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夏の終わりに。

「んあっ?夏祭り?」
眼前にいる眼鏡を掛けた女性の唐突な発言にリーン=クルシモはそんな素っ頓狂な言葉を上げた。
そんな余りにも間抜けな声を聞いても、レアは笑う事も無く淡々と作業をこなしつつ言葉を続ける。
「えぇ、そうです。」
場所はオルビスギルド本部。リーンがここに訪れたのも例によってギルド更新の作業の為であった。
随分前にリーンがギルドの適当と言ってもいい程の副マスター任命をしたのも有りリーンがここに来るのも随分久しぶりな事である。
久しぶりであるから、リーンは普段小言ばかり言うレアも少しは歓迎ムードを出してくれるのでは無いかと淡い期待を抱いていたが実際にそんな事は無く、いつも通り…寧ろ久しぶりなので言いたい事も溜まっていたのかいつも以上に長く、突き刺さるような小言をリーンは聞かされる事になってしまった。
そんな小言の嵐の中でレアは唐突にポツリと告げた言葉にリーンは思わず素っ頓狂な言葉を上げてしまった、という事である。
「'夏'祭りねぇ…場所はジパングか?」
「いいご明察ですね。貴方にしては。」
「一言余計だ…大体、この世界で'夏'祭りなんて開けるのはそこぐらいしかないだろう。」
うなだれるように肩を落としてリーンはそう答えた。

リーンの言った通り、この世界で'夏'祭りが行われるのはジパングぐらいしか無い。
別に'祭り'が珍しい物であるからという訳では無い、どの町でも年に1度や2度ぐらいイベントとして'祭り'という物は開催される。
だがその中で敢えて'夏'祭りと銘打って開催されるのはジパング他ならないのだ。
その理由はそもそもこの世界は基本的に気候という物が固定されており、季節という概念が人々の間に浸透していない為だ。年中雪で覆われたエルナスや日差しが強いフロリナビーチを例に上げるのが尤もわかり易いだろうか。
それがこの世界にとって'普通'な事である。だからこそ、冒険家は2回目にジパングに訪れると非常に驚いた顔をすると言う。
まさか熱い日差しが差し込んでいた場所が数ヵ月後には雪に覆われている等想像すらできないのであるから………閑話休題。

「それで?その夏祭りがどうかしたのか?」
相手がレアでなければリーンはこのような疑問は抱かなかっただろうが…リーンの経験上、彼女が唐突に何かしら話題を振る時は必ずといってもいいほど裏がある。
今回もきっと例に漏れず何かしらの考え…もとい依頼、押し付けエトセトラ…があってこのような事を言ったのだろうと、リーンは気構える。
「貴方、いま凄く失礼な事を考えていませんか?」
「間違いなく気のせいだ。十中八九お前の勘違いだ。」
見事に見破られてしまっていた。思わず早口になりレアは更に顔を怪訝そうにしてみせたがやがて溜息を一つ吐くと何時ものような燐とした表情に戻して見せた。
「まぁ…早い話が夏祭りを行うのでその運営者様からその手伝いを依頼されたのですよ。掲示板にも同じ張り紙がしてありますが…」
そう言ってレアは懐から綺麗に折りたたまれた紙を出してリーンの方へと差し出した。
開けてみると丸く可愛らしい文字で文章が書かれている。恐らく祭りの宣伝も兼ねているのだろうか、端の方には鮮やかな絵まで描かれている。
内容を読み通すと日時と場所、出し物がでかでかと書かれている。更にその下には依頼内容、報酬…そこを見てリーンは思わず目を細めた。
「…報酬が随分小さい文字で書かれているな?」
「一般の方への宣伝も兼ねておりますからね。そういったギルドの人間向けの情報はちょっと小さめに書かれているんでしょうね。」
「そうだな、確かにその通りかもしれないな…だが、この報酬、僕には『感謝の言葉』って書いてあるように見えるのだが気のせいかな?」
「ジパングの方は言葉遊びが好きですからね。それもその一環なのでは無いでしょうか?」
「そうか、『感謝の言葉』という言葉をどう遊び倒すのか見物だな?…で、本当の所は?」
「…言葉通りですよ…」
少し声を落としてレアはそう呟いた。目もやや泳いでいる。
「無報酬って事か…」
呆れたようにリーンは肩を落とした。別に自分が引き受ける訳では無いがこの依頼は余りにも酷い物だ。よくこんな物を…
と、考えた所で、ふっとリーンの頭には一つ疑問が浮かんだ。
「と、いうか…こんな依頼をよく本部も了承した物だな。これでは本部も何一つ得が無いだろう?」
ギルド本部の仕事の一つが各ギルドに対する依頼の斡旋がある。と、いうよりもこれが本部の主な仕事だ。
だが、勿論の事そこには斡旋料というのは発生する。依頼が達成された時は依頼者が提示する報酬の何割かはギルド本部の運営資金として送られるようになっている。
その為依頼者が報酬を出さないというのは、その依頼を引き受けるギルドの人間だけで無く、本部としても本当に何一つ得が無いのだ。通常で考えるならばこんな依頼は掲示板に張り出される以前に本部が断っている筈だ。
何かしら裏があるのは間違い無い。リーンはそう確信していた。
「そんな…我々が損得だけ物事を見るような非情な人間の集団だと思っているのですか?我々はただ皆様が夏祭りで楽しい思い出を作るのに協力したいと思っているだけ…」
「気色悪い御託は言い。さっさと本当の所を話せ。」
身を少しくねらせながららしく無い言葉を吐くレアを見てリーンは言葉を遮ってそう言い放った。
その刹那、ピキっと小さな嫌な音が聞こえた…気がした。周囲も夏とは思えないほど温度が下がっている錯覚すら覚えた。
「…今、何と?」
「すいません…言い過ぎました…」
青筋を浮かべてドスの聞いた声でそう言われリーンは反射的に謝罪をした。
またしても溜息を吐き表情が戻るレアを見て思わず「百面相だな…」とリーンは思ったが口にすることはできなかった。
「まぁ…貴方の言う通り普段なら間違いなくこんな依頼お断りしておりますよ。ですが、今回は依頼者様が依頼者様ですのでね…」
「依頼者…?何処からの依頼なんだ?」
「アマテラス、ですよ。」
「…あー」
その言葉を聞いて様々な事がリーンの中で合致した。
場所がジパングなのも、こんな依頼を本部が引き受けたのも、そして報酬が『感謝の言葉』であるという事にも…

