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英雄。3

一足先に仕事が終わったレアは仕事後のささやかなお茶でもと思い、湯沸室にやって来たのはいいが彼女の表情は少し暗い。
その原因は彼女が今摘んでいる昼間に出した高級茶葉とは比べる事もできないぐらいこの上なく安っぽく何処にでもあるような簡素なティーパックにあった。
「うーん…しかしこれ以上アレを出すのは流石に…」
昼食時に出した紅茶は大事な客人用に保管されている茶葉であり、本来はといえば自分達が飲んでいいような物では無い。
だが、全ての仕事が終わりゆっくりとできる時にこんな安っぽいお茶を出すのも彼女は何だか気が引けてしまうのだった。
無論、メイフィはそんな事を気にするような性格では無いと言うのも解ってはいるのだが…
「まぁ、でも今更ではあるしちょっとぐらい…」
そもそも、誤魔化し易い茶葉はともかく菓子を出してる時点でバレるのは既に分かりきっている話なのである。だから、開き直ってしまっても…という気持ちも一瞬彼女は芽生えたが…
これまで資料更新の日にそれをこっそりと頂いても別段それを咎められる事は無かったのは…それは言うまでも無く管理者が今日のこの日だけは大目に見てくれていたからであろう。
それも理解しているからこそ、無闇に使うのはそれはそれで心苦しい。
「…ごめんなさいね、メイフィさん。」
メイフィに対する後ろめたさを振り払う様に、彼女はティーパックの入ったカップにお湯を注いだ。


「メイフィさん。お茶が入りまし…あら?」
盆にカップを二つ乗せ仕事場に戻ってきたレアはそんな少し間が抜けた声を出す。
てっきりもうメイフィも全ての作業を終わらせてここに戻ってきている頃合だろうと思っていたのであったが、部屋を見回しても彼女の姿は何処にも見当たらない。
彼女の今日の仕事のペースから見ても戻ってくるのが遅すぎるのは明白だった。
まさか、とは思うが…今日の激務に疲れて資料室で倒れているのでは無いか、と心配になったレアは盆をテーブルに乗せて自分も資料室へと足を運び、開けっ放しになっていた資料室のドアから顔を覗かせた。
特に部屋を見回す事も無く、メイフィの姿はすぐにレアの目に入った。見たところ別に倒れている事も無く、体調が悪そうにしている訳でも無い。とりあえずその事にレアはほっと小さく安堵の息を吐いた。
その後に、メイフィが何をしてるか確認し…レアはメイフィが一つの資料をまるで放心したかのように見つめ続けている事に気が付いた。
「メイフィさん?どうかしましたか?」
あまりにも一点のみを見つめているので少し声を掛けるのを躊躇いつつも、レアはメイフィの後ろからそう声を掛ける。
それほどこっそりと入ってきたつもりは無かったが、メイフィはレアの存在に全く気が付いていなかったのだろう、声を掛けた瞬間に演技かと思わせるほど彼女の背筋は大きく伸びた。
「え、あ、ご、ごめんなさい!!」
大きな声を出してメイフィは慌ててレアに頭を下げた。別段メイフィに何か非があったとレアは思っている訳では無い、なのであまりにも驚いた為に反射的に謝ってしまったのだろうと言う事はすぐに察することができた。
「ごめんなさいね。驚かせてしまいましたか?」
やや宥める様な口調でレアはそう言って微笑んだ。
それでメイフィの緊張も少し和らいだのだろう、肩の力が抜けが抜けていくのが目に見えて解った。
「随分真剣な表情で資料を見つめていましたが…何かありましたか?」
「あ…えっと、その…ごめんなさい…」
またしてもメイフィは謝罪の言葉を口にした。どうやら資料を覗き見している事に対して言っているようだが、資料整理である以上資料の中身をしっかり目を通してもらう事をレアは責めるつもりは毛頭無い。
仕事を始める前に『資料の内容は他言無用』と釘を刺されていたからだろう、メイフィ知らず知らずの内にそれを『必要以上に資料を見るな』と言われたと認識してしまっていたようだ。
「謝る必要はありませんよ?何か気になることでもあったのでしたら仰って下さいね。」
できる限り優しい声でレアはメイフィにそう言った。
メイフィは相変わらず申し訳無さそうな表情ではあったが、自分の行為が別段咎められる事が無いと理解し、やがて口を開いた。
