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英雄。5

不思議な光景だった。
何も無い、透明な空間で突如ガラスが割れたのだ。
ばらばら、と砕けたそれは周囲の光を反射させ、さながらダイアモンドの様な輝きを見せながら周囲に散りばむ。
割れた地点は、それ以上に不思議な、いや不可思議な光景があった。
自分がよく見知っているリプレの町、その一部分がそこに'有った'。
途方も無く、リアルに描かれたリプレの町並みの絵が突如としてここに召還されたのか。
少女は自分でそう考えてから、即座に無理があるにも程がある考えだ、と思った。
そして、その割れた先の空間から一人の男がゆっくりと'こちら側'へ踏み込んで来て、やっぱり間違っていたのだな、と改めて思った。

「…1日で2人も来客があるとは…今日は何だか変わった日ですね…ようこそ、次元の図書館へ。貴方の探している本は何でしょうか?」
男の登場はとても真っ当とは言えない物であったが、動揺する様子も見せずエルクは、客人へ歓迎の定例文を口にした。
最も、歓迎しているのはその言葉を文章として見た場合のみであり、口調、表情は敵愾心に満ちた物であるのは間違いなかった。
「…。」
男は何も言葉を返さず、まずは視線を少女へ向ける。
表情は驚愕、困惑が合わさったような物であったが、別段、怪我をしているという訳でも無く、半分ほどまで表紙が捲られた本も中身を見た訳では無い様だ。
彼は少しばかり安堵の表情を見せた。そして、コツコツと靴音を響かせて少女の隣へ立ち、少女の手を取って本から放し、読ませぬ様に、そのまま自身の手を表紙に乗せて、敵意を持った目で司書を睨む。
「次元の図書館と言ったな。かつてメイプルワールドと一時的に繋がっていた'あの'次元の図書館という事で間違い無いか?」
「…えぇ、仰る通り。」
「なら、話は早い…彼女は返してもらうぞ。抵抗しないのならば危害は加えない。」
遠慮など一切もせず、ただただ明確な敵意だけを込めた一言。
警告、と言うよりも恫喝。そう言った方がいいだろう。
「返す、等とは人聞きが悪い。彼女がここにいるのは彼女の意思による物であるというのに…」
そんな敵意を真正面から浴びても、司書は臆すること無く、寧ろ相手の神経を逆撫でするような言葉を吐く。
その言葉を聞いた瞬間に、彼の目じりは更に釣りあがり、拳はぎちぎちと音を立てながら硬く握られる。
「司書なら、この'本'を開いたらどうなるか。解っているのだろう?」
「えぇ、勿論。」
「…この'本'の内容を、お前は知っているのか?」
「まぁ、ある程度は。ふふっ、貴方も中々数奇な人生を送っていらっしゃるようですね?リーン=ファレンス…いや、今はリーン=クルシモさんでしたか?」
「黙れ。」
明らかな挑発に、男は、リーンは感情を押しとどめること無くそう吐き捨てる。
音が鳴るほどに、血が滲むほどに握られた拳は、いつ解放され腰に提げられた剣に手を掛けてもおかしくない。
流石に、エルクもそれを察したのか、肩を竦めて、それ以上何も言う事はしなかった。
「…もう一度言う。彼女を返して貰うぞ。抵抗するなら…殺す。」
'殺す'。その言葉を聞いた瞬間、メイフィは自分に対して言われた訳では無いのにビクりと肩を震わせ、身を縮こませた。
その様な言葉がリーンの口から出るのを聞いたのは初めてだ。そして、普段の彼は多少シニカルな所はあれど、この様な事は決して口にはしない。
それほどまでに怒っているのだ。自分の記憶を見せようとしたエルクに対して…つまり、それを見ようとした、自分に対しても…
「おお、怖い怖い…別に抵抗するつもりはありませんよ。私はただの図書館の秘書、客人に対してそんな事できる筈はありません。」
白々しくエルクはそう答えた後に、「お帰りはあちらです。」と付け加え、リーン達の背後の扉を手の平を向けて指した。
その言葉を聞いても尚、吊り上げた眼の形は変えること無く、リーンはエルクの顔から眼を離しメイフィの方へと視線を向ける。
普段の彼が見せる事の無い、冷たく、怒りに満ちた瞳をいざ、こちらに向けられるとメイフィは恐怖感で何も言う事ができなかった。
「行くぞ。メイフィ。」
そんな彼女の心境を理解しているのかは解らないが、リーンはメイフィの腕を掴み、やや強引に歩き始めた。
メイフィは半分、強引に体を引っ張られているような形になり、脚がもつれて思わず躓いてしまいそうになるが、寸での所でそれを耐える。
歩き始めると、さっきはあれほどに遠く感じたのが嘘の様に、扉は寸の間に目前に立ちふさがっていた。
リーンは、その大きな扉をぎりり、とゆっくりと開いた。扉から溢れ出る光にメイフィは思わず目を細める。
自分がよく知っているその暖かな光だ。ここを潜れば確かに元にいた場所に帰れる、メイフィはそう確信した。
確信して…ふと、後ろを振り向くと先ほどまでとは嘘のような穏やかな表情をしたエルクの姿があった。
「―。」
何か、何かを自分に向かって呟いた。
それは、あまりにも小さくて聞き取る事はできなかった。
そして…それを聞き返す間も無く、メイフィの体はリーンと共に光へと飲み込まれていった。


