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口悪の相談事。

少年は空を見上げていた。
見ている物は空の青さなのか、雲の白さなのか。あるいは、そのどちらでも無いのかも知れない。
少年はただ空を見上げていた。
その瞳はあまりにも空虚な物だった。
その瞳には空の青さも雲の白さも写っているが、それは、ただ写しているだけなのかも知れない。
少年はただひたすらに空を見上げ続けていた。


リプレの村の小さな飲食店。昼間という事もあり店内は旅人と思われる人々と村の住人達で非常に賑わっている。
とはいえ、中の人数は明らかに冒険者と思われる人物が圧倒的に多い。リプレの村にありがながらそこに住んでいる住人達は数える程度しかいないのが解る。
だが、それも無理も無い。元よりリプレの住人、ハーフブリンガーと呼ばれる獣人の村であるため食に関する事は人間のそれとは少しばかり違っている。
例えば肉や魚であれば焼かずに食べるし、森の果実もそのまま種ごと頬張ってしまう…これは穏やかな気性を持つとはいえ彼らはやはり'獣'人であるという事を再認識してしまう事だ。
その為、リプレの村には飲食店という物…それどころか調理という概念すらここ近年は存在すらしていなかった。しかしながら航路が繋がり外からの旅人が多く訪れるようになった昨今、流石に人間が生で肉や野菜を食べるという事もできない為、とある人物がこの小さな飲食店を開いたところ当初の予想に反して思いのほか繁盛している。
元々は外から来る旅人達の為に作られた物であったのだが、ここ最近はこの通りハーフブリンガーの獣人達もよく訪れるようになっている。まだ住民が全員という訳ではないが一部の獣人は生肉や生魚の味わいだけで無く調理された肉や魚の味の良さも認識したらしい。
それは兎も角。そんな小さな飲食の一席でテーブルに足を乗せ、両手を頭の裏に回し、機嫌悪そうに座っている人物の姿があった。

