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英雄。14

―リーンが、生まれて初めて自分の'死'を自覚したその日、その瞬間、何もかも全てが'巻き戻った'。
燃え尽きた国も、散った民の命も、何もかも全てが何事も無かったかのように元通りになった。
唯一、違う点を挙げるのならば…それはリーン自身が途方も無い程の'力'をその身に宿した事だろう。

リーンが初めて巻き戻ったその日、リーンはいつもと同じ様に自室のベットで目を覚ました。
寝ぼけ眼で窓から外を見ると、心地よい朝日と早朝の静けさがリーンの体を包み込む。
そのままぼんやりと外を眺めていく内に、リーンはハっとして腹部を手で触った。
(何も…無い…?)
昨日、賊に撃たれた筈の腹部には傷一つ無かった。
あれほどの傷、当然ながら1日程度で治るはずもない…一体何故?
様々な思考がリーンの頭をよぎるが、窓から見える穏やかな街の景色を見て一つの結論に辿り着いた。
(夢…か…)
あまりにもリアルすぎて、思い出しただけでも気分が悪くなりそうだった。
だが、よくよく考えたらこれほど穏やかで美しい国が一夜にして地獄と化すなんて有り得ない話では無いか。
(疲れているのかも知れないな…)
あの悪夢の原因をそう結論付け、リーンは手早く身支度を整えて自室を後にした。
…人は起きてから暫く立てば、その日見た夢の内容を段々と思い出せなくなる物だが、今日のリーンはどれほど時間が経っても悪夢の内容を鮮明と覚えていた。

次に違和感を感じたのは、それから1時間もしない内だった。
「今日は、農場の方へ視察に行かないといけないね。まぁそうはいってもこれと言って災害があった訳でも無いし、今年も豊作みたいだけどね。」
リーンの横を歩きながら、カノンは手元にある手帳を捲り、リーンにそう言った。
「え?」
しかし、その言葉にリーンは疑問を抱き反射的に言葉を返す。
聞き損ねたのかと思ったのか、カノンは苦笑しながらまた同じ言葉を繰り返した。
「だから、今日は農場の方へと視察に行かなきゃいけない日だねって。」
「何を言ってるんだ…?農場ならつい先週に視察に行ったばかりだろう?」
「あれ?そうだったかな?」
首を傾げて、カノンはまた手帳をぱらぱらと捲る。
しかし、手帳の中にはリーンの言った言葉は記されていなかったようだ。
「やっぱり行ってないみたいだね。リーン、何かと勘違いしてるんじゃないのかい?」
「そんなバカな…視察は先週に行って…そう、お前の言う通り例年通り豊作だったから何も心配する事は無かったという話で終わったじゃないか。…カノン。お前も一緒に行っただろう?」
「…。」
困惑したようにカノンは眉をひそめた。カノン自身は本当に言った記憶が無かったからだ。
だが、リーンが冗談で言ってるようにも思えなかったし、寝ぼけているようにも思えない。
だからこそ、伝えにくく感じたし…何より本気でそんな発言をしているリーンが心配になった。
「…悪いけどリーン、本当に行ってないんだ。その日の執務は逐一記録しているし…僕自身にもそんな記憶は無いよ。」
「そんな…。」
カノンは執事としてよく働いてくれている。慣れない事の筈なのに、これまで一度も仕事でミスらしいミスをしたことが無かった。
更に言えば、カノンの記憶力は常人のそれより格段に高い事も解っている。
そんなカノンが言うのだから…リーンは「自分が絶対に正しい」と断言することができなくなっていた。
「リーン、きっと少し疲れているのかもしれないよ。来週は比較的に余裕があるはずだからその時にしっかり休もう?」
「…あぁ、そうだな。すまない。」
そう、きっと疲れているんだ。そうに違いない。
そう言い聞かせて、リーンは自身の中にある得体のしれない違和感を振り払った。