「アマテラスは…その顔ですと意外にもご存知のようですね。今では知る人も少なくなっておりますが…彼等の権力は未だに健在です。そこに恩を売っておくのは悪い話では無いでしょう?」
「まぁ、そうだろうな…そう考えれば納得できる…」
アマテラスの存在を知る人は少なくても彼等…いや、彼女達が展開する'守護陣'はどの町にも無くてはならない物である事には変わりない。そうなれば当然、権力は未だにこの世界では随一だろう。
そんな機関に恩を売れる機会を本部が見逃す筈が無い。
「しかし…どうして急にアマテラスが夏祭りを企画したんだ?まさか今更活動方針を転換した訳じゃないだろう?」
「そこは単純に知名度を上げる為みたいですよ…まぁ、その為にこんな行動に出たのは今回が初めてのようですね。正直、今更そんな物に拘っているような機関では無いとは思っておりましたが…あちらの方で何かあったのでしょうかね?」
「…さぁな。」
実際アマテラスでどのような問答があって今回の行動に出たのかは解らないがその問答に間違いなく関わっているであろう人物をリーンは容易に想像ができた。
彼女も一応Assembleのギルドメンバーとして登録はされているがレアには彼女達がアマテラスの一員である事は伏せている為、今回の事は本当に不可解に思っているようだが。
「で、この依頼…引き受けてくれるギルドはあったのか?」
「お祭り事が好きなギルドというのはやっぱりありますからね。無報酬でも快く引き受けてくれる所は何個かありますよ。」
今回の依頼はギルドの依頼にしてはやっていて楽しめる部類である事は間違いは無い。
祭り事が好きな人はやはり進んでやってくれるようだ。
(祭りか…もう、何年も行って無いな…)
手元の紙を見つめながらリーンは内心で思った。
別に祭り事が嫌いという訳では無いが、中々行こうと思える機会が無かったのは事実だ。
ここでこうしてこの話を聞けたのも何かの縁、なのかも知れない。
「そうか…じゃあこの夏祭り、僕も楽しみにしておくよ。」
そう告げて立ち上がり、レアを背にして軽く手を上げリーンは本部を後にした…ら非常に決まっていたと思う。
だが彼女は何処までも打算的な事をリーンはこの瞬間忘れてしまっていたのだ。
「何を他人事みたいに言ってるんですか?」
振り返って見た笑顔は凄まじく邪悪な物に見えた。


「あはは…それで結局引き受けてしまったんですか…」
「あぁ…まぁ…」
場所は変わってヘネシスの広場。
ベンチに座り頭を抱えながらリーンは苦悶の声を上げ…その横でメイフィ=イェルドは苦笑いを浮かべて居た。頭の上にはキューイがちょこんと座って同じに顔を少し引き攣らせている。
先日の一件、当然リーンは断ったのだが…
『まだ人手が十分という訳では無いのですよ。貴方のギルドからは貴方だけでもいいのでお手伝いに参加して頂けませんか?』
『あら、貴方に今までどれだけの貸しを作っていると思っているんですか?』
『…いいから、素直に引き受けてください。』
『いいんですか?そんな事を言って…』
『黙れ』
リーンがどのような返答をしていたかは想像にお任せする。ただ一つ言えるのは最後は半ば土下座に近いポーズを取っていたという事だけは言える。
結局、彼はレアからの頼み(脅迫)を断る事ができなかったのだった。
「まぁ…災難というか…何というか…えっと…そ、そうだリーンさんはどんな出し物をするんですか?」
あまりにもどんよりとした空気を醸すリーンにどのような言葉をかけるべきかメイフィは悩みながらも当たり障りの無さそうな疑問を口に出した。
「焼きそば屋の屋台…だな。まったくあの女…何が『得意の二刀流と同じ要領でやってください』だ…人の剣技を何だと思って…」
「あぁっ…えっと、あの…」
どうやら地雷であったようだ。益々どんよりした表情でリーンは呪詛めいた言葉をぶつぶつと呟き続けている。
余りにも痛々しいその様子を見ていられなかったのかキューイはメイフィからリーンの頭に飛び移り『元気だせよ』と言う様にぽんぽんと頭を叩いて見せた。
「でも…それでしたら出店でお料理を作りながら売ることになるんですよね?リーンさん一人では大変でしょうし…私もお手伝いしましょうか?」
「えっ…あぁ、すまない愚痴になっていたな…それは大丈夫だ。料理といっても単純な物だし作り起きしながらやれば一人でもなんとかなるだろうからな…」
「でも…」
「本当に大丈夫だ。寧ろメイフィ達には祭りに来て楽しんで欲しいと思ってる。規模も大きいし締めには花火を上がるそうだ。」
「そうですか…なんだか申し訳ないですけど…今回はお言葉に甘えさせて頂きますね。…お祭り、楽しみです…ねっ、キューちゃん。」
「きゅ!」
目を煌かせながら話すメイフィとキューイの様子にリーンはふっと表情を綻ばせた。
彼女達の様子は見ていて本当に和む。
「実は…私、お祭りって行ったこと無くて…藍さんからそのお話を聞いたときからずっと楽しみにしていたんですよ。」
「そうだったのか?だったら尚更僕の事は気にしなくてもいい。ゆっくりと祭りを楽しんでくれ。」
「有難うございます…きっと本物の花火は綺麗なんでしょうねぇ…」
目を煌かせながらそんな事をいうメイフィを見てリーンは本当に楽しみにしていたんだな、と改めて気づかされる。
「しかし…祭りに行った事が無いというのは意外だな。まぁ、僕もそこまで行った事が多い訳でも無いが…」
「え、えぇ…今までは家に篭って本ばかり読んでいましたから…中々そういう所は行けなかったんですよ。」
少し困った顔をして彼女はそう話す。今までの事から見ても彼女の読書量はリーンの比では無い、きっと自宅で本当に本ばかり読んでいたのだろう。
別にそれを悪いと言う訳では無いが、メイフィのような年頃で外に余り出ずに本ばかり読んでいたというのは珍しいな、とリーンは思った。
「…いい祭りになるといいな。」
「えぇ、本当にそうですね。」
彼女の笑顔を見て、リーンは必ずこの祭りは良い物にしようと心の内で固く決意した。


