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英雄。11

―終わりの予兆はどこにあったのだろうか。
暗闇の中、遠くに見える炎と煙を呆然と見つめながら、リーンは思う。
あの場所には確かにあった筈だ、美しい国が。祖先が創り、父と母が守り、リーンが継いだ国が。
それがたった一夜にして、炎と煙に包まれた地獄に変貌するなど、誰が想像しただろうか?
風と共に聞こえて来る喧噪から逃れるようにリーンは耳を塞ぎ、うずくまった。
「こんなのは…夢だ…こんな事…ある筈が無い…」
ただただ、現実から逃げる様にリーンはそう呟く。
「こんな…こんな物の為に…!!」
右手にある'それ'をリーンは恨めしそうに強く握りしめる。
リーンの国には代々伝わってる国宝があった。
色は一切の濁りも淀みも無い、済んだ赤透明。そして形は一切の歪みがない球体。
狂気すらも感じる美しいその宝石は、人を魅了するには十分すぎる代物だろう。
だが…こんな小さな物の為に、こんなただの宝石の為に、自分の国は、民は…
「こんな物が一体何だっていうんだ!!!!!!!!!!!!!」
感情を抑えきれず、リーンはそう絶叫する。
'敵'は確かに、これを狙って自分たちの国へ攻めてきた。だからリーンは、これを持ってここまで逃げてきた。
本当は逃げたくは無かった。だが、友は言った。『皇が死んだら一体だれがこの国を治めるんだい?』と。
しかし、この状況になって思う。皇が生きていても、民が存在しない国に一体何の価値があるのか?と。
やっぱり、逃げるのでは無かった。たとえ死ぬ事になったとしても、最後まで民と共に、国と共にいるべきだった。
「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
死に場所すら失ってしまったリーンは、狂ったようにそう叫ぶ。
一体どうしてこうなった?敵国が攻めて来たから?どうして攻めて来た?
狂いそうな思考では、その答えはまとまらない。だが、これだけは言える。
こんな物さえ無かったら、こんな事にはならなかった筈だ。
何が国宝だ。ただ綺麗なだけのただの石じゃないか。
「こんな物!!!!!!!!!!!」
そして手に持った国宝を、守る為に持ってきた宝石を、全てを失う原因にもなった石を…地に叩きつけようとしたその時。
リーンの腹部に突如として鋭い痛みが走った。
「グァッ!?カッ…」
声にならない悲鳴を上げてその場にうずくまり、リーンは腹部に手を当てた。
湿り気を感じる、それも尋常では無いほどの。腹部から湧き水のように何か噴出している。
「あ…」
血だった。
(撃たれ…た…?なんで…?)
朦朧としはじめる意識の中でリーンはそんな事を考えていた。
しかしそれは考えるまでも無い。敵の目的の物を持って逃亡し、あのような絶叫を上げていれば気付かれない方がおかしな話だ。
だが、今のリーンにはそんな単純な答えにたどり着くことすらできなかった。ただ、理解できるのは溢れ出る赤の量。即ち、自身の死が近いという事だけだ。
(死…あぁ…でも…これでよかったんだ…)
もう、これ以上生きていても仕方がない。
国と民と共に自分も死のう。それで綺麗に収まる。でも…
(…こんなの…おか…し…い…)
そう思った所で、遠くからまた一つ弾けるような音が響き、鋼鉄は的確にリーンの心臓を穿いた。
それと同じくして、リーンの僅かに残っていた意識もそこで途切れた。

