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英雄。13

「…血は止まりましたね。ひとまずはこれで大丈夫でしょう。」
「…」
場所は変わって宿屋の一室。
先の戦闘の後、突如として右眼からおびただしい量の血を流したリーンを女がここまで運んで来たのだった。
血まみれのリーンを連れ込んだ際、かなり宿屋の店主に驚かれたが「早急に一室貸して下さい。」とだけ女が告げると、店主は部屋の鍵を渡しただけでそれ以降干渉してくる事は無かった。
下手に関わり合いにならない方がいいと思われたのか、それとも店主がこういった状況に慣れているのか…それは解らない。
「…右眼には包帯を巻いておきます。当面は外さない方がいいでしょう。」
「…。」
されるがままにリーンは包帯を巻かれる。
右眼に強い圧迫感を受け、少々きつく締めすぎでは無いかとも思ったが何も言わなかった。
「これでよし、と。…いやはや驚きましたよ…まさかこんな事になるなんて…ねぇ?」
「…。」
「もしもし?聞いていますか?」
「…。」
はぁ。と大きなため息が聞こえたがそれでも尚、リーンは何も言わなかった。何も言えなかった。
ただただリーンは絶望していた。己の弱さに。何もかもを失ってしまったという喪失感に。
せめて父の形見だけでも、と大見得を切って挑んだ決闘も成すすべもなく、完膚なきまでに敗北をした。
そして…それどころか…
そう考えた所で、リーンの額に軽い衝撃が走った。
どうやら女が小突いてきたらしい。そしてどういう訳だが妙にニマニマと笑っている。
「ようやく目を合わせましたね。聞こえているのでしょう?人が話しかけてるんですから返事ぐらいちゃんとしなさいな。」
「…話す事は無い。」
「貴方には無いかもしれませんが私にはあります。大事な事ですからちゃんと聞いて、返事をして下さい。」
そんな女の言葉にリーンは軽く鼻を鳴らす。
だが、視線は女から外す事は無かった。話を聞くつもりはあるらしい。
それさえ解れば十分だったのか、女はいつものように柔和な笑みを浮かべて話を続けた。
「…今回の決闘、私の勝利という形で終わりました。異論はありませんよね?」
異論はもちろんなかった。
今回の決闘は終始女に遊ばれるような形で終わってしまったのだ。何も言う事は無い。
強いて言うなら、恨み言ならいくらでも浮かんでくるがそれを口に出すほどの気力は今のリーンには無かった。
視線だけを向けての沈黙。それを女は肯定と受け取り次の言葉を紡ぎ出す。
「決闘とは互いが何かを賭けて戦うという物です。なので貴方には私の言う事を一つ聞く義務がある。そうですね?」
「あ…。」
女の言ってる事は間違いなく正論であるのだが、リーンはその事実をすっかり失念していた。
元より負ける事など一切考えてすらいなかったのだ。…今にして思い返せばあまりにも愚かしい話だとは思うが。
「貴方も剣を扱う人間なら'決闘'の神聖さは解っているでしょう?今からいう私の望みは絶対です。否定する権限は貴方にはありません。」
この女の望み…リーンは少し考えようとしたが、即座に考えるまでも無いと思考を打ち切った。
大方、『この剣を正式にこちら渡せ』と言った所だろう。
無論、断ると言いたいが…この女の言う通り'決闘'の神聖さはリーンも理解している事だった。…父にも散々言って聞かされていた事だったのだから。
『…'決闘'の結果として剣があの女に渡るというのならば…父上も理解して下さるだろうか?』
ぼんやりとリーンはそう考える。
解らない。解るはずも無い。だが、少なくともここで自分が結果を受け入れず無様に喚き散らす事だけは父は許さないだろう、という事だけは解る。
『なら…仕方ないか…』
そう思い、リーンは心中で父に謝罪の言葉を呟き次の言葉を待った。
だが、女の次の言葉はリーンが全くもって予想していない物だった。
「明日から私が貴方に剣を教えます。貴方は私に師事しなさい。」
「…は?」