それから日が経ち…いよいよ夏祭り当日となった。
レアに押し付けられた時はしぶしぶとやっていた料理の練習であるがメイフィとの一見があってから毎日のように練習に励んだ甲斐もあり自分で味見する分には非常に満足する出来の焼きそばをリーンは作る事ができるようになった。
故に祭りの準備は万全…で、あるのが屋台に立つリーンの顔は暗い。屋台には作り置きの焼きそばが何個も置いてあるがそれが一向に履ける様子も無い。
それもその筈である…
「いらっしゃい!いらっしゃい!おいしい焼きそばだよ!本当においしいよ!何せ俺に師匠が作った焼きそばだからね!!」
威勢のいい声がリーンの前で上がる。その声を聞いてリーンは本日何度目になるか分からない溜息を付いた。
「本当においしいから!食べないと損だよ!!何せ俺の師匠が…」
「…ホロウ、もう大丈夫だ…だからその辺にしてくれ…」
「遠慮しなくてもいいですよ師匠!こういうのは威勢が大事なんですよ!こうやってお客さんの心をキャッチアンドリリースしないと!いらっしゃいいらっしゃい!!」
「リリースしてどうする…」
尤も、その客寄せではキャッチすら出来ていないでは無いか。と、リーンは思ったのだが流石にそれは口には出来なかった。
ホロウは悪気があってやっている訳では無いのだ、だからこそ性質が悪いのであるが。
祭りが始まってからリーンは黙々と焼きそばを作りそれを売り…を繰り返していた。自分でも無愛想だとは思っていたが、それでもそれなりに客は来てくれるので問題ないと思っていたのだが…
程なくして訪れたホロウがその様子を見て「俺が客寄せをしましょう!」と申し出たのだ。別に必要無いとは思ったが折角の厚意を無碍にするのも、と思いお願いしたのが事の始まりである。
蓋を開けてみればホロウはいささか威勢のよすぎる声で客寄せとは何ともいい難い事を叫び始めたのだ。
明らかに客足は減っている。焼きそばを求めて客が近くまで寄ってきてくれるのはいいがホロウの叫び声を聞いて若干引きながら店から遠ざかって行く様子を既に何回か見ている。
このままでは赤字であるのは目に見えている…流石に業績までは求められていないであろうがリーンとしても折角屋台をやっているのだから客は入ってきて欲しい、作り置きの山が何個も出来上がるのは作っている身としては非常に辛い物があった。
誰か助けてくれ…とリーンは祈るとそれに答えるかのように一人の人物が近づいて来た。
「…ホロウ。何をしているんだ?」
「あっ、レイミス!来てくれたんだ!」
レイミス=テイル、ホロウの友人である彼その人であった。
「祭りがあるとまでは聞いていなかったがな。俺はこういう所が嫌いなのはお前も知っていると思っていたが。」
「まぁまぁいいじゃんいいじゃん。たまにはこういう所で遊ぶのも悪くないだろ?」
「…。」
表情を一切変えないためレイミスが何を考えているのか分からないがこのやかましい友人には苦労しているようだ。二人の性格は全く違うし明らかに凸凹のコンビだ。だが…
「まぁ…花火ぐらいは見ていってもいい。」
これはこれで釣り合いは取れているのかもしれない。
本当に嫌ならホロウの所に来る前にこの人混みを見てさっさと帰る事もできただろう。それをしないと言うことは内心では誘ってくれた事に嬉しく思っているのかもしれない。
「だろぉ?あぁでもちょっと待って!今は師匠のお店の客寄せをしているから!」
「解った。人の少ない向こうで座っている。」
その声を聞いた瞬間にリーンは強く思った。
頼むから解らないでくれ。お前の友人をどうにかしてくれ。
そんな気持ちを込めて必死にレイミスに目配せをした。そして祈りが通じたのか…あからさまに不振な動きを取っているリーンを不振に思ったのか…リーンの目配せを理解したレイミスは納得したように軽く頷いた。
「ホロウ。折角だからもう少し祭りを見たい。何処に何があるか解らないからお前が案内してくれ。」
「え?でも…」
「僕の事は気にするな。有難うホロウ。本当に有難う。だからレイミスと一緒に祭りを楽しんできてくれ。」
やや棒読み気味にそう告げたがホロウは尚も渋るように唸っていた。
だが、折角の祭りだから楽しみたい気持ちもあったのだろう。申し訳なさそうな顔をしてホロウはそれを承諾した。
「すみません師匠…時間があったらまた客寄せしますから…」
「本当に気にしないでくれ。頼むから祭りを楽しんできてくれ!!」
「え、あ、はい…じゃあ師匠また後で!」
必死なリーンの様子に若干気圧された様子でホロウは答え店を後にしようとしたが、
「あ、ちょっと待ってくれ。」
リーンはホロウとレイミスを引き止めて積んであった焼きそばを二つを二人に差し出した。
「折角だからお前達も食べてくれ。自分で言うのもなんだが自信作だぞ。」
「わぁ…有難うございます!師匠!」
「…代金は?」
「別に金を取るつもりは無いぞ。同じギルドメンバーとしてのサービスだから気にしないでくれ。」
財布を出しかけていたレイミスを手で制してリーンはそう告げた。
ホロウは最後に大きく手を振るとレイミスを連れて人混みの中へと消えていった。
「これで…やっと営業再開できるな…」
心の底から安堵した表情でリーンは呟いた。

