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英雄。9

―父と母が急逝して、今日で丁度1週間。
ファレンス皇国の皇帝と皇妃が同時に失われたこの悲劇は、当然ながら民にも衝撃的な報せだった。
事故、だった。皇と皇妃が隣国へ出向いたその帰り道、二人を乗せた馬車が崖から落下した。文字に起こせばたったこれだけの話だが、それが起こした騒乱は筆舌尽くし難い物だった。
嵐のようなこの一週間だったが、今日になってようやく少し落ち着きの様な物が見え始め、リーンは漸く、こうして落ち着いて父と母の墓前にやってくる事ができたのだった。
『ファレンス皇国を愛し、民を愛し、そしてファレンス皇国に愛され、民に愛された偉大な者達に安からな眠りを。』
そう刻まれた墓石に手を当てて、リーンは祈りながら目を閉じた。
「父上、母上。この国は僕が、必ず…」
言葉を言い終える前に、リーンは口を紡ぐ。
『真なる決意は口にすれば軽くなる。』
父によく言われた言葉、それを思い出したからだ。
(行こう…明日からはもっと忙しくなる。)
閉じた目を開いて、振り返ると少し離れた所に青年が一人立っていた。
「カノン。」
カノンと呼ばれた青年は、軽く手を上げた。…その表情は複雑な物だった。
リーンに対して、どう接すればいいのか、どう声を掛けるのが正解なのか解りかねているようにも見える。
「もう、いいのかい?」
カノンはリーンにそう優しく声を掛けた。
「あぁ、大丈夫だ…。」
「…君の父上と母上…いや、陛下と皇妃様の事は、本当に…残念だった。」
まるで自分の父と母の事のように、悲しそうにカノンはそう言った。
心の底から自分を想ってくれている彼を安心させるように、リーンは首を横に振った。
「本当に大丈夫だよ。…それに、明日から忙しくなるんだ。いつまでもこうしては居られないよ。」
「そっか。じゃあ、もうリーンは正式に皇帝陛下になるんだね。」
「だからって、'陛下'だなんて堅苦しい呼び方、お前はしないでくれよ?」
リーンはそう言って軽く苦笑した。それを見て、カノンも少し安堵し、同じように苦笑して見せた。
カノンはリーンの幼い頃からの友…親友と呼べる存在だった。
生まれも、身分も全く違う二人だが、そういった物を一切感じさせない'距離'が二人の間にはあった。
「明日、戴冠式が行われる。それで僕は正式に皇帝になる…でも、お前にはこれまでと同じように僕の友でいて欲しい。」
「勿論だよ、リーン。」
少しばかり、頬を紅潮させてそう言ったリーンに、カノンは優しく微笑みながら言った。
先ほどのような苦笑では無く、優しい、本当に優しい微笑みだ。
根っからの善人で無いと、きっとこのような表情は作れないだろう。リーンはそう思う。
「それで…だな、お前さえよければ明日から僕の専属の執事になって貰いたいと思ってるんだが……って、たった今言った事と矛盾してるか…?これは。」
「ははっ、執事として、だけどそれ以前に友として。って事かい?」
「そう、そんな感じだ。…どうだろう?」
「うん、僕でよければ。喜んで力になるよ。」
悩む素振りも見せず、カノンはそう答えた。
それを聞いて、リーンは安堵したのか、少し声を張り上げ、言う。
「…よかった!有難う、カノン。」
正直、これから先の事を思うと、リーンは不安で心が押し潰されそうだった。
だがそれでも、友が傍にいるならきっとどうにかなる。気休めでしか無いかもしれないが、その気休めがとてつもなく愛おしい。
「リーン。一つだけ、いいかい?」
消沈していた友が少し元気を取り戻してくれて嬉しい…嬉しいのだが。
カノンは一つだけ気掛かりな事があった。
「君は…泣かないのかい?」
「…。」
言われてみれば、リーンは父と母が亡くなったにもかかわらず、全く涙を流していなかった。
いや、そう言うより…
「泣いている時間なんて、無いよ。」
父と母が、皇と皇妃が亡くなったという事は次の皇は自分だ。
涙を流している場合なんかじゃない、そんな姿を見せれば民を不安にさせるだけ。
そう直感していたのだろう、だからここまで涙を流す事は無かった。
「君が考えている事は解っているつもりだよ。でも、せめて僕の前でぐらい…そういう姿を見せてくれてもいいんだよ?」
「カノン…」
「リーンの考えている事は本当に立派だよ。でも、涙を見せない強さは諸刃の剣でもあると思うんだ。感情を封じ込めれば…その内に心まで封じ込めてしまう、そんな気がするんだ。」
自分の事を本当に真摯に考えてくれている、その気持ちが痛いほどリーンに伝わってくる。
だが、それでも。
「…でも、僕が悲しい時はお前が泣いてくれるんだろう?」
そう言われて、カノンは自分の瞳から涙が溢れている事に気が付き、それを指で拭いた。
それを見て、リーンはそっと微笑む。
「なら、大丈夫さ…行こう、カノン。」
例え、涙を流せなくなったとしても。自分の為に涙を流してくれる友が傍に居てくれるなら。
きっと、きっと大丈―




