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英雄。6

少し、落ち着いた2人は橋の縁を背もたれ代わりにし、座り込んでいた。
リーンは、自分から声を出すつもりは無い。ただただ横で座っているメイフィから掛けられる言葉を待つだけだった。
まだ、彼女から声を出すような素振りは無い。
彼女は迷っていた。
何から聞けばいいのか、そもそも聞いても本当にいいのか。
このまま、放って置けば朝日が昇っても彼女は何も言わないままかも知れない。
だが、リーンはそれでもよかった。彼女が口を開くまでリーンはただただ待ち続ける、そのつもりだった。
「…リーンさんは…リーンさんは本当に聞かれてもいいのですか?」
尚も、迷っている彼女はリーンにそう問う。
勝手に人の記憶を覗き見しようとした人間が、何を言っているのか。
自分の発言の矛盾にメイフィは顔を歪めたが、リーンは特に気にする素振りを見せずに返した。
「まぁ、本来ならば自分の事に付いて何かを問われたら、はぐらかすつもりではあったさ。」
そう言って、リーンは半ば無意識に左手を眼帯の方へと動かした。
紅に染まった眼帯に手が触れた時「くしゃ」と水気が含まった小さな音を感じ、リーンはすぐに手を元あった場所へ戻す。
眼から流れる血は止まっても、まだ乾くのは先のようだった。
「だが、あの'本'を読ませるぐらいなら…自分の口から語った方がまだいい。どうしてメイフィはあの場所に行ったのかは解らないが…また同じ事が起きる可能性は0では無いからな。」
そこまで言い切って少し間を置いた後に、リーンは「それに」と言葉を続ける。
「どうしてだろうな。メイフィなら別に聞かせてもいい。いや…どうしてだろうな。メイフィだからこそ聞いてもらいたい。そう思っている自分もいる。」
それはどういう意味なのか。それはメイフィには解らなかった。
だが、気のせいかもしれないが、やや頬を赤く染めている様に見える彼の横顔はメイフィに安心感を与えてくれた。
その安心感に流されるように、メイフィの口は自然と開き言葉を紡いでいた。
「…貴方は一体、'何者'なのですか?」
自らが'何者'であるのか。
こう聞かれれば大体の人間は言葉を詰まらせる事になるだろう。
自分の本質など理解している人間等少なくて当然だ。
だが、きっとメイフィが聞きたいのは'本質'やそういった物では無く、'他の人間が経験しようの無い特殊な過去'であるという事はリーンは理解した。
そして、'それ'はリーン自身、覚えがある。
「…僕は、この世界の人間では無い。」
その言葉に含まれるのは哀愁、或いは哀感、或いは…懺悔。
「ここでは無い、別の世界から来た。」

その言葉を聞いても、メイフィは特に疑問を抱くことは無かった。
あまりにも馬鹿馬鹿しく、現実深が無い言葉であったが、それをメイフィはすんなりと信じる事ができた。
無論、先ほどあった出来事もそうさせている要因の一つではあったが、それが無くともメイフィはこの言葉をすんなりと信じていたと思う。
「さっきの'力'を見ただろう?これは有体に言えば…「次元を操る力」だ。この力で、僕はこの世界に飛ばされてきた。」
「それは…どうして?」
メイフィの疑問は当然であったし、リーン自身もそれを聞かれたら答えるつもりではあった。
だが、いざ口にしようとすると、様々な想いが蘇り、それを阻もうとする。
聞いてくれ、と言ったのは自分だ。何を戸惑っている、まるで自分自身にそう言い聞かせるようにリーンは首を震わせ、言葉を紡ぎ始めた。
「…その世界にはある国があったんだ。とても大きな国とは言えなかったが…人も、大地も豊かでとてもいい国だった。」
そう、言ってリーンは顔を歪ませる。
だが、それでも言葉を続ける。
「だが、ある時…その国は一夜にして、唐突に、隣国に滅ぼされた。民は殺され、犯され、生き残ったのはまだ若い王一人だった。」
メイフィの脳裏にはその悲惨な光景は自然と浮かんできた。
聞いてるメイフィも辛くなっていくが、それでもメイフィは何も言わずただ、リーンの言葉を待った。
「その時に、王はある'力'を手にした。それは'力'の一言で済ますにはあまりにも途方も無い物で…ありとあらゆる秩序や法則を無視した'奇跡'と言ってもいい物だった。」
「…。」
「その'力'を持って、王は時を渡り、国の運命を変えようとした。隣国からの魔の手を退けるため、国の防備を固めた。奇襲がまさか迎撃されると思ってはいなかったのだろう。その戦に国は勝利する事ができた…だが…」
滅びの運命は、それだけでは変えることができなかった。
ある時は、また別の国からの戦争で。また、ある時は疫病で。また、ある時は災害で。また、ある時は、ある時は、ある時は、ある時は、ある時は。
「国が滅びる度に、王は時を渡り、手を打った。時には民を犠牲にするような事もした。いずれ、国に不利益をもたらすと解った人間は、その前に自らが手にかける事もあった…だが…」
王はそうする事で滅びから回避できる事を理解していても。民はそれを知る術は無かった。
民の一人が言った、「王は狂っている」と、その一声で引き金となり、民の意識は次々と変容していった。
『奴は狂王だ。』『王は悪だ。』『王を倒せ。』『王を殺せ。』と、
「そして、最後には…王は友にその身を剣で貫かれた。その時に、王は理解した。自分のやってきた事は全て無駄だったと。自分は何一つ救う事ができなかったんだ、と。そして、次に彼が目覚めた時、まったく知らない土地にいた。」
そこまで、言い切ってリーンは自嘲気味に息を吐いた。
メイフィは、何も言わない、いや、何も言うことができない。
彼は、リーンは、一人でそのような苦悩を背負い続けて来たのか、と。
そう考えると、のほほんと生きていた自分如きが言える言葉は何一つ無かった。
そのメイフィの気持ちを理解してか、リーンは困ったような笑みを浮かべた。
「まぁ、こんな所かな…異世界の愚かな人間の話さ。」
メイフィは、また謝りそうになった。
やっぱり、踏み込んではいけない領域だった。
こんな話をさせて、辛い話をさせて、ごめんなさいと。
それを口にしようとした瞬間に、リーンの指がメイフィの口を塞ぐ。
「謝る必要は無い。僕が望んで話した事だ。…それに、まだ聞きたい事があるんじゃないのか?」
そう、そしてこの後に及んで、メイフィにはまだ聞きたい事があった。
ギルド本部で見た、あの名は一体誰なのか、と。
「溜め込む必要は無いさ。聞きたい事は全て聞いてしまうといい。」
そう言って、いつもと変わらない朗らかな笑みをリーンは浮かべ…メイフィはゆっくりとまたもう一つの疑問を口に出した。
「フレイヤ…フレイヤ=クルシモさんは…リーンさんとどんな関係があるのですか?」