「よう、兄さん。繁盛してるかい?」
ホロウが去ってから客足も再び伸び始め次々と焼きそばを焼いていたリーンにそんな声が掛かった。
「あぁ、シカフか…それにドロシーとクロウも…いらっしゃい。」
「こんばんは!リーンさん!」
どうやらシカフとドロシーとクロウは3人で行動しているようだった。
シカフとクロウはいつもの普段着だが今日に限ってはドロシーは浴衣を着ている。
「浴衣、持っていたんだな…よく似合ってるよ。」
「えへへ~シカフ兄さんが買ってくれたんですよ~」
「どうしても欲しい!って聞かなかったからな…お陰で俺の財布はすっからかんだぜ?」
「ハハハ。つーか、そんな事いいながらドロシーの浴衣を一番楽しみにしてたのはシカフだろ?」
「うっ…まぁ…」
「えっ!そうだったの?なぁんだ、そんなに楽しみだったならもっとよく見せてあげるよ~ほらほら。」
そう答え、笑いながらドロシーはその場で一回転して見せた。
だがシカフから返ってきた言葉は気の利いた言葉等では無く…
「…ドロシー。そんな格好でそんな事したら転ぶぞ。」
何時も通りのやや過保護気味な言葉だった。
ドロシーとしてもそれが気に食わなかったのか少し顔を膨らませた。
「む!大丈夫だもん!何回も行ってるけど私は子供じゃないもん!兄さんはちょっと心配しすぎ!」
「子供じゃないって言ってもなぁ…お前この間だってそんな事言ってすぐ迷子になったじゃないか…」
「あ、あれは私が迷子になったんじゃないもん!兄さんが勝手に見失っただけだもん!」
「子供じゃないって言うなら、俺が見失わないような行動をだな…」
「むぅぅ!兄さんのバカー!!」
「あ、こら待てドロシー!!そんな汚い言葉を兄さんに言うんじゃありません!!傷つくから!!」
捨て台詞を吐いて駆け足で去って行くドロシーを慌てた様子でシカフは追いかけていた。
とはいえ格好が格好なのでスピードも遅くすぐに捕まりそうだが…確かに見ていて転びそうで危なっかしい。
普段は何だかんだでしっかりしているシカフもドロシーの前ではたじたじのようだ。
と、そんな二人の様子を見て追いかけることもせずケラケラとクロウは笑っていた。
「本当に仲がいいな…あの二人は…」
「あぁ、だな。」
「…そういえば一度顔を合わせたぐらいでこうやって二人で話す機会は今まで無かったな。」
シカフがクロウをギルドに加入させる際に一度シカフから紹介されて話した事はあったが事務的な会話で終わったのでリーンもクロウもお互いの事をよく知らない。
良い機会であるからここで少し話して交流を深めようか、とリーンは何か良さそうな会話の種を探し始める。
しかしリーンが口を開く前に先に口を開いたのはクロウの方であった。
「えーと、リーン…さん?だったか?ちょっと聞きたい事があるんだがいいか?」
「リーンでいい。何だ?」
「んーまぁ…大した事じゃないんだけどよ…アイツの事でな。」
クロウの視線はシカフとドロシーの方へと向いていた。
どうやら今しがたドロシーはシカフに捕まったようでまだ不機嫌そうにそっぽを向いている。
それをシカフが苦笑いしながら軽く手を立てて謝罪しているのが目に入った。
「アイツと俺が孤児で…俺がアイツの面倒を見てた事があったっていうのは知ってるんだったか?」
「詳しいところまでは知らないが…まぁ、そういう話はシカフから聞いた。」
「そっか、じゃあ話は早いわ。アイツら…つーか、シカフは俺がいない間元気にしてたか?」
「シカフがギルドに入ってからの事しか解らないが…まぁ、元気そうに見えたがな。僕の手助けを色々してくれて本当に助かってる、頼りになる奴だと思ってる。」
「そうか…なら、良かった…」
小さい頃は親代わり、いや兄代わりとなってシカフと共に過ごしていたクロウにとって自分のいない間の'弟'の様子はやはり気になったのだろう。
リーンの言葉を聞いてクロウは安心したように口元を綻ばせた。
「…いい兄を持ったようだな。シカフは。」
「いい兄貴と思ってくれたらいいんだけどな…アイツを置いて村を去った俺がアイツの兄貴を名乗っていいのかわかんねーけど…」
「そうやって今でもシカフの事を気に掛けているんだ…僕に兄はいないから兄弟がどういう物か解らないが…それだけで十分いい兄だと僕は思うがな。」
「…」
世辞でも何でも無くリーンの本心だ。それどころか、そうやって自分を気にかけてくれる兄が居るという事はリーンは内心では少々羨ましく思う程だ。
「アンタ、いい奴だな…ちょっと安心したよ。」
「そうか?僕は思った事を言ってるだけだからよく解らんが…」
「ハハハ。まぁともあれ改めてよろしく頼むよ、リーン。」
少し照れくさそうにクロウは手を差し出し、リーンもその手をしっかりと握り返した。
「あぁ、こちらこそ宜しく頼む。」
「向こうも落ち着いたようだし俺もアイツらの所に行くわ。つーか、なんか悪かったな邪魔しちまって。」
ドロシーは機嫌をようやく直したのか今度は素直にシカフの横を歩いていた。
何を話しているか解らないがさっきまでの怒った顔は何処にいったのやら今では満面な笑顔をシカフに向けている。
「邪魔になんかなってないさ、やってる事自体は大した事じゃないからな…と、そうだ。」
リーンは出来立ての焼きそばを3つパックに詰めるとそれをクロウに差し出した。
「僕の奢りだ。よかったら食べてくれ。」
「おぉ、有難うな!丁度腹減ってたんだ3つぐらい温かい内に全部食っちまう事にするよ。」
「…全部一人で食べるなよ?」
「ハハッ。冗談だって、じゃあなリーン。また後でな。」
そう告げると駆け足でクロウは2人の元へと戻っていった。
出来立ての焼きそばを受け取った2人がリーンに向かって手を振ったのが見えた後、彼らはそのまま人混みの中へと消えてしまった。
「幼馴染か…再会できて本当よかったな…」
数年間の断絶の時期があったという事を全く思わせない3人を見て、少し寂しそうな笑みを浮かべて誰に、という訳も無くそっと呟いた。