あまりに予想を超えた発言にリーンは思わずそんな素っ頓狂な声を出す。
そんなリーンを心の底から疑問に思ってるのか、女は真顔で首を傾げた。
「そんなにおかしな事ではないでしょう?私が貴方の剣の師匠になる。それだけですよ?」
「いや、おかしいだろ!!なんなんだよそれは!!痛ッ…」
急に立ち上がって叫んだからか、リーンの眼に痛みが走る。
女は宥める様にリーンの体を摩り、再びベットに座らせた。
「…お前、その剣が欲しいんじゃなかったのか?」
「この剣が欲しい、だなんて私が言った事ありましたか?…まぁ、確かに素晴らしい…いや、途轍もない程の業物だとは思いますけどね。」
そう言って、女は腰に提げてあったリーンの剣をそっと抜いた。
黒味を帯びた刀身が煌めき、女の顔を鏡の様にくっきりと映す。
「直接使ってはいませんが見れば解ります。切れ味もある、強度もある、それでいて恐ろしく軽い。このような剣、きっとこの世界には二つと存在しないでしょう。…剣を扱う者ならば、誰もが欲しがるといっても過言では無いかもしれません。」
「だったらどうして!?」
「どうしてって…まぁ…私には'自分の剣'がありますからね。それだけの事ですよ。」
自分の剣とは女がもう一つ腰に提げてる剣の事だろう。
リーンの目から見ても大した剣だとは到底思えない。なんなら先日、リーンが町で買ってもらった剣よりも良い物とは言えないだろう。
だというのに、この女は『自分の剣があるから要らない』と言う。
剣を奪われたい訳では勿論なかったが、これはこれでリーンはなんだか釈然としない気分に陥った。
「それに…貴方にとっても悪い話では無いと思いますよ?私が剣を教えて貴方は強くなり、私からこの剣を奪い返す程の力を付ける事ができるかもしれませんから。」
「…嫌だと言ったら?」
「先ほど言った通り、『嫌だ。』なんて言えない筈ですよ?貴方もそれは解っているでしょう?」
「…。」
無論、それは解っていた。
ただ、何となくこの女の思惑通りに話が進んでいくのが癪だったから言ってみただけの事だ。
『本当に…いちいち癪に障る…』
だが、こうなった以上もう自分が言える事はこれしかない。
「解った…剣でも何でも教えろ…お前に…師事する。」
「宜しい。」
そう言って女は笑みを浮かべてリーンの頭を撫でた。
リーンは軽く舌打ちし、その手を退かすと女はまた笑った。
「こうなった以上、貴方が私の元から黙っていなくなる事は許しませんからね。もし貴方が居なくなる事があれば私は地の果てまででも貴方を追いかけます。」
「…解った。」
そう答えはした物のリーンの頭はある言葉で埋め尽くされていた。
(なんなんだ…これ…)
自分が追いかけて剣を奪い返そうとする立場であった筈が逆転してしまっている。
解らない。この女が何を考えているのかが本当に解らない。
「さて、話もまとまった事ですし…そろそろ教えてもらえませんか?」
「何をだ?」
「名前ですよ。貴方の名前。」
そう言われて、リーンは今までお互い名も知らない状態だった事をようやく自覚した。
特に隠す理由も無かったのでリーンは素直に自分の名を名乗る。
「リーン…だ。」
「リーン、ですか。…いい名前ですね。」
だが名は名乗ったが、姓を名乗る事はしなかった。
国を救えず、皇たる資格が無い自分に「ファレンス」を名乗るのは自分が許せなかったからだ。
リーンが姓を名乗らなかった事に、女は少し疑問の表情を見せたがすぐにその表情を消し追及しようとはしなかった。
「…それで?お前の名前は?」
「あぁ、そうですね。私もまだ名乗っていませんでしたね。」
女はそう言って、柔和な笑みを浮かべ答えた。
「私はフレイヤ。フレイヤ=クルシモと申します。」
数日間に渡るこの長すぎる前置き。
これこそが、そう、これこそが。
これから先、リーンが一生忘れられない存在となるフレイヤとの出会いだった。
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