…だが、やはりその日の視察の何もかも全てはリーンの記憶通りの展開に始まり、終わった。

それから数日が経った。
(絶対に、おかしい)
その日の執務を全て終えた時には、辺りはすっかり暗くなっており、リーンは風呂にも入らず自室のベッドに寝転がった。
結局、この1週間の内に起きたことは全て自分が'知っている'事ばかりだった。
絶対に何かがおかしい、そう確信はできるのだが…'常識的に考えてそんな事態が起こるはずが無い'という己の理性がその訴えを拒んでいる。
(そういえば…今日は…この後…)
そうだ。'あの日'は確か、この後に。
それをハっと思い出したリーンだったが、襲い来る睡魔には勝つ事ができずそのまま意識を手放した。
…そして、'あの日'はこの後に再び実現してみせた。


「…。」
目を覚まし、リーンはぼんやりと体を起こした。目覚めは…言うまでもなく最悪だった。
ここ数日、リーンはこうやって悪夢に苛まれ続けている。
この悪夢の連続に何か意味があるとするならば…きっとそれは民の怒りなのだろう。
自分が、救う事を諦めて、見捨ててしまった民の。
「痛ッ…。」
右眼にチクりとした痛みを感じ、リーンは軽く手で触れる。
ざらざらとした包帯の感覚を手に感じて…リーンは昨日の一幕を思い出し深いため息を付いた。
(…これから僕はどうなるんだろうか。)
様々な思いがリーンの中には巡っていたが、胸中を一番支配している思いはこれだった。
あの女…フレイヤと言ったか。彼女にこの先、師事してどうなるのか。
そして…自分の体はどうなっていくのか。
ベッドから降り、室内に設置されていた姿鏡の前にリーンは立った。
そして、するすると右眼に巻かれた包帯を取り始める。
…鏡に映った自分の右眼は、まるで化物のような物へと変貌していた。


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自分の右眼がこうなってしまったという事に対しては、リーンはさほど驚かなかった。
寧ろ、リーンはなんとなくそれを予想していた。
何故なら、あの時に激痛が走ってから自分の中にあった'力'を全く感じられなくなってしまっていたからだ。
「…。」
試しに、と。眼を閉じて、眼に力を入れる。
普段、自分が使っていた通りに'力'を発動しようと。だが…
「グゥッ!?」
そうしようとした瞬間に、リーンの右眼にまたしても激痛が走り、思わず苦悶の声を上げる。
'力'を使おうとしたのをやめた瞬間に、その痛みは引いたがリーンの心拍はまだ少し上がっていた。
(やはりか…)
自分の中にあった'力'は消えた。右眼にその大きな痕を残して。
これは、きっと国を救おうとした事を諦めた報いなのだろう。だから、国宝にまで自分は見放されてしまったのだ。
「ハハッ…」
乾いた笑い声が思わず漏れた。
'力'が完全に失せたのなら、完全に国を救う手立ては無くなった。
今度こそ、本当に全てを失ったのだ。国も、民も、友も、剣も、力も。
いっそ死んでしまえれば楽になるのに…有り得ない幻想を抱いた瞬間にリーンはふと、気づいた。
('力'が無くなったなら…今の僕は死ねるんじゃないのか?)
今まで自分が致命傷を負っても、死ぬことが無かったのは全て身に宿した国宝の力によるものだ。
それが無くなったのならば当然、自分は死ぬはずだ。
「…。」
ごくり、とリーンは生唾を飲む。そうだ、あれほど望んでいた'終わり'がもう、自分のすぐ目の前にあるのだ。
このまま、そこの窓から身を投げれば…。
『貴方が私の元から黙っていなくなる事は許しませんからね。もし貴方が居なくなる事があれば私は地の果てまででも貴方を追いかけます。』
だが不意に、昨日あの女に言われた言葉が脳裏をよぎった。
「チッ…」
昨日の一幕を再び思い出し、リーンは不愉快さを抑えきれず舌打ちをした。
だが、そうだ。不愉快だが、どこまでも不愉快だが。自分は'決闘'の結果としてあの女に師事する事になったのでは無いか。
その約束事を守らず、ここで死ぬ事はきっと父上も許してくれはしないだろう。
(…まぁそれに、死ねるのならば尚の事だ。その時は父上の剣と共に逝こう。)
そう考えなおし、リーンは手早く包帯を巻きなおして部屋を後にした。