「オッサン、焼きそばをくれ。」
「…300メルだ。」
「何だよそれ。さっきホロウ達に会ったけどタダでくれるんじゃねぇのかよ。」
「生憎、未だに人をオッサン呼ばわりする奴にタダでくれてやる焼きそばは無いぞ。」
「あー?だからオッサンはいつまで経ってもオッサンなんだよオッサン!!」
「3回も言ったな!お前の発言がどれだけ僕の心に突き刺さってるのか解ってるのか!?」
「うっせぇよ!オッサン!オッサン!!クソジジイ!!!」
「く、くそじじ…?」
「れ、れーちゃんやめなよ…リーンさん泣きそうだよ…」
「泣いてない…」
そうは言うがリーンの手元はプルプルと震えている。声もいつもより若干掠れたような声になっている。
レイにオッサン呼ばわりされるのは慣れた(諦めた)節もあるのだが流石にクソジジイは心に来るものがあったようだ。
そんなリーンの様子を見てセクトは放っておけば更にどんな追撃をするか解らないレイを「まぁまぁ…」と、只管に宥めていた。
と、そこでリーンはふと思い出したようにセクトの顔を食い入る様に見つめた。
「す、すみません。れーちゃんは悪気がある訳じゃなくて…いや悪気はあるかもしれないけど…そのこれはれーちゃんもリーンさんの事を好きだから言ってるのであって…」
「あぁ?何気持ち悪い事言ってんだテメェ!!」
「ご、ごめん。や、やめて、やめてよ~」
レイにど突き回れされ涙目になりながら弱弱しい講義をするセクトが少々哀れに思ったが…
「い、痛っ!!れーちゃん目はやめて!!洒落にならないよそれ!!」
「うっせぇ!!さっきの発言取り消しやがれ!!」
セクトの様子を見て、リーンは安心したように笑った。
先日、レイに深刻な様子で相談を受けてリーンは自分では何もできない、とセクトに会う事はしなかったが心中では彼の事を心配していたからだ。
今の状況を見るに恐らく、もう心配するほどの事態はもう通りすぎたのだろう。自分が思っていたよりも立ち直りは早かったが。
それもきっと、今も尚執拗に彼を突いているレイのおかげ、なのかも知れない。
「レイ、じゃれあうのはいいがその辺にしといてやれ…」
「誰のせいでこうなったと思ってんだテメェ!代わりど突き回されてぇのか?」
「ほう?いい度胸だな…今の僕には武器があるんだぞ。」
そう言ってリーンは手元の両手に持った小手を構えてみせた。
「…全然カッコがつかねー…」
呆れたような表情でレイはそう呟いた。
こればかりは流石にフォローできないのかレイの攻撃から解放されたセクトも「あはは…」と何とも言えない声を上げるだけである。
自分としては面白く、そしてそれなりに様になってるギャグのつもりであったが両者からこのような反応をされると流石に気恥ずかしくなる。コホン、とワザとらしい咳をリーンはついた。
そこでふと、セクトはおもむろに首を横に向け、何か遠くの物を見るように目を細めた。
「あれ…?あの人たしかあの時の…」
「あ?どうしたんだよセクト。」
「うん、リプレで会った商人の人がいるみたいなんだ…ごめん、ちょっと聞きたいことがあったから僕行って来るね。ちょっと待ってて!」
「あ、おい!」
レイの言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、そう告げるとセクトは走り出して行ってしまった。
どうやらセクトの知り合いが居たようだが、それが誰であるのかはリーンもレイも全く心当たりが無い。
「…思ったよりも元気そうだな、安心したよ。」
「まぁな…立ち直ったのが本当に突然だったから俺もビックリだ。」
「何も心当たりが無いのか?」
「あー…オッサンはそっとしとけって言ってたけど俺、どうしても我慢できなくてつい色々言っちまったんだ。で、アイツが村に戻ってきたと思ったらあんな感じで立ち直ってたん…だよな。」
最後の言葉を少し躊躇するようにレイは告げた。
「だとしたら…お前のおかげなのかもな。」
「そうかねぇ…」
自信が無さそうにセクトの走って行った方向を見ながらレイはそう呟いた。
「正直さ、結構アイツに無茶苦茶言っちまったんだ…もしかしたらアイツ、無理してんじゃねぇかな…」
どうやら先ほどからの暗い表情の原因はそこにあるようだ。
口は悪いが、彼は本当に誰よりも友人思いの人物。その事を改めてリーンは実感した。
「無理…してるようには僕には見えなかったな。どちらかと言うと一皮向けた、という感じか。」
「…だと、いいんだがな。」
「ともあれセクトはもうある程度吹っ切れる事ができたんだろう。…結果的にそっとしておけという僕の偉そうな助言は間違っていたのかもしれないな。」
「あぁ、それは確かにあるな。」
ここは「そんな事無い」の一言を期待して自嘲気味に呟いたのだが…相手がレイである以上その期待を抱くこと自体が間違っていたようだ。
少し傷ついたようにリーンは唸るのを見てレイはハハハ、と大きな声で笑い出した。
「冗談だよオッサン、1厘ぐらいは。」
「いや、そこはせめて1割ぐらいに…」
「あんまり甘やかすとオッサンはすぐ調子乗るから駄目だ。…まぁ、こう見えてもその1厘ぐらいはオッサンに感謝してるんだぜ?有難うな。」
「…役に立てたようでなによりだ。」
たとえ1厘分しか感謝されていなくとも、「有難う」の言葉は削られることなく10割。
そう言ってもらえただけでもリーンとしては嬉しく思った。
「にしても遅いなセクト…俺、ちょっとセクトの所行ってくるわ。じゃあなオッサン。」
「あぁ、ちょっと待ってくれ。」
例によって出来立ての焼きそばを2つ分、レイに手渡す。
思った以上の熱さにレイは「アツツ」と言いながら焼きそばを断続的に軽く宙に浮かせつつそれをしっかりと受け取った。
「奢りだ。セクトと一緒に食べてくれ。」
「なんだよ結局奢ってくれるんじゃねーか…あ、もしかしてさっきの言葉でちょっと気分よくしちゃったのか?」
「…あんまり変な事を言うと僕の気が変わるかもしれないぞ?」
「ハハハ、冗談冗談。じゃあなオッサン、精々頑張れよ。」
「はいはい…」
やはり素直では無いレイに溜息をつきながらリーンはその後ろ姿を見送った。
レイは自分がセクトを無理させているのでは無いか、と心配していたがきっとそれは杞憂だろう。
『一皮向けた』これは気休めでも何でも無くリーンが本心から思った事だ。セクトが吹っ切れる事ができたのは確実と言ってもいい筈だ。
(…だが、それでも…)
少し考え事をしている間に手元で新たに作っていた焼きそばから焦げている臭いが立ち込めた。
リーンは慌てて小手でそれをひっくり返し再び焼きそば作りに集中を始めた。