「おっせーぞ…オッサン…」
リーン=クルシモが店内に入ってからレイ=ミュエルは開口一番にそう言い放った。
「悪かったな…これでも急いで来たほうなんだが…」
リーンは少し申し訳なさそうにそう言うとテーブルに乗せているレイの足を軽く叩いてからレイの前の椅子に座った。
足を叩かれ、レイはまた不機嫌な顔をしたが何も言わずにテーブルから足を退け、床に下ろした。
「しかし…珍しいな。お前から僕を呼び出すとは…」
「あー…まぁ、な。」
今日、リーンがここに来たのはいつものようにリーンがレイを呼び出した訳では無く、その逆のレイがリーンを呼び出したからであった。
別にレイと不仲であるとは思っている訳ではないが、リーンとレイが顔を合わせるのは大抵はリーンがレイを呼び出したからであり今回のような事は滅多に無い。
ひとまずリーンは小腹が空いていたという事もあり店員に注文をした。この店オススメの品「羊肉のソテー」だ。…この羊肉は普通の羊肉では無く、リプレ周辺に住む「バク」と呼ばれる羊によく似た魔物の肉を使っているという噂もあるのだが…その味わいはそんな事どうでもよくなるほど美味であるらしい。
注文だけ済ませ、レイの方に向きなおしレイが今日の用件を話し出すのを待ったのだが…彼はぶすっとした表情を変えず一向にそれを話し出そうとはしなかった。
「一体どうしたんだ?まさか、僕の顔が見たかっただけという訳じゃないだろう?」
「あたりめーだボケ。確かに、まぁ、用はあるんだが…」
どうにも言葉の歯切れが悪い。そんなにもいい辛い事なのであろうか。
リーンは黙って「あー」やら「んー」やら唸るレイを黙って見ていた。そうしている間にも店の奥から香ばしい匂いが鼻を擽りリーンの空腹が更に加速していく。
そして、ようやく意を決したのかレイは再び口を開いた。
「ちょっとばかし…オッサンに相談があってな…」
「相談ン!?お前が!?僕に!?」
「…なんだよそのリアクションは…」
「いや…別に…そうか…お前が相談かぁ…」
ハッキリ言ってリーンはあまりにも意外なレイの言葉に愕然としていた。
あくまでリーンの分析であるがレイはあまり悩み等は余り作らないタイプ…仮にできたとしてもそれをすぐに自分で解決してしまうタイプだとリーンは思っていた。
そして更に仮に誰かに相談するにしても自分に対して相談してくる等絶対に無いと思っていたのだ。
なんだかんだ憎まれ口を叩きながらもそれなりに自分の事を信頼してくれてるのか、と思うとそれはそれでリーンとしては何とも嬉しい事ではあるのだが…
「それで?相談っていうのは何なんだ?」
「あー…まぁそんな大した事でも無い…って訳でもねぇか…まぁ、セクトの事なんだけどよ…」
そうレイが言った瞬間リーンの顔は僅かに強張った。
「セクトのもう一つの人格にアレンって奴がいただろ?アイツがさ最近になって消えちまったらしいんだよ…セクトの中から…」
「…そうか…」
そんなリーンの返事にレイは僅かに疑問を覚えた。
確かに、アレンはセクトのもう一つの人格であって主人格はあくまでセクトだ。
セクトがいなくなったとあればそれは一大事である、だが、アレンがいなくなったと言ってもそれほどは驚かれはしないだろう…とは思っていたのだが…
リーンのこの態度はまるでそれをすでに知っていたようなそれであるでは無いか。
「…オッサンもしかして知ってたのか?」
「…いや、初耳だよ。言い方は悪いが多重人格っていうのはそれ自体が既に異常だ。それが無くなって人格が一つに統一されたのは悪いことでは無いと思うからな。」
リーンはアレンがセクトのもう一つの人格では無いということはすでに知っている。
アレンという存在は、ニアと呼ばれる悪魔であると言う事も。無論、レイにはそれを伏せたが…
「ま、そうだわな。俺とアレンも色々あった仲ではあるけどな…俺もオッサンの言う通りだと思うよ。だけど、セクト自身はそうは思っていないみたいでな…」
そう言って僅かにレイは顔を俯けた。
すぐに顔は前に向けたがレイは少しばかり落ち込んでいるというのがリーンには解った。
「最近、元気ねぇんだ、アイツ…まぁ、アレンは俺がセクトと知り合う前からずっとアイツの中にいたらしいからな…セクトからしてみれば何年もずっと一緒だったダチが一人死んだようなもんだから当然だと思うんだがな…」
「まぁ、そうだろうな…僕から見てもあの二人は多重人格というよりは仲の良い親友といった感じだった。」
そこで少し間が空いた。
レイの言いたい事は大体伝わった。レイの事だから次の言葉を言おうとするとまた少し時間がかかる事は解る。
リーンはレイの代わりに、と口を開いた。
「それで、お前はセクトをどうにかして元気づけてやりたいって事だろう?」
「…別にそういうじゃ……じゃないわけでもねーけど……あぁもう!そうだよ、その通りだよ!!」
ヤケになった様に叫んだレイに隣の客が何事かと此方に目を向けた。
リーンは申し訳なさそうに手を立てて軽く頭を下げるとすぐに目を戻してくれたが。
「叫ぶな叫ぶな。お前の気持ちは別に悪いことでもなんでもない。寧ろ素晴らしい事だよ。それを恥ずかしがる必要なんて何処にも無い。」
「オッサンのそういう所は本当にムカつくわ…まぁ、そういうこったよ。オッサンならどうする?」
「僕なら…か…」
そう言って少しリーンは考える。
セクトの中にいるアレンがいなくなりセクトがそれを…と考えたところで少しややこしいな、と考え直す。
早い話、親友が亡くなって悲しんでいる人に対してどう声を掛けるか、何をしてやれるか、という事だ。
例えば…自分でも嫌な考え方だとは思うがセクトが死んでしまったとしてレイに自分が何をしてやるか…そう考えてみると…
「…何もできないな…」
「あ?」
「少なくとも僕には何もできない。掛けてやれる言葉も無い。」
「んだよそれ…使えねーなオッサン…」
「だが、お前もそう思ってたんだろう?自分では何も掛けてやる言葉が思いつかないし、何をしてやればいいか解らない。だから僕にこうやって相談したんだろう?」
「まぁ、そうなんだけどよ…」
「恐らくそれが正解…なんだと僕は思う。月並みな言葉だと思うがこういう事は他人がどうこうしてやるじゃなく自分自身…セクトがそれをどう向き合うかが一番重要な事だと僕は思う。」
「…」
「こういう時にその人を一番癒してやれるのは誰彼の言葉とかじゃなく、時間なんだと思う。セクト自身まだ気持ちの整理もできてないだろうからな…まだ暫くそっとしておいてやるのがいいだろう。」
「でもよぉ…アイツこのままじゃ何か変な間違い起こすんじゃねーかって…」
「そういう時はお前が傍にいてそれを制してやればいい。今はお前はただセクトの傍に居てやれ。それだけでいい。」
そう言い切ると丁度頼んだ注文がテーブルへと運ばれて来た。
口に出来立ての料理を運ぶと口いっぱいに香ばしい匂いが広がった。
レイはレイで少し気持ちがスッキリしたのだろう。不機嫌そうな顔を少し綻ばせていつものような馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「…年なんて大してかわらねークセに本当偉そうだなオッサン。」
「お前からしてみれば僕はオッサンと呼べるぐらいには年上なんだろう?年長者の含蓄あるお言葉として受け止めておけ。」
「ハッ…あーあ、なんか俺も腹減って来たわ。おーい!俺もこのオッサンと同じ奴くれ!!」
レイがそう言うと厨房から威勢のいい声が聞こえた。
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