「おはようございます。よく眠れましたか?」
「…。」
階段を下りて食堂に向かうと、いつも通りフレイヤは先に来ていた。
そして、いつも通りにこやかに挨拶をし…リーンはそれを無視をする。そして女は苦笑い。
ここ数日の朝はいつもこんな感じだ。
いつもならここで女がベルを鳴らし、朝食の準備を始めてもらうのだが…今日は違った。
「昨日言った通り、今日から私は師として貴方に剣を教えます。」
「…あぁ。」
「仮にも私は師ですからね。それなりに礼節を持って接して下さい。いいですね?」
「…盗人じゃなければ、いくらでも礼は尽くしてやるさ。大体、この話もお前が勝手に決めたことだろう?'決闘'の結果だからこそ、師事するという話には従うが、礼節まで弁えるつもりは無い。」
嫌味ったらしくリーンはそう言い切った。
流石に、不機嫌な顔の一つでも見せるかと思ったが、フレイヤはいつもと変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。、
「まぁまぁ、そう言わず。別に私に畏った態度取れとかそういうのでは無いですから。とても簡単な事です。」
「…何だ?」
「まず、自分に対して掛けられた言葉にはきっちり言葉で返しなさい。おはようと言われたならおはようと返す。何かを言われたのなばら答える。至極、当然の事でしょう?」
「…。」
フレイヤの言い分は何一つ間違っていなかったが、リーンは案の定答えはしなかった。
普段なら、こうやって黙って睨みつけていれば勝手に話は進んでいくのだが…今日はそうはならなかった。
「返事は?」
「…解ったよ…。」
きっと、こう答えなればいつまでもフレイヤはリーンをじっと見つめ続けていただろう。
それを察したリーンは早々に折れた。
「それからもう一つ…」
「まだあるのか?お前の言葉にはちゃんと反応してやる。それで十分だろう?」
「いーえ、ダメです。…私は'お前'では無くフレイヤという名前があります。人の名前はちゃんと呼びなさい。これも簡単な事でしょう?'リーン'?」
「…はぁ?」
「'はぁ?'じゃなくてフレイヤです。それとも、私を先生とか師匠呼ばわりしたいのですか?」
「いや…そういう訳じゃ無くて…」
確かに、フレイヤの言う通り、仮にも自分の剣を盗んだ相手を師匠や先生と呼ぶのはリーンとしても不愉快な話だったが…
かといって名前で呼ぶというのも聊か気恥ずかしい物があり…そんな気恥ずかしさをフレイヤ相手に感じているのも不愉快であり…
様々な思いが巡り、今、リーンの心中はここ数日の間でも一番複雑なものと化していた。
「私に対して色々な思いがあるのは解ります。ですが、もう嫌でも貴方は私から離れることはできません。…一日中ギスギスした空気で過ごすのも息苦しいでしょう?」
「…解ったよ。…フ、フレイヤ。」
「宜しい。」
途切れるようなか細い声だったが、満足した様子でフレイヤは笑った。
憎い相手、腹立たしい相手なのは間違いなかったが、彼女の言ってることは正論だとリーンは素直に思えたからだ。
尤も、昨日までならば、きっと終始無言で睨みつけていただろうが…フレイヤの言う事を不愉快そうにしながらも聞ける程度には、リーンの心は少し晴れていた。
それは'力'を失い、終わらせようと思えば、いつでも自分を終わらせる事ができるいうある種の安心感。
そして、フレイヤから剣を取り戻し、それと共に死ぬという目標ができたからなのだろう。
とんでもなくマイナスな思考である筈だが、終わりの見えない戦いを続け、やがて諦め、悔やみ、己を罵倒し続けたリーンにとっては却ってそれがプラスに働いたようだ。
「では、いつも通り朝食にしましょう。食べて、少し間を置いたら早速始めますからね。」
「解った。」
そう言ってフレイヤは卓のベルを軽やかに鳴らした。
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| 小話 | 02:35 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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