祭りも佳境に入るにつれ、リーンの忙しさも増していく。
人の数も普段のジパングとは想像ができない程多くなっていた。やはりギルドが精力的に宣伝活動を行ったのはかなり効果が大きいようだ。
冒険者からそうでない人まで今この場に集まっている人達は多種多様である事は間違いない。
テンポよく調理を進め作り置きがそれなり溜まった所でリーンはふっと、一息ついた。
「お疲れ様です。よかったらこの差し入れの飲み物をどうぞ。」
人だかりの中から歩いてきて、そっと飲み物を差し出したその女性はリーンが全く覚えの無い人物だった。
『お疲れ様です』という辺りからどうやらこの祭りの関係者である事は間違いはないようだが…ひとまず差し出されたそれをリーンは受け取った。
「あぁ、有難う。貴方は?」
「あ、申し送れました。私は今回のお祭りの実行委員会の鈴音蜜柑(Mikan=Suzune)と申します。以後、お見知りおきを。」
蜜柑と名乗った女性は恭しく頭をを下げた。
やはり、リーンが思った通り祭りの関係者であるようだ…と、いう事は。
「じゃあ、貴方はアマテラスの人間なのか?」
「はい、そうです。早速覚えて下さったようで何よりです。」
「あ、いや…僕はこの祭りの前からアマテラスの事は知っているよ。」
「え?あぁ、そうだったのですか…これは失礼しました。」
知っていると言うと本当に意外そうな顔をするのはアマテラスの人間であれば誰でも同じらしい。
初めて藍と会った時の反応が脳裏にフラッシュバックしてリーンは思った。
「それで、宣伝の方は上手くいっているのか?」
「えぇ、おかげ様で。…解ってはいるつもりだったのですが私達って本当に知名度が現在は全くと言っていいほど無いんですねぇ…」
「だが、絶対に無くてはならない存在だ。貴方達のおかげで僕達は安全に生活できる場があるといっても過言では無いからな。」
「…そう言ってもらえると非常に在り難いです。」
そう答えて、蜜柑はまた頭を下げた。
口元は僅かだが上がっている、リーンの言葉を本当に嬉しく思っているようだ。
「あの…これはただの私の興味なのですが…私達の事は何処で知ったのでしょう?」
「本を読むのが趣味なんでね…どの文献に書いてあったかまでは覚えてないがそれを読んで知ったんだ…それに、僕のギルド自身アマテラスとそれなりに関係があるからな。」
「私達と関係…?失礼ですが…貴方の所属しているギルドの名前は何と?」
「自己紹介が遅れたな…僕はリーン=クルシモ。ギルドAssembleのギルドマスターを務めさせてもらっている。以後、お見知りおきを。」
簡単に自己紹介をして、リーンは蜜柑の真似をして恭しく頭を下げた。
Assembleの名前を出した瞬間に蜜柑は驚いた顔をして合点したように手を合わせた。
「じゃあ貴方達が私達の手伝いをしてくれている…ご、ごめんなさい全く気がつかなくて…それに、タダでさえ満足に謝礼もできていないのにこんなお手伝いまでさせてしまって…」
「いや、こっちも今まで挨拶もしてなかったからな。それに、これは僕自身が好きでやってる事だ、気にすることは無い。」
「ですが…いえ、いつも本当に有難うございます。遅れてしまいましたがこの場でお礼を言わせて頂きます。」
「いや何、寧ろお礼を言わないといけないのはこっちの方だ。藍とキーリは忙しい中だと言うのに僕のギルドでも凄く働いてくれているからな…」
と、言って礼を口にしようとした時、蜜柑はポカンとした表情でこちらを見ているのに気づきリーンは何も言うことができなかった。
まるでリーンが何を言っているのか解らないというような表情だった。別段おかしな事を言ったつもりはリーンは無かったのであるが…
「…え?それってどういう意味ですか?」
「いや…そのままの意味だが…藍とキーリは僕のギルドの一員として様々な依頼をこなしてくれてると…」
「つまり、藍とキーリは今、貴方のギルドに所属している。と、いう意味でしょうか?」
「あ、あぁ…」
不味い事を言ったかも知れない、とリーンは思った。
単純に藍とキーリが自分のギルドに所属しているという事に驚いている、というだけならまだ良かったが…蜜柑の様子を見るにどうもそれだけでは無さそうである。
それに、『そんな事聞いていない…』と、小さい声で、それでいて怒ったような声がリーンの耳にも入ってしまったのだ。
「…ごめんなさい。少し急用ができてしまったので私はこれで…リーンさん、いずれまた改めて御礼を言いに行かせて頂きますね。」
「あ、あぁ…いや、あの…」
「それから…藍とキーリを見かけたらすぐに本部に来るようにお伝え下さい。よろしくお願いします。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、それってどういう…」
全て言い切る前に蜜柑は足早に去って行ってしまった。
明らかに彼女は怒っているのは間違い無い。丁寧な言葉であるのは変わりはないが明らかに口調が違う。
何について彼女が怒っているのかハッキリとは解らないが…恐らくは…
「藍とキーリの事か…」
「え?私達がどうかしたの?リーン君。」
「ぬおっ!?」
リーンは思わず妙な声を上げてしまった。
噂をすれば何とやら…たったいま話題になった藍とキーリの姿がいつの間にか目の前にあったのだ。
予想だにしない反応をされ二人は怪訝そうな顔をリーンに向けた。
「なんだよ…アタシ達の顔はそんなにビビるような顔してるってのかい?」
「本当だよ!こんな美人を前にして失礼と思わないの!?」
「す、すまない…」
だが、自分で美人と言ってしまうのはどうかと思う、それにキーリの顔は確かに整っているが鋭い目付きであるので突然目の前に現れたら驚きもする…流石にそれは口にはできなかったが…
「で、私達の名前を呟いてたけどどうかしたの?あ、もしかしてそんなに私と会いたかったのかなぁ?」
「そんな訳あるか…」
「…こっちも冗談で言ったつもりだけどストレートにそう言われると傷つくなぁ…」
「そりゃあアンタの普段の行いのせいってもんでしょうよ。」
「ど、どういう意味ですか…先輩…」
「だってアンタ汚な…」
「あー!あー!あー!聞こえませーん!何も聞こえませーん!!」
「ちょっと落ち着け…二人とも…」
店の前でこんなコントを始められ回りの視線が気になったリーンがそう呟いた。
それに、丁度二人には聞きたいこともあった。運命なのか何なのかわからないが都合よく現れてくれた事にリーンは感謝した。
「…ついさっきなアマテラスの人間がここに来たんだ。確か…名前は鈴音蜜柑と言う…ん…?鈴音…?」
全く気にしていなかったが鈴音と言えば…確か…
「蜜柑?もしかしてお姉ちゃんかな?」
「やっぱりお前の姉なのか?…あぁ、だが言われてみれば…」
言葉遣いは全く違うが目の色や目の形がよく似ている。
リーンはいつも人の事は名前で呼ぶのでさっきは気づく事ができなかったが…
「リーン君お姉ちゃんと会ったんだ…それで、それがどうかしたの?」
「あぁ、それでお前達の話題になってな…去り際にお前達を見つけたらアマテラスの本部に来るように伝えてくれと頼まれてな…」
「話題って…それに、本部に来いって…え…?リーン君、お姉ちゃんに何言ったの?」
「別に大した事を言ってないぞ。ただ、お前達は僕のギルドの一員としてとても働いてくれてると…うわっ!?」
突如として肩を強く掴まれリーンは驚いた声を上げた。
手の主を見るとキーリが青ざめた顔をしているのが目に入った。
「なぁ、アンタ…蜜柑さんは怒っていたか?」
声も、そして掴んでいる手も少し震えさせながらキーリはそう言った。
「え、あ…そうだな…少し怒っていたような…そうでないような…」
「お、おい…藍…不味いんじゃないのか…コレ…」
「そういえば…まだ本部にその事報告してなかったもんね…うん…ちょっとヤバいかも…」
「え?おい、どういう事だ…?」
「ご、ごめんねリーン君私達もちょっと急用ができちゃったから…アハハ…」
「ちょ、ちょっと待て!」
「とりあえず逃げましょう!!先輩!!」
「あ、あぁ!!おい、アンタ!今度ちゃんと説明するからもし蜜柑さんが着たらアタシ達の事は見てないと言ってくれ!!」
「はぁ!?待て、まずはちゃんと説明をしろ!!」
「頼む!この通りだ!!」
「え、えぇ…?」
拝むように頭を下げるキーリの姿にリーンは戸惑った。
普段のキーリからは考えられない行動だ、一体何が彼女をそうさせているのか…
「と、いう訳で頼むよリーン君!すぐにまたこっちから連絡するから!!」
そういうが否や全速力で二人は駆け出していってしまった。
方向はアマテラスの本部とは真逆…どうやら二人は本当に逃げて行ったらしい。
「…」
あの二人、そして蜜柑の様子を見るからに問題点は恐らく「二人がギルドに加入している」という点だろう。
リーンは藍から問題ない、と聞いていたが…だが、この様子からするに、問題があったのだろう。
と、なれば今二人がアマテラスの本部に行けば何かしらの処罰があるのかもしれない。落度があるのは明らかにあの二人ではあるが…
リーンとて、あの二人に対して処罰が下されるのは望ましい事では無い。
恐らくあの二人なら今すぐ捕まるような事は無いだろう。向こうからの連絡が届き次第事情を聞くまで自分も何も見なかったようにするべきか…
「また一波乱有りそうだな…ハァ…」
小さくそう呟き、溜息を付く。
とりあえず今日の仕事はここで焼きそばを焼く事だ。あの二人についてはまた後日、詳しい話を聞こう。
そう、今は結論を出してリーンは再び小手を動かし始めた。

