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英雄。1

ほんの一瞬だった。
彼等が目指していたのは歪な笑みを浮かべる彼の魔術師の討伐の筈だった。
だから、こんな事は決してあっては為らない。為らない事だ。
自らの仲間達の亡骸を見るという事など。あっては為らない。
それは甘えだったのかもしれない、この巨悪を仲間が誰一人として死なずに滅するという考えは間違っていたのかもしれない。
だが、よりにもよって。
その仲間の亡骸を一時の間に作って見せたのが、自らの仲間である等、誰が想像できた事であっただろうか。
「ヨシュア…これは…何故…どういう事だ…?」
ティルフィングはヨシュアにそう問う。
彼の表情は怒り、悲しみ、困惑。どれで固定するのが正しいのか解らないのか、顔がまるで痙攣を起こしているようだった。
何かの間違いであって欲しい。
この惨状を作り出したのが彼だという事は紛れもない事実であっても。
それは彼が意図せず、理由があって、間違えて、うっかりしていて……
何でもいいから、どんな理由でもいいから彼自信が望んでやった事では無かったと、信じたかった。
だが…
ヨシュアは嗤っていた。
普段の温厚な彼からは想像出来ないほどにその歪み切った顔は、彼の後ろで巨山の様に立つ魔術師の笑みと全く同じ物だった。
「てめぇ…!俺達を裏切ったのか!!」
その顔を見ただけで理解するには十分だったのだろう。ミゲルは瞬く間に激昂し怒りの形相でそう叫ぶ。
「ウソ…ウソだよね、ヨシュア?」
その怒りの表情に対して、エヴァンは涙を流していた。
頬から零れ落ちる涙は、床に小さな池を瞬く間に作り上げる。優しい彼女にとって刹那の間に起きた事実は易々と受け入れられ物では無かったのだろう。あれほどもう泣かないと決めた筈だったのに自分の意に反して両目から溢れる水は止まらない。
ヨシュアは何も言わない。ただただエヴァンの作り上げる池が床を侵食するように大きくなっているのをただ眺めているだけだった。
少しずつ、少しずつ、大きくなっていく池。それが丁度エヴァンの瞳と同じ程の大きさになった時、ヨシュアの顔からふいに歪さが消え…彼は特徴的な構えを取った。
「どうやら…流石にもうウソの一言で片付けれる状態では無いようですね…」
ユーリは冷静にそう言って、少し身を縮み込ませるように体勢を整えた。
ヨシュアのその構えはこれまで何度も見てきた。
これまで幾千の魔物達と戦ってきたが彼の構えた後姿を見る度に頼もしいとユーリは思っていた。
だが、まさかその構えをこうして真正面から見る事になるとは、思いたく無かったが…
ユーリの脳裏に浮かぶ、共に戦ってきた彼の頼もしくも勇ましいその姿。それを打ち砕く様に、ヨシュアは軽やかに、滑る様にユーリの目前へ現れた。