「…間違っていたら申し訳ありません。実はAssembleという名のギルドの資料が二つ見つかりまして…これって問題ありませんか?」
「え?本当ですか?…ちょっと見せて下さい。」
彼女の言葉に驚いたように目を見開かせてレアはメイフィから二つ資料を受け取る。
片方はリーン率いるAssemble。そしてもう一つはフレイヤと言う名の人物が率いるAssembleの資料だ。
二つの資料を見比べて訳が解らないという様な顔を見せていたレアであったが片側の資料に目を通していく内にやがて納得がいった様にうんうん、と頷いて見せた。
「申し解りません、どうやらこちらで手違いがあったようです…こっちのAssembleは随分昔に存在していたギルドの様でして…何かの拍子に資料が紛れ込んでしまったみたいです。」
「昔のギルド…ですか?」
「はい。開設日を見ると…今から90年程前になりますね…メイフィさん、見つけて下さって有難うございます。」
そう言ってレアは頭を下げた。その様子を見てメイフィは慌てたように首を横に振って見せる。
「いえいえいえいえ、とんでもありません…」
「これは私が後で処理しておきます…今日はお疲れ様でした。お茶が入っていますのでゆっくりと一服しましょう?」
優しげな笑みを浮かべたレアにメイフィも口元を緩ませて「はい。」と、小さく答え二人は資料室を後にした。


少しばかり温くなった紅茶をメイフィが一口飲んだ時、恐らく無意識の内であろうがやや表情が疑問を浮かべた様の物に変わった。
僅かな表情の変化であったが、職業上相手の顔をよく見ているレアはそれを見逃さなかった。
「…ごめんなさいね、本当は昼間に出した紅茶を出したかったのですが…」
「あ…いえいえ、それほど舌が肥えてる訳でも無いのでお気になさらずに。」
かなりバツが悪そうにそう言ったレアにメイフィは慌てたようにそう返した。
まぁ、安価とはいえ比較的似た味であるし、バレる事は無いだろうと何も言わずに黙って出した事も相まってか、レアの心境は心苦しさがかなり大きい事は目に見えて解る。
この話題を変える為にと、メイフィはここで自分の心を埋め尽くしている大きな疑問をレアに切り出した。
「さっきのギルド…もう一つAssembleのギルドマスターのフレイアさんってリーンさんとどんな関係があるんでしょうか?」
「フレイア…?」
突如出てきた聞き覚えの無い名前に、レアはオウムの様にそう聞き返し、後で整理するためにと一緒に持ってきた先ほどの資料を読み返した。
確かに、そこにはフレイア=クルシモという名前が一つだけ書かれていた。
「んー…まぁ氏名と開設日からして…あの男のお婆様か曾お婆様ではないでしょうか?クルシモなんて苗字滅多にある物じゃないですし、血縁関係者である事は間違い無いとは思いますが…」
「…そうですよね。」
その返答にメイフィは歯切れの悪い言葉を口にする。
そんな事はメイフィ自身としても既に予想した範囲だ。それでも自分でもよく解らない疑問感があるからこそレアにこうして聞いたのだから。
…尤も、これ以上に予想できる事なんて無いという事は、勿論メイフィは重々に承知はしているのだが。
「それに、こういう事は珍しくは無いですからね。父のギルドを子が引き継ぐなんて事はよくある話です。」
そこに、レアは『ギルド本部の人間の目線から見て』の考えを自身の考察に付け加えた。
そこまでは自身の考えが及んでいなかったからかメイフィは「なるほど。」と頷いて見せた。
「ですが…流石にこう一代跨いでギルド名を引き継ぐというのは珍しいですけどね…厳密に言うとこれは引き継いでる訳ではありませんし。」
「…。」
一瞬、納得しかけた後、すぐにレアから付け加えられたこの言葉にメイフィはまた沈黙してしまう。
別にレアに悪意があった訳ではないが結果としてはメイフィにまた一つ小さな疑問が加わった。
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずかレアはふふっ、と小さく笑って見せた。
「失礼。もし仮にあの男がお婆ちゃんっ子って思ったら少し可愛げがあるなと思いまして…今はそれなりに賑わってますが、こっちのAssembleはずっとメンバーが一人だけだったという辺りも彼のお婆様なんだろうなぁ、と思えますしね。」