「はぁ…疲れたな…」
そう独り言を吐いて、リーンは店の前に「売り切れ」の看板を立て掛けた。
まだ祭りの時間は少し残っているが思いのほか店が盛況した為用意していた材料が無くなってしまった為だ。
材料が切れた場合はアマテラスの本部で補充ができると聞かされてはいたが、祭りの終わりまで後1時間も無い、今から補充しても意味は無いだろうとリーンは独断し、少し早めの店じまいをすることにしたのだった。
「あっ…もう、お店閉まっちゃったんですか?」
「あぁ、おかげさまでね。悪いが何か食べたいなら…」
そう言って振り返るとそこには見知った顔があった。
だが、雰囲気はいつもとは違う。いつも被っている帽子は外しており、服装もいつもと同じ黄色基調ではあるが洋服ではなく、今のこの場によく合っている浴衣を着ている。
服装が変わると雰囲気がここまで変わるのかと驚きを隠せない様子でリーンはメイフィ=イェルドをじっと見つめていた。
「すいません…もう少し早く来ればよかったですね…ロクに挨拶もできなくてごめんなさい…」
「あ、あぁ…別に大丈夫だ。気にしなくていいよ。」
そう、狼狽しながらもじっとメイフィを見つめているリーンに少し恥ずかしそうにメイフィは顔を俯けた。
「そ、そんなに見られるとちょっと恥ずかしいです…」
「あ、す、すまない。浴衣、よく似合ってるなと思って…」
「あ、有難うございます。これ、藍さんに貸してもらったんですよ。」
「そうなのか…いや、本当によく似合ってるよ。」
リーンがそういうとメイフィは再度「有難うございます」と笑顔で答えた。
よく本の中で「笑顔が眩しい」という表現が使われるが、それはきっとこういう事を言うんだろうなとリーンはしみじみと思った。
「リーンさん、今は時間ありますか?」
「あぁ、店じまいも済んだからな。片付けは祭りが終わってからやるつもりだし今は大丈夫だ。」
「なら…一緒に花火を見ませんか?もう少しで始まるそうなので…」
「あぁ、そういえばそうだったか…」
祭り最後のイベントの花火は終了15分前から始まるとリーンは聞いていた。
正直、当初の予定では今日は一日焼きそば作りに追われると思っていた為見ることは考えていなかったが…
折角、こうしてメイフィが自分を誘いに来てくれたのだから、
「あぁ、勿論構わないよ。」
リーンが断る理由等何処にも無かった。