ぎちぃん、と刃同士が強く触れ合う嫌な音が一帯に響いた。
ヨシュアが構えたその瞬間、すかさずティルも構え一瞬で間合いを詰めた彼を迎え撃ったからだ。
鍔迫り合いながら、ティルはもう一度、ヨシュアに問う。
「ヨシュア…どういう事…なんだ…?」
「どういう事か…?フフ…解るでしょう…?」
ようやく聞けた彼の声、それはいつもの朗らかな口調とは全く違う。
1文字1文字、声を出す度またしてもヨシュアの顔は歪な物へと歪んでいった。
「私は…私はずっと嫌だった…何でもできるお前達が!!何もできない私自身が!!ずっと!!」
目を血走らせながら吐かれるヨシュアのそんな言葉はまるで呪詛のようだった。
彼の心の奥底深くに溜め込まれ続けた闇が口を通して溢れ出ている様に感じ、それを身に受けるティルはとてつもない吐き気に近い何かに襲われた。
僅かにティルが顔を歪めたその隙を逃さず、ヨシュアは剣を一度引く。
「そして何より…お前達の弱い私を見るその哀れみの目が気に入らなかった!!!!!!!!!」
そして、攻撃を放つ。
恨み言と共に吐かれる攻撃は何時もの彼の剣激とは考えられないほど醜い物だった。
その剣閃には何時もの月明かりの様な美しさ等は微塵も感じさせない。ただ、殺意と憎悪が剣という形と為って襲い掛かって来ているようだ。
「何を言ってるんだ!!俺達がお前の事をそんな…」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!!!!!!!!!!!!黙れ!!!」
ヨシュアの攻撃が更に早くなる。
もはや彼の攻撃は'剣術'とは到底呼べはしない。
何故、彼がここまで自分達にここまでの憎悪を抱いてしまったのか。
いつだって優しく、誰よりも仲間を気遣ってくれていた彼が何故こうなってしまったのか。
彼の事を尊敬こそしていたが哀れみの目で見た覚えはティルには無論無い。だが、もしかすれば自分の些細な言動が知らず知らずの内に、彼をここまで追い詰めてしまっていたのかも知れない。
もし、そうだと言うのならば、そうする事で彼の気が済むのであれば…
彼の剣の前に身を投げ出す自分をティルは一瞬だけ想像し、即座にそれを振り払う。
自分は一体何を考えているのか、まだこんな所で自分は倒れる訳には行かない。
自分達を信じて送り出してくれた人々を裏切る真似はできない…たとえ仲間が目の前に立ちはだかったとしても。
自分の住んでいた町の人々の顔を思い出して、意を決したようにティルは、目を閉じその刹那に叫んだ。
「エヴァン!ミゲル!ユーリ!俺が…俺がヨシュアを殺す!!お前達は魔術師を!!」
'殺す'と叫んだのは、仲間達にこれから自分がする行為を表明する為なのか、それとも自らがこれから行う業を自覚する為なのか…
その言葉を聞いた3人は誰一人としてティルを止めはしなかった。今この目前の事実に納得はしきれなくともミゲルもエヴァンもユーリも、想いはティルと同じだ。
『まだ、ここで死ぬ訳にはいかない』と、
迷いを振り払い、彼らは己の敵達に向かって攻撃を放った-


-2日前。
「それでですね!ヨシュアが放つ次々の攻撃をティルは剣で受け止め、銃を撃ち壮絶な戦いを繰り広げてですね!!」
「あぁ、はいはい…」
場所はルディブリアムにある小さな喫茶店。概観は普通の家と(あくまでルディブリアム基準でだが)変わらないこの店はしばらくの間空き家だった家を改装して開店された店であるらしい。
自宅に居るような雰囲気と素朴な味わいの珈琲がウケて小さいながらにそれなりの繁盛をしているそうだ。…まぁ、それはどうでもいい話であるが。
一体いつまでこの話に付き合わなければならないのか、こっちのげんなりした様子を気に留める様子も無く嬉々として話続けるホロウにリーンは毎度の如く深い溜息を吐いた。

ホロウの勉強会が終わって1週間程立った頃、リーンはギルドの依頼で再び立ち寄ったルディブリアムでホロウと遭遇した。
彼もまたギルドの依頼でたまたまここに居たのかとリーンは思ったが、聞く所によると、どうやら勉強会の最後にセクトから紹介された数々の本がいの外面白くずっとここに滞在して本を読み耽っていたらしい。
関心な事だ、とリーンは思った…ホロウのこの長い長い語りを聞くまでは。
だが、後悔しても遅い。そもそも感想を誰かに話したくて仕方が無いと子犬のような顔でウズウズしていたホロウの気持ちをへし折るなどリーンには到底できやしなかったであろう。

