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悪魔。

リーン=クルシモはそれなりに読書家だ。ただ、読破したような本は数える程度しか無い。
魔物狩りが基本的な生活行動であるが故に、落ち着いて本を読む時間も少ない。そして、彼は本を持ち歩くような事はしない。
その場を獣の如く駆ける彼に取って本はただの荷物にしかならないからだ。更に言うならば、着ている服もボロボロになるような日常を送っている為、本等持ち歩けば目次に目を通す前に紙クズになってしまうのは明白だ。
彼が持ち運べばそれは'本'にはならない。なので彼が'本'を読むのは宿屋の一室にある備え付けの本や…今、ここにいるような図書館で読むのが通例であった。
読破した本が少ないというのは大抵読みきる前に次の場所へ移動してしまうというのと、彼自身読みきれない事を理解しているので小説の一説、図鑑の1項目、観光案内の半ページ程度読んで満足してしまうのが主の原因であった。

(『夢を食べる動物…それは人間。』面白い文章だな…)
大量の本棚に囲まれた空間の中、リーンは行儀悪く梯子に座って本を読んでいた。
読み始めて1分程度。途中から開いて流し読みしていたため話の内容は全く彼は理解していないだろう。しかし、その表情は心底楽しそうである。
緩んだ口元を戻し、彼はその本を閉じて元あった棚に閉まった。滞在時間はまだ30分程度であるが彼が開いた本の数は既に20冊近くになる。もちろんどれも読みきってなどいない。
次はどれを読むかと、背表紙を指先でなぞりながら物色していると聞き覚えのある声が後ろから小さく聞こえてきた。
「あ、あの…ギルドマスターさん…ですよね…?」
指の位置はそのままに振り返ると黒い帽子を少し目深に被って少しオドオドした様子で一人の少年が立っていた。
直接話をするのはまだ数える程度しか無いが確か彼は…レイの友人の…
「あぁ、セクトか。こんな所で会うなんて珍しいな。」
「は、はい。下町に様があってルディブリアムから降りてきたんですけど…こんな大きな図書館があるなんて思ってなくて…」
「まぁ、確かにそうだな…」
ルディブリアムは街の住民も変わっているがその土地もこれまた変わった土地であった。
ルディブリアムという街は実は地上には存在していない。街の東部と北部から大樹の如く鎮座している塔…エオス塔とヘリオス塔によって支えられている云わば空中都市のようなものだ。
地球防衛本部と呼ばれる場所へと繋がっているのはエオス塔、そして下町へと繋がっているのが今いるこのヘリオス塔。
時空の歪が原因で昨今は魔物の巣窟と化しているこの塔の最下層にまさかこんな立派な図書館がある誰も夢にも思うまい…
「ギルドマスターさんも本が好きなんですか…?」
「リーンでいい。まぁ、本を読みきった事はあまり無いが読書はそれなり好きだな。」
「へぇ~…実は僕も結構本が好きなんです…折角だから何か読んで行こうかな…いいでしょ?アレン。」
この場にはリーンとセクトの二人しか存在しないのに唐突に3人目の名前が現れる。
最初にこの光景を見たときはリーンは頭がおかしくなったのではないかと心配したが…数回目ともなるとある程度は慣れていた。
彼の強烈な個性とも言える二重人格というのは実際この目で見るまでは都市伝説のような物だと思って疑わなかった物だ。
「い、いいじゃないか別に…今回はさほど急いで無いんだから…」
彼の中でどんな会話が繰り広げられているかはリーンは知る由も無いが…どうやらアレンはここで本を読む事を快くは思っていないようだ。
根っからの戦闘狂である彼にとって本等、尻を拭く紙にも劣る物なのだろう。
それでも粘り強く交渉を続けた甲斐あってか、どうやらアレンは等々折れたらしい。セクトは「有難う!」と自分に向けて言った。
「…もう一人の自分の性格がこうも正反対であると苦労するようだな…」
「あはは…まぁ、でもちょっとだけなら読んでいってもいいって言ってくれましたし…どれを読もうかなぁ…」
「それなら向こうの本棚にある本がいいかも知れないな。古代文字等一切使われていない物語がかなり置いてあるようだ。」
「じゃあ、それを読んでみようかな…有難うございます。…えぇ?ぼ、僕は別にそんな本読みたくないって!」
またしてもアレンから何かしらの茶々が入ったのだろう。ぶつぶつと独り言をしてるようにしか見えない背中を見ながら、
大変そうな奴だ、見ていて飽きない奴だ、そしてきっと本人も楽しんでいるのだろう。
と、そんな様々な気持ちを含んだ笑みをリーンはした。「これが本当の含み笑いか」と、リーンは独りごちたが即座に自分の渾身のギャグが面白くも何も無いと気づき真顔になった。
ともあれ、自分もまだもう少し本を読もう、誰も聞いてはいなかっただろうが恥ずかしさを誤魔化す様に咳払いし、気を取り直して再び本棚と向かい合い背表紙を物色する。
この本棚だけで手に取った本は3冊。読んだページは合わせて15ページ前後。
リーンの指先は背表紙をなぞり反復運動をし続けたがこの本棚にもう自分の興味を惹くような本は無さそうだ。そう、諦めて次の本棚に移動しようとした時。
最下段、右端。隠れる様に仕舞い込まれた1冊の本にリーンは目を留めた。
赤い表紙。非常に目立つ。が、それだけでは特に興味は惹かない。
背表紙にタイトルが無い、まぁ珍しいと言えばそうだがそういう本なら他にもいくらでも存在する。これも別に興味を惹くような要素では無い。
それでもリーンがその本に目を留めたのはその本その物が原因でなく、その本の周りが影響していた。
この本棚に、赤い背表紙の本はこの1冊しか存在しない。
同時に、この本棚にタイトルの無い本は1冊しか存在しない。
さながら、林檎園の中に1本だけ梨の木があるような…存在そのものは何一つ疑問抱くことは無いが、「それがそこにある」と言う事実に疑問抱く。そんな本だった。
そんな疑問に、それが気になって仕方なくなったリーンはその本を抜き取る。
ハードカバーでかなりの分厚さである為ずっしりとした重みが感じられた。
両手でしっかりと持ち、表紙を見た。どうやら背表紙にタイトルは無かったが表拍子にはしっかりと書いてあるようだ。
『究極悪魔大全』
「ヴぁっ」っと、リーンは何とも形容しがたい声を上げた。
何か有るのでは無いのかという疑問が見事にへし折られた落胆と、噴飯せずにはいられないそのタイトルに。
まぁ、こんな図書館に何かあるのでは無いかと夢を見た自分は恥じたが、それでもこのタイトルはフォローしようが無いほどチープだ。
というか、書いた奴は絶対に馬鹿だ。呆れを通り越して笑えて仕方が無い。ここが図書館という事もあるのでその声を必死に押し殺していたが場所が違えばもっと声を大にして笑ったに違いない。

