、糸が切れたようにリーンはその場に倒れ込んだ。

リーンが倒れ込んだ瞬間、フレイヤは即座にリーンの元へ駆け寄り、抱き起こして手に持った容器をリーンの口に当てがった。
容器の中から出て、口を湿らす物が何なのか始めの内は理解できなかったが、やがてそれが水であると認識すると狂乱したようにそれを飲み込み始め…
「ゴホッ…!ゴホッ…!!!ウエェェ…」
むせた。
呆然としていたリーンの意識が、急速に蘇る。
ぼんやりとしていた視界もくっきり見え始め、やがて見えたのはフレイヤの顔だった。
「お疲れ様です。もう'いい'ですよ。」
「もう…'いい'って…お前…な…」
息絶え絶えに喋ろうとするリーンの口をフレイヤは人差し指で軽く抑えた。無理に喋ろうとするなという事なのだろう。
確かにもう喋る事はおろか、考える事すらリーンにはできそうにない。
リーンはただ水を飲み、呼吸を落ち着かせる事に全てを集中した。


そこから数分。ハァ…ハァ…とまだ少し呼吸の荒いリーンだったが、ようやく話せるレベルには落ち着いてきた。
それが解ったからなのか、フレイヤはリーンが何かを話し始める前に視線を外し、リーンが走ってきた宿屋の外周を見遣る。
「51周…まぁ大体15kmって所ですね。いやはや解ってはいましたが…やっぱり貴方、体力がありませんね。」
「…ハァ?…。」
『散々人を走らせて置いて、何を言い出すんだお前は。』
リーンの率直な感想はこうだ。だが、それを即座に言葉に出せるほどまだ体力は回復していない。
そんなリーンの心情に構う事なくフレイヤは「まぁ、ともあれ」と更に続ける。
「ひとまずの方針は決まりました。リーン、これから毎日今日走った量と同じ分…つまりこの宿屋の51周分を走りなさい。」
「ハァ!?」
「慣れるまではそれで一日の修行を終えて結構。まずはとにかく体力を付けなさい。何をするにしてもまずはそれからです。」
当たり前のようにそう言ってのけたフレイヤにリーンは苦悶の表情を向ける。
(これから…毎日…この量を…走る!?)
リーンの心境を一言で言うのならば'絶望'だった。
あの辛く…いっそ、死んでしまった方がマシとまで思える走り込みをこれから…毎日!?
苦悶の表情はやがて、縋るような顔へ変わる。そうすれば「冗談ですよ。」と笑って言ってくれるのでは無いかとリーンは僅かに期待したからだ。
だが、そんな顔を向けられてもフレイヤの表情は変化無く飄々としており、何も言ってはくれなかった。
(あぁ…やっぱり…朝の段階で死んどいた方が良かったかなぁ…)
苦悶と絶望の狭間の中でリーンは眠るように気絶した。

※キャラ紹介に「FreyjaKurusimo」と「ErcPallmall」を追加しました。
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| 小話 | 09:33 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

SSついてるの偉いぞ!
しかしこれフレイヤさん別垢なのか?

| あ | 2018/05/08 11:10 | URL |

おきてつづきをかいて

| ら | 2018/05/08 14:53 | URL |

>あ
一件SSのように見えるかも知れないがこれは某シミュレーターで加工してあるだけなのである。
フレイヤさんは別垢では無いぞ!

>ら
Zzz...

| LeanKurusimo | 2018/05/08 18:14 | URL |















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