「それで最後にはヨシュアはティルに倒されて、他の3人も命からがらも闇の魔術師を倒す事ができてハッピーエンド!って話でしたよ!」
「そうか…そういえばそんな話だったな…」
話し始めてどれくらい時間が経っただろうか。少なくともここに来た時はまだ太陽は真上にあったはずだが今はもうすっかり傾き山の中へ隠れようとしている。
序章から終章にかけて事細かく語ってくれたそれは読書感想文として提出すれば満点なのは間違い無いだろう。
尤も、それを文に書き起こそうと思うとそれこそ一つの本が出来上がってしまうほどの原稿用紙が必要になるのは間違い無いが…
「それにしてもヨシュアって本当酷い奴ですよね!あれだけの人達に囲まれておきながら逆恨みで裏切るなんて!」
別に自分が裏切られた訳では無いというのにホロウは頬を少し膨らませて怒って見せた。
どうやらホロウは感受性がかなり強いらしい。だからこそ、本一冊をここまで楽しめたのであろうが。
「…ホロウ、一応言っておくがこれは実話を元にしたフィクションだからな。実際の所、どうしてヨシュアが裏切ったのかは解らないっていうのが本当の所だ。」
リーンはテーブルの中央に置かれた本、「九英雄の戦い」を少し持ち上げてそう言った。
彼が言うようにヨシュアがどうして裏切ったのかは未だに誰も解っていない、歴史の謎の一つだ。
戦いに勝利して生き残った4人も「理由は全く解らない」と語ったと言われている。
だが、どうしてか解らないまま物語として書き上げるのは難しい。物語として完結させるのであるならば例えそれが間違いであっても何かしらの理由をつける必要がどうしてもある。
だからこの世界に溢れている九英雄の物語は物語によって彼が裏切った理由が作者によってそれぞれ異なっている。
強いて同じ点を挙げるとするならば、裏切り、その結果としてティルに討たれるという点のみであろう。
「でも、結局裏切った事には変わりないんですよね?だったらやっぱりヨシュアがひどい奴ですよ!!」
「まぁ、そうだな…酷い奴だ…」
ホロウの言葉にリーンはなんとも言えない表情を浮かべてそう答えた。
どんな理由があれど、彼が仲間を斬ったというのは紛れも無い事実。'酷い奴'というホロウの評価は何も間違っていない。
「本当に。酷い。」
窓から差し込む西日を見つめ、誰にでも無くリーンはそう呟いた。

-1日前。
メイフィ=イェルドの朝は早い。
太陽が山から顔を覗かせるとほぼ同時に目を覚まして、寝惚け眼を擦りながら洗面台で顔を洗い、身支度を整えて町を散歩するのは彼女が冒険を始めてからずっと行っている日課だ。
我ながらババ臭い。それは理解している事だったが、朝の少し冷たくて澄み切った空気を体中で味わうのは彼女にとって幸せを感じられる事一つなのでやめるつもりは毛頭無い。
今、滞在している場所はリプレ。町の外には凶悪な魔物達が居て危険な場所であるが、街の中はたくさんの木々が有り、木々の間から差し込む木漏れ日を身に浴びて、小川のせせらぎを聞く事もできる…散歩するにはこれ以上にいい場所なんて中々無いだろう。
鼻歌の一つでも歌いたくなってしまう程の高まる気持ちを抑えてメイフィは自分が泊まった部屋のドアを開けた。