それから間もなくして、大木の上から影が一つ躍り出た。
顔はフードで隠れ、その表情は解らない。だが、眼前にある俯せに倒せた人間の姿を見て頷いた所を見ると、恐らく満足気な表情をしているのだろうと予想できる。
「雉も鳴かずば撃たれまい、とはよく言ったもんだな。」
そうひとりごちて、その人物はリーンの元へと近づき、その首筋へと指を添えた。
脈は感じない。確実に死んでいる。
それを確認し、今度は何かを握っているリーンの手を掴み、硬直しているその指を強引に開かせ、中から球体を取り出した。
―美しい。
それを見て、彼が思った率直な感想はそれだった。
―だが、それだけだ。
しかし、同時に湧き出た感情はこうだ。
こんな宝石の為が、国一つ滅ぼすほどの価値があるのだろうか?これは。
摘まんだ宝石の角度を変えながら、男は思案する。
だが、数秒ほど考えた所で男は首を振って思案を打ち切る。
「…俺には関係ないな。」
自分所詮、雇われただけの傭兵に過ぎない。
ターゲットの死亡を確認、そして目的の物の取得。
これで一生困らない程の大金が手に入るのだ。これ以上の詮索は無用だ。
―しかし、こんな小国に戦いを仕掛けるのにわざわざ傭兵を雇うのも、おかしな話だ。
戦うだけならば、雇い主の国の兵士だけで十分すぎるほど勝機はある。
実際、自分がやっていたのは戦いには直接参加せず、国の周辺の森に潜んで逃亡しようとした者を迎え撃っていただけ。
そんな人間が自分だけではなく何人も配置されている。
この国の人間を一人も残さず殺戮したかったのか、或いは…余程、この宝石を手にしたかったのか…
と、自分で言った傍から早速こんな思案をする自分に男は呆れたように苦笑した。
ともあれ、任務は完了した。後はこれを届けるだけだ。
そう思い、死体に背を向けて歩き出した瞬間、男の手の中の宝石に異変が発生した。
「なんだ…?」
宝石が突如として眩い光を放ち始めたのだ。
光は、段々と大きくなっていき、間もなく、目も明けられない程強い光を発し始めた。
―何だ?何が起きている!?
確認しようにも目を開けることができない。解るのは目を閉じても解るほど光が強く、激しく発生している事だけ。
しかし、それもそう長くは続かなかった。宝石は、やがて自分の光に耐えきれなくなったかの様に。
音を立てて、粉々に砕け散った。
強い光もそれと同時に消え、男はおそるおそる目を開ける。
「なっ!?」
目を開けると、粉々に砕け散った宝石があった。
驚いたのはそれだけではない。飛散した欠片は宙を舞って、一向に地に落ちる気配が無い。
まるで何かを探すように、その欠片は宙を舞い続けている。
己の光は失せたが、粉々になった欠片は月の光を反射して煌めき続けていた。
何故?どうして?突然の事に、男の思考は追いつかない。だが、確かに言えるのは、それが男がこれまで見て来た光景の何よりも美しいという事だけだった。
時が止まってしまったかの様な感覚に男は陥っていたが、やがて宝石だった物に変化が生じた。
欠片が動きを止めたのだ。
そして、それは…傍に転がる死体に向かって収束し―

「ッ!!!!!!!!!!!!!!!!?」
声にならない叫び声をあげ、リーンは目を覚ました。
呼吸は荒く、鼓動は聞こえてきそうな程高鳴っている。
今いるこの場所は、まだあの夢の続きなのでは無いかと警戒するようにリーンは周囲を見回したが…間もなく、ここは夢の続きでは無いと理解し、落ち着くように大きく息を付いた。
「…最悪だ。」
先ほどまで見ていた悪夢を思い起こし、リーンは微かな声で呟く。
あの夢は…初めて滅んだ日の夢だろう。そして、あの日が引き金になって…
そう考えていく内に、リーンの中で一つ疑問が思い浮かんだ。
「…僕は何をしてるんだ…こんな所で…」
父が残してくれた形見である剣。それが奪われた。何としても取り返さなければならない。
取り返して…取り返して…どうするのだろう?
リーンは、自分自身に生きようとする意志がもう無いという事は解っていた。
きっと、剣を取り返したその後は…死ねないこの身が朽ちる場所を探しに行くだけだろう。
だとするのならば、剣を取り返す事に意味はあるのか?
そもそも、国を救えなかった人間にあの剣を持つ資格はあるのか?
ならば―。
と、そこまで考えた所でリーンは思考を振り払うかのように大きく頭を振った。
『自分のこの先がどうであろうがどうだっていい。あれは…あの剣は僕の物なんだ。』
それが他人の手に渡り振るわれ、汚されていくのは我慢ならない。意味や資格もどうだっていい。
リーンがこの剣に固執する理由は、'皇'としてではなく、父の'息子'としての純粋な気持ちから来るものだった。
尊敬し、敬愛する父が残してくれた、たった一つの私物。それに固執するのは息子として当然な事だろう。
「絶対に取り返す。」
決意を固めるようにリーンはそう