その問いに対して、リーンの反応は先ほどとは打って変わった物だった。
目を丸くし、自分が何を言われたか解っていない様な、呆けていると言ってもいい、そんな表情を隠すこと無く見せた。
「一体何処で…その名前を?」
やや声のトーンを上げてリーンは逆に問う。
その反応はメイフィにとって少々以外と思える事であったが、その名を知った経緯を正直に口にした。
「今日、ギルド本部でレアさんの手伝いをしていた時です。…過去に存在していたギルド資料がたまたま残されていた様で…」
そして、その資料は「Assemble」という名のギルドの資料であった事、メンバーは「フレイヤ=クルシモ」ただ一人であったという事。
そう伝えると、リーンは「そうか…」と一言、ポツリを零し、回想するように目を閉じた。
その横顔は、やはり悲しげな物であったが、先ほどまでの表情と比べてどこか'救い'がある、どういう訳だがメイフィにはそう感じた。
「こういう偶然も…あるのだな…いや…ここまで来るともはや必然だったのだろうか?」
誰に問う訳でも無く、リーンはそう呟く。
そこで、ふとリーンはメイフィの顔をじっと、見つめた。
どこか、不自然な視線だった。メイフィの顔を見ているが、その瞳は別の誰かを見ている様な。
「フレイヤは…僕の恩人だ。彼女のおかげで、今の僕が居る。そう言ってもいい程の。」
やはり、フレイヤという女性はリーンと関係があったのだ、とメイフィは思う。
リーンが別の世界から来たと聞いた時に、彼女がリーンの祖母、曾祖母では無いとは思っていたが、なるほど恩人。そういう事か………………?
納得しかけた所で、メイフィはある違和感を覚えた。何かが、おかしい。
『はい。開設日を見ると…今から90年程前になりますね…メイフィさん、見つけて下さって有難うございます。』
レアの言葉を思い出し、ハッとした。
今から90年近く前に生きた人間が恩人?だが、リーンの背格好はどう見てもまだ、少年といってもいい程の物だ。
もしかしたら、老年のその女性に世話になった可能性もあるが…どうにもしっくり来ない。
ふと、そこでメイフィは自分の考えを改め直す。
そもそも、自分が一番最初にリーンついて疑問を感じた事はなんだったか?それは、リーンの年齢では無かったか?どうして年齢が気になった?
リーンがその見た目の若さと裏腹にこの世界の歴史や知識をよく知っていたからでは無いか?
そこまで考え、メイフィは半ば確信したようにリーンに問う。答え合わせを求めるように。
「リーンさんは…今、何歳なんですか?」
自分が考えた事が、正しいならきっと…
「年齢、年齢か…あまり数えていないが…単純に生きた年数で言うならもう100年は過ぎた筈だ。」
メイフィの問いにリーンはあっさりと答える。
「これも、'力'の一つだ。簡単に言えば、不老不死だな。尤も、もはやこれは'力'と言うより'呪い'と言った方がいいがね。」
「呪い?」
「'死なない'、というより僕は'死ねない'んだ…ついでに言うと「次元を操る力」も僕にはもう、ほとんど残されていない。今、自分がどうにかできる事と言えば、せいぜい'隣合った次元に渡る'のと、人よりちょっとばかし速く動くぐらいさ。まぁ、それをするだけでも'あのザマ'だから極力やらないようにはしてるがね。」
あのザマ、とは先ほどの出血の事だろう。
どうやら、今のリーンにとって'力'の行使はとんでもなく身体に負担が掛かる物のようだった。
そんな、負担に掛かる事を自分の為にさせてしまったのか、とメイフィは今日、何度目になるか解らない罪悪感を覚えた。
「…少し、長い話になるが…聞いてもらえるか?」
何も言えずにいたメイフィにリーンは空を見ながらポツり、と呟いた。
断る理由は、無い。
今も尚、罪悪感を上回る知りたいという欲求にメイフィは嫌気が差しつつも、無言で首を縦に振った。
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