「…だから、こっちの事情も考えろと言っているだろう!僕はそんなに暇じゃない…」
メイフィが泊まった宿屋の部屋は1階にある、なので扉を開ければ出口は目と鼻の先だ。
だが、その出口付近で携帯端末を持って口論をしている男性が1人。目を凝らせるまでも無い、間違い無くギルドマスター…リーン=クルシモの姿だった。
リーンのその姿を見るが否やどういう訳かメイフィは反射的に近くの柱に隠れてしまった。
(…?誰と話しているのでしょう?)
「ぐっ…確かにそうだが…だが、だからと言ってお前の仕事を手伝う理由には…!」
聞いているだけでは誰と話しているのかは解らないがリーンの顔は苦虫を噛み潰したような顔をしているのだけは間違いない。
どうやらよっぽど嫌な内容の電話らしい。
(仕事?アマテラス関係…でしょうか?)
それにしては余りにも嫌な顔をしすぎている。
アマテラス関係の仕事であるならばリーンなら快くそれを引き受けてもおかしくは無いはずだ。
「勝手に決めるな!…っておい!クソっ…切られたか…」
話が終わりリーンは不機嫌な顔を変えることの無いまま乱暴に携帯端末をポケットに押し込んだ。
そして深い溜息を一つ吐き…何かに気付いた様にメイフィが隠れている柱をじっと見つめた。
「誰かいるのか?」
見つかってしまった。
いや、そもそもどうして隠れて盗み聞きをするような真似をしてしまったのだろうか。
メイフィは申し訳無さそうに顔を下に向けておずおずと柱から姿を現した。
「ん…?何だ、メイフィか…メイフィもここに泊まっていたんだな。」
隠れていた人間が自分の見知った人間だったからかリーンは不機嫌な顔を戻して少し笑みを浮かべてそう言った。
だが、その顔はやや強張っているのは気のせいでは無いだろう。
「ごめんなさいリーンさん。盗み聞きするつもりは無かったのですが…」
「いや、気にするな。こっちこそこんな所で見苦しい所を見せたな…邪魔だっただろう?すまない。」
「いえ、とんでも無いです。本当ごめんなさい…」
やや大袈裟にも思えるように謝ってみせるメイフィの姿に困った様にリーンはこめかみを指で掻いた。
盗み聞きしてしまった事を本当に申し訳なく思っているらしい…それほど気にする事でも無いというのに。まぁ、メイフィらしいと言えばそうなのだが。
「いや本当に気にしなくてもいい。こんな所で大声出して喚いている人間が居ればそりゃ隠れたくもなるさ。」
頭を上げてくれ、と言うようにリーンはメイフィの頭に軽く手を置いた…頭は半分ほど寝ているので何気無くやった動作であったがリーンは瞬時にハッ、としたようにその手をすぐに引っ込めた。
僅かに頭に乗せられた手の意味を理解しメイフィは頭を上げ、リーンの顔へと向き直る。幸い、彼女は何とも思ってはいないようである。
「あの…さっきの電話はどなたからだったんですの?」
「あぁ、レアだよ。人手が足りないから自分の仕事を手伝えなんて言って来たんだ…全く、今日はのんびりするつもりだったんだがな…」
レア、という人物の名前を聞いてメイフィは一瞬きょとんとした顔を見せたがすぐ頭の中でそれが誰であるのか合致したのだろう。確か、ギルド本部で秘書を務めている女性だった筈だ。
納得した様子でふんふん、とメイフィは頷いている所で…リーンは一つ大きな欠伸をして見せた。
とんでもなくだらしがない欠伸であったが…リーンの顔をよく見ると目元には隈が出来ている、何をしていたかは知らないがどうやら昨日はロク寝ていないというのは解る。
「と、言う訳だ。僕はちょっと行って来るよ。邪魔してすまなかったなメイフィ。」
「え?行くのですか?」
手を上げて出口へと歩いていくリーンに驚いたようにメイフィはそう言った。
正直、アレだけ散々嫌だと言っていたので行くつもりなんて無い物だと彼女は思っていたからだ。
「まぁ…どういう形であれ頼まれた以上断るのもな…それにここで行かなかったから1時間もしない内にアイツから鬼のように電話が掛かってくるのも目に見えてるしな…」
その様子を想像してしまったからなのだろうリーンの表情はまた暗く、どんよりとしたものに変わっていく。
そんなリーンの表情と目の下の隈が合わさりリーンの姿はまさに病人のそれと同じだ…見ていられずメイフィはリーンに言った。
「あの…リーンさんは今日は休んでいてください。そのお仕事は私が引き受けますから…」
「え…?メイフィが…?…いや、それは申し訳ない。僕は大丈夫だ。気にしないでくれ。」
自分がよっぽど暗い表情をしていた事に気付いたのだろう、リーンは頬を両手で叩いて自分を鼓舞してそう言った。
だが、それで表情は明るくなっても目の下の隈だけはどうにもならない。
一度それに気付いてしまうと何をどうしてもリーンの体調は良くないとしかメイフィには思えなかった。
「いえ、ダメです!リーンさん昨日は余り寝ていないのでしょう?体調が優れないのに無理してはいけませんよ!」
「いや…寝不足なのはまぁ…そうだが…しかし…」
「とにかく!今日はリーンさんはゆっくりしていてください!レアさんのお手伝いには私が行きますから!」
「…。」
リーンは呆気に囚われた表情でメイフィを見つめた。
こんな強引なメイフィを見たのは今思えば初めてだ。普段からどんな時でもおっとりしているメイフィがこんなに大きな声を上げるとは…こんな彼女をリーンはこれまで想像した事すらも無かった。
「私だって副マスターなんですから…たまには私を頼ってくれてもいいんですよ?リーンさん。」
きっと、何を言っても引き下がってはくれないだろう。怒ったように目を釣り上げている彼女の顔を見ればそれは明らかだ。
それにこんな風に言ってくれるのも全ては自分の事を心配しての事、これ以上断るのも反って失礼だろう。リーンはそう思い、小さな笑みを浮かべた。
「そうだな…それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな…有難うメイフィ。」
「えぇ、ゆっくり休んでください。リーンさん。」
そう言って彼女もまた、いつものように柔らかく暖かい笑みを浮かべた。
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| 小話 | 21:23 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

やっぱり先生は締め切りを守る男だったんですね!
一ヶ月後もおねがいしますよ!

| 名も無き者 | 2014/11/16 11:50 | URL |















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