「…。」
唐突に現れた客人達が元居た場所に帰り、また静寂が空間を支配していた。
散々、挑発するような事ばかり吐いていたエルクであったが多少なりとも緊張していたのだろう。
扉が閉められたのを音で確認すると、大きなため息を一つ着いて、椅子の背もたれに大きく身を預けた。
『司書なら、この'本'を開いたらどうなるか。解っているのだろう?』
青髪の男が自分に問うた言葉を頭の中で繰り返す。
彼がこの言葉をどういう意味で言ったのか、それはよく解っている。だが…
「私が、彼女の身に危険が及ぶような事をする筈無いではありませんか。」
誰にでもなく、エルクはそう呟き今度は少女の姿を空想する。
終始、困惑した表情しか見る事ができなかったが…少なくとも今、現状が不幸では無いのはよく解った。
いや、そうでなくては困る。でないと自分の決意は一体何だったと言うのか。
…しかし、二度と会えないと思っていたが…何の因果かこうしてまた彼女の姿を目にする事ができた。
それだけで、十分。これ以上に望む事は無い…と、言い切れたらよかったのだが。
「…また、会いたい物ですね…メイフィールド様…」
2度目の再会を願ってしまう、己の未熟さにエルクは悲しそうな顔を少し見せたかと思うと、音も無く、突如として姿を消した。
それから間も無くして椅子の上から、青い雲雀が飛び立って行った。


扉を潜ると、ある種の神聖さを感じさせる静寂から、打って変わって虫の羽音や空気の流れる音が聞こえる空間へと風景が変わった。
これがどういう仕組みなのか、なのかはもはや説明もできない事であろうし、仮にできたとしても理解等到底できる物では無いだろう。
メイフィとリーンがリプレの地に足を踏み入れ、肉体が全てこちら側に移動したと同時に2つの空間を繋いでいた'穴'もまた同時に消え去った。
周囲はまだ暗く、自分たちがさっきまでここにいた時から時間の経過は一切無い事が解る。
次から次へと自分の理解を範疇を超えた出来事が起きていたメイフィは呆けた様にぼうっとしていたが、リーンが発した少し大きなため息を聞いて、ようやく自分が元居た場所に帰って来た事を自覚した。
…そして、今現在目の前にいる人物に対して抱いている途方も無い罪悪感も、自覚した。
「…怪我は無いか?メイフィ。」
何を言われるのだろうかと、恐怖感に駆られていた彼女にかけられたのは、いつもと変わる事の無い労わりの言葉だった。
「は、はい…怪我は…ありません…」
「そうか…なら、よかっ…た…クッ…」
メイフィの安否を確認して安心した表情をふわりと見せると、突如としてリーンの体は崩れ落ち左眼、いつも眼帯に隠れている眼を押さえ跪いた。
あまりに唐突すぎて、一瞬何が起きたかのかメイフィは解らなかったが苦悶の声を上げるリーンを見てタダ事では無い事に気付き、即座に隣に屈み込んでリーンの背中に手を回した。
「リ、リーンさん!?どうしたのですか!?大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ…大丈夫…」
そう言って、リーンはメイフィの方へ顔を向け、引き攣った笑顔を見せた。
メイフィは驚愕する。手で隠しても隠し切れないほどの量の血がリーンの頬を伝っているでは無いか。
瞬く間に紅色に染まっていく純白の眼帯、それと比例するようにメイフィはパニックに陥った。
「あ、あぁ…こんなに血、血が!!す、すぐに手当てを!!」
「落ち着いてくれメイフィ…本当に大丈夫だ。これは…こういう物なんだ。」
「大丈夫な訳無いじゃないですか!!はや…」
「大丈夫だと言っているだろう!!!!!!!!」
「ッ…」
その怒鳴り声で、メイフィは完全に沈黙した。
その言葉がついさっきエルクに放ったあの言葉を思い出させてしまったからだ。
リーンの事が心配である事以上に、リーンに対する恐怖心と罪悪感が勝ってしまい彼女はもう何も言えなくなってしまった。
「あ…すまない…怒鳴るつもりは無かったんだ…」
謝罪の意味を込めてリーンは小さく手を上げた…瞬間にメイフィの体は痙攣したように小さく震えた。
今の状況で何か行動を起こすのは逆効果、そう悟ったリーンは「すまない」と再度謝り、黙った。

30分ほど時間が経っただろうか。
2人は会話をする無く、動く事も無く、時間が止まった様に固まっていた。
そこでふと、リーンは自身の眼から溢れていた血が止まっている事に気付き、ふぅ、と小さく息を付いて彼は血だらけになった左手を地面へと投げるように下ろした。
「ごめんなさい…」
口を先に開いたのはメイフィだった。
押し潰されそうな程に悲痛なその声にリーンも罪悪感が込み上げる。
「いや…謝るのはこっちだ。本当にすまないメイフィ。」
「違う…違うんです…わたし…私は…」
何が違うのか、疑問の表情をリーンはメイフィに向けた。
てっきり、さっき怒鳴ってしまったのが原因だと思ったがどうやらそれだけでは無い、という事にリーンは気付く。
「私は…あの図書館で…リーンさんの事を何も考えずに…貴方の記憶を、覗き見ようと…」
「…それも気にしなくていい。あの秘書に誑かされたのだろう?メイフィは何も気にする事は無い。」
「いいえ…誑かされた訳ではありません…だって…貴方の記憶を覗き見たいと言ったのは…私なんですから…!」
「本当にごめんなさい」と、メイフィは謝るとダムが決壊したように両目から涙を溢れさせた。
両手で顔を押さえて嗚咽する彼女に、どう声を掛けていいのかリーンは迷った。
だが、思考は迷っているはずなのに、知らず知らずのうちに右手が彼女の頭をやさしく撫でていた。
「例え、どっちであっても関係無い。僕は怒っていないよ、メイフィ。」
自分にできうる限りで一番優しい声色で彼はそう言って、笑って見せた。
「だけど…あの'本'を読ませる訳にはどうしてもいかなかった。絶対に。」
それは、つまり自分の記憶を他者に見せたくないと言う事。
だとするのなばらやはり自分が取った行動は許される物では無い。そう思ったメイフィは再度、謝ろうとした瞬間。
「だから、僕の事が知りたいのなら直接聞いて欲しい…こうなった以上、包み隠さず全て答える。」
意を決した様に、リーンはそう言った。
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