「ッ!?」
飛び起きる。日はとっくに落ちており、周囲は闇で覆われていた。
「夢…か。」
リーンはそっと溜息を付く。
いっそあれが夢では無く現実ならば…そう思った瞬間にリーンは首を振り考えるのをやめた。
(結局、何も変わりはしない…)
それはもう解りきっている事だ。だって、何度もやってきた事なのだから。
「ィツツ…」
ベッドから起き上がろうとした時、腰の辺りに痛みを覚える。
その痛みでぼんやりとしていたリーンの思考は徐々にクリアな物へとなっていった。
(確か…森に入って…魔物に襲われて…)
あの、女に思い切り蹴飛ばされた。尤も、それは自分に飛び掛かる魔物から守る為だったのだが。
複数の魔物に囲まれていた筈だったが、女はそれをあっという間に蹴散らし、何事も無かったように自分の元に来たのはなんとなく覚えてはいるが…
そこから先の事は疲れと痛みであまり覚えていない。
いつここに来て、いつから眠っていたのかもいくら思い返してみてもサッパリだった。
それから少し間を空けて、リーンは、ハァと大きく溜息を付いた。
冷静になって考えてみると…正直、女から剣を取り返すのは難しいのでは無いかと思い始めたからだ。
森の中で、どれだけ必死に飛びかかってもリーンの手は剣どころか、女の体にすら触れる事ができなかった。
女だから、と決して手は抜いていない。全力で飛び掛かったり、緩急を付けたり、フェイントを入れてみたりと自分ができうる事をやったつもりだ。
だが、それでも届かなかった。それどころか汗一つ女は流していなかったでは無いか。
(力づくで取り返そうとしても無理、か…)
そう思い至り、リーンはまたしても溜息を付いた。
(そういえば、昔似たような事があったな…)
かなり昔の話、リーンがまだ10歳にも満たない子供の頃の話だ。
皇族出身であるにもかかわわず…いや、寧ろ皇族出身だったからだろう、リーンは学校で嫌がらせを受けていた時期があった。
皇の子供に嫌がらせ等、大人からすれば考えられない事だが、年端のいかない子供にそんなものは通用しない。
確か、その日は体格の大きい子供に自分の筆記用具を盗られたのだったか…確かそんな理由だった気がする。
そして、リーンは何を思ったかその子供にこう言い放ったのだった。
『お前に決闘を申し込む!!』
と。そう言った時にカノンの驚いた顔だけは今でもよく覚えている。全力でそれを止めていた事も。
それから棒きれを手に取ってその子と決闘…という名の喧嘩が始まって…体中傷だらけになって何とかそれを取り戻したのだった。
(あの後が確か大変だったんだよなぁ…向こうの両親が父上に打ち首覚悟で謝罪に来て…僕は僕で父上に『私情で民に手を出すとは何事か!!』と叱られて…)
今にして思えば、あの時カノンが止めていたのはこうなる事が解っていたからだったのではないだろうか?と、今更になって友の真意を理解した。
懐かしい記憶にふっと、笑みが零れそうになった瞬間、
(そうか!)
リーンは何かを思い立ち、体の痛みも忘れて部屋から飛び出した。

「はぁ…決闘、ですか。」
「そうだ。」
場所は変わって女が休んでいた宿屋の一室にリーンはやって来た。…やって来たというより廊下で『何処だ!いるんだろう!?』と騒ぎ立てるリーンを慌てて女が部屋に連れ込んだというのが正しいが…閑話休題。
「決闘というからには武器を使って、という事ですよね?貴方、他に武器があるのですか?」
「そんな物は無い。だから僕に武器をよこせ。」
当たり前の様にリーンは女にそう言った。
そんな尊大なリーンの態度に女は何とも言えない表情をして見せた。
「言っておきますが、この武器は渡しませんよ。」
そう言って、女は腰に提げているリーンの剣にそっと手で触れた。
まぁ、そんな事は言われずとも解っていた話だ。
「別にその剣じゃなくてもいい、なんでもいいから僕に剣をよこせ。それで構わない。」
「ふーむ…」
決闘を申し込み、挙句の果てには武器はそっちが用意しろというリーンの言い分は支離滅裂だ。
だが…リーンのその表情を見て、女はそっと笑みを浮かべた。
「解りました。なら明日は武器屋に行きましょう。幸い、ヘネシスは栄えている町です。きっといい物もあるでしょう。…ちなみに貴方、剣の腕に覚えがあるのですか?」
「当然だ。」
力強くリーンはそう答える。実際、皇族の教育の一環として剣技は昔から叩き込まれている。
だからこそ、リーンは剣を持った逃げ場の無い1対1の戦いなら勝機があるのでは無いか、と踏んだのだから。
「よろしい。では、明日の朝…朝食を食べた後に武器屋へ行きましょう。」
「あぁ、分かった。…逃げるなよ?」
「ご心配無く。決闘から逃げるのは剣士の恥ですからね。」
「…盗人風情がよく言う。」
そう言われ、女はハハハと軽く笑って見せた。
その様子を見て、リーンは小さく鼻を鳴らし、そのまま部屋を後にした。
「…少し、表情が生き返りましたかね。」
女は一人、そっと呟く。
表情も心も全てが死んだ様に思えた少年が、ようやく生きた顔を見せたのだ。それがたまらなく嬉しかった。
「さーて、明日からまた少し忙しくなりそうですね。」
そう呟いて、女は部屋の明かりを消した。
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| 小話 | 01:42 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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