さて、「悪魔」と言うと「人智を超えた恐ろしい物」と感想を抱くと思うが…まぁ、それは間違いでは無い。
だが、その存在は指し当たって珍しい物という訳では無い。言ってしまえば魔物の一つの種族のような物だ。
有名所を挙げるとするならば…「ジュニアバルログ」という魔物も種族は「悪魔」である。
かといって世に語り継がれる「悪魔」がすべからく実在するかと言われるとそれは違う。「実在」と「架空」は勿論入り混じっている。
なのでこの世界の「悪魔」を大雑把に分けるなら「存在する悪魔」と「存在しない悪魔」の二つだ。
「存在する悪魔」は先述したように「ジュニアバルログ」といった者達。その大半は人に害なす存在である為「悪魔」と言うよりは「魔物」と言われる事がほとんどだ。
そのため、「悪魔」と敢えて形容するものは「存在しない悪魔」。架空や迷信の存在を指す事が多いのだが…

この本はそんな2つの悪魔を関係無しに区別無しに、とにかく本当に全てを羅網しているといってもいい程「悪魔」の情報が充実していた。
生態は勿論、好物や対処法、更には誰がそんな情報を求めているの判らないような情報までとにかくその「悪魔」についての情報がありったけに書かれまくっている。
(とんでもない本だな…)
流し読みでしっかりと見ている訳では無いが、その程度でもそう思わずにはいられない。
余白の存在を許さない、と言わんばかりにページ一杯に文章がありったけに敷き詰められている。
「圧巻」の一言に尽きる。…タイトルのチープさについてはやはりフォローのしようがなかったが…
(ん…?)
かなりのスピードで本を捲っていたリーンの手が不意に動きを止めた。
博識を気取るつもりは無いが、実在、架空問わず悪魔というのはリーンはそれなりに知っている。
どういった存在かまでは詳しくなくとも、少なくとも名前ぐらいは大体は知っている、つもりだった。
そんな彼の目に不意に入った'それ'の名前は記憶を巡ってみても全く持って聞き覚えが無かった。
まぁ、本は手に取った以上どこかしらのページをしっかりと読むのがリーンの流儀だ。その流儀に則りリーンがこの本の熟読するページはここに決まった。
再び、行儀悪く梯子に座り込み、少し本を近づけて捲る姿勢から読む姿勢へと変える。
'それ'について書かれているのは3ページ程度だったが小さい文字が敷き詰められている、近くから見ても読みづらい。遠目から見ればまるで記号の羅列のようにすら思える。
リーンの目は自然に細まり、読んでいる文字に指を沿わせて少しづつ読んで行く…1ページ読むのにも通常よりもかなりの時間を要した。
(……!)
読書は、娯楽。リーンが本を読んでいる時は大体は口元が緩んでいる、もっと酷い時はにやついている事もある。
だが…読み進める毎にリーンの目付きは徐々に睨み付けるかのような鋭い物へと変貌していく。
その表情は娯楽の真っ最中とは程遠い…だが、彼は読み進める事を止めない。
(……)
そして'それ'の全てを読み終え、リーンは顔を上げた。
目線の先にあるのは黒い帽子を目深に被った、二重人格の少年。
目付きは変わらず鋭いままで、'彼'を見つめていた。
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| 小話 | 20:32 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ついに退治されるのか

| 名も無き者 | 2012/01/06 00:34 | URL |

名も無き者>
ど、どうかなー・・・?

| LeanKurusimo | 2012/01/18 13:36 | URL |















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