「アハハ。確かにそれはそうですね…」
その言葉にメイフィは思わず笑ってみせた、確かにそう言われるとなんとなく納得してしまう所がある。
だが、結局それも予想でしか無い。実際の所どうなのかは、どれだけ想像した所で解る筈が無かった。
「メイフィさん、そんなに気になるのでしたら彼に聞いてみたらどうですか?」
表情からメイフィの心境を察したのだろう。レアはこの疑問を解決する最も手っ取り早く確実な方法を示して見せた。
そう、気になるならば直接聞けばいい。
そんな事はメイフィ自身もよく解っている、解っているのだがどうしてだろうか、メイフィは聞こうとする度にこんな事を考えてしまう。
「…聞いても、いいのでしょうか…?」
「え?」
どうしてそんな事を疑問に思うのか解らないのか、レアはそう短く返した。
彼女自身、どうして「聞いてもいいのだろうか。」と考えてしまうのか、と言われると少し困ってしまうが、一応それに理由はあった。
別にこれまで彼に、聞くなと言われた訳でも無いのに、聞いてはぐらかされた訳でもないが…
彼女がリーンの事の素性、過去、様々な事を疑問を思う時、いつも彼はどこか悲しそうな表情をしている様に見えたからだ。
気のせいと言われればそれまでなのだが…それがあって、聞こうと思ってもその度にその表情が頭にチラついてしまい、どうしてもメイフィは今まで聞き出す事ができなかった。
「あら…もうこんな時間ですか…そろそろこの辺りで解散にしましょうか。」
ふいに、ようやく気が付いたかのようにレアはそう言って見せた。
釣られるようにメイフィも時計を見た所、もう既に22時に近い時刻を指していた。休憩を挟んではいるが気づけばかなりの時間ここにいた様だ。
「メイフィさん、本日は本当に有難うございました。」
改めて、深く頭を下げた礼を言うレアにメイフィも思わず頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ今日はとてもいい経験をさせて頂いて有難うございました。」
「はぁ…本当、あの男のギルドに入っていなかったらすぐにでもスカウトしたいのですが………メイフィさん、もし彼に嫌気が差したらいつでも言いに来て下さいね?」
「アハハ…か、考えておきます。」
昼間辺りにも同じ事を言われて冗談だと言っていたが、今のレアの顔を見る限り冗談とはメイフィには思えなかった。
あんまりに言い寄られ、断るに断りきれなくなる前にメイフィは荷物をまとめてやや逃げるようにギルド本部を後にした。


夜空の船旅を満喫し、メイフィがリプレに戻って来た時には時刻はもう0時に近かった。
疲れているしわざわざリプレに戻らずともオルビスで宿泊してもよかったが顔を見せずに心配を掛けるのも、と思い彼女はわざわざ彼女はここまで戻って来た。
幸いにして今日は満天の星空。船に乗ってきた時もその景色に随分見とれていた物だったが、地上に降り立つと今度は普段見ている街とは違う景色にまた見とれていた。
人の姿は無く、闇と静寂の中で必死に自己を主張する街灯達の姿はメイフィの心をほんのりと和ませた。
これまであまり、夜空の下で行動する事をしてこなかったメイフィだったがこういう景色が見れるのならばこれはこれで悪くない…そう思いながら宿への道を歩いていた時、橋の手すりに行儀悪く腰を掛けている少年の姿が目に入った。
「あ…」
彼も又、先刻までのメイフィと同じ様にぼんやりと空を見上げていた。自分の脳裏によくチラついてみせるあの表情で。
人の気配を察したからか、少年はふっ、と表情を消してこちらを見た。自分が何者かに気付いたからだろう、少し口元を上げて笑みを見せ、手すりから降りた。
「おかえり、メイフィ。」
そう言って彼女を労い、リーンは薄明るい夜空に良く映える青髪を靡かせて、こちらに向かってゆっくりと歩いてきた。
一歩、一歩、とこっちに近づいてくる度に足音は段々と大きく聞こえてくる。それはまるでメイフィの「知りたい」と欲が大きくなっていく様に。
知りたい、識りたい、理解りたい、把握りたい、解釈りたい。
その欲望が溢れ出し、とうとうそれを口に出そうとした時…メイフィの視界は反転した。
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