「今日は一人で祭りを回っていたのか?」
「いえ、色々な人達と回っていましたよ。最初は藍さん達と回っていましたけど、途中で何処かに行ってしまったので…そこからはドロシーちゃん達やレイさん達のグループに混ぜてもらったりしていました。」」
花火を見るならいい場所がある、とメイフィは藍に予め教えてもらっていた場所があるらしい。
そこへ向かいながら二人は取りとめの無い会話をしていた。
「でも…藍さん何処に行っちゃったんでしょう…この浴衣も返さないといけないのに…」
「…どうも急用ができたらしいぞ。恐らく、ジパングからもう離れていると思うからその浴衣は後日返せばいいと思う。」
「え?そうなのですか?何があったんでしょうか…」
「さぁな…恐らくアマテラス絡みの急用だと思うが…」
「じゃあお仕事なんでしょうか…せっかくの時なのに大変ですね…」
「そうだな…」
若干、本当の事を織り交ぜながらもリーンは嘘を付いた。
そのことを内心申し訳なく思ったが、今この場でメイフィに心配事をリーンは増やしたくなったのだ。
「あ、ここですね…座りましょうか。」
「あぁ。」
地面には一面に草が生えている為、土で汚れる心配は無さそうだったため二人は下に何かを敷く事無く直接座り込んだ。
夏とはいえ夜、座り込むと少し冷たい感覚がした。
「そうだ、お腹空いていないか?」
「あっ…恥かしながら少しだけ…」
「じゃあ、よかったらこれを食べてくれ。」
少し恥ずかしそうにしているメイフィにリーンは懐から包みに入った焼きそばを出して差し出した。
「えっ、いいのですか?」
「あぁ。…本当は自分で食べようかと思ってたんだがな。他の奴らにも食べてもらったし折角だからメイフィにも食べてもらいたい。」
「だったら半分こしましょう?私は全部食べきれる程お腹空いていませんから…」
「そうしてくれると有難い…」
ここまでほぼ何も食べずに料理を作り続けてきたリーンは実際すでに極限までお腹が空いていた。
若干の見栄を張ってメイフィに焼きそばを差し出したが、彼女のこの提案はリーンにとって非常に有難い物だった。
大体半分の量に焼きそばを分け、メイフィは片方をリーンに差し出した。
「美味しいです…」
「あぁ…自分で言うのも何だが結構美味しいな…」
「今日はずっと一人でこれを作り続けてたんですよね…本当に、お疲れ様でした…」
「いや、やってみると結構楽しかったよ。また、機会があるならやりたいぐらいだ。」
「あはは。ではまた来年、ですね。」
すると、突如大きな音と共に空が光った。
花火の最初の一発目が上がったようだ。続いて二発、三発と連続して立派な花火が打ち上げられていく。
その幻想的な様子にメイフィは口を少し開けたままじっと見つめていた。
「綺麗…」
「あぁ…これは随分立派な花火だな…」
リーンが今まで見てきた中で、どれよりも。
それは、花火が本当に立派であるからなのか、それとも。
「…なぁ、メイフィ。」
「はい。」
「祭りは、楽しかったか?」
「はい!とっても!」
彼女の満面な笑顔を見たとき、リーンは今日一日の疲れが全て報われたような気がした。
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| 小話 | 00:47 | comments:8 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

そろそろ文庫化よろしくおねがいします!

| 名も無きそれ | 2012/10/14 20:01 | URL |

>名も無きどれだよ!!
1冊の本にまとめてくれるサービスあるしいずれやってみたいものだな・・・

| LeanKurusimo | 2012/10/21 03:55 | URL |

あと1時間半だよ・・・大丈夫??

| 名も無き者 | 2012/10/28 22:33 | URL |

あと1時間ですよ??
更新がまだなようですが・・・ギリギリで投稿して驚かせようとしてるんですか??

| 名も無き者 | 2012/10/28 23:00 | URL |

あと30分・・・時間が・・・

| 名も無き者 | 2012/10/28 23:32 | URL |

あああー!!!!!!!ああああ!!!!!!あ!!!!!!!!ああ!!!!!!!!

| 名も無き者 | 2012/10/28 23:58 | URL |

裏切リ者ニ死ヲ

| 名も無き者 | 2012/10/29 00:01 | URL |

名も無き者達>
なにこれこわい…

| LeanKurusimo | 2012/11/01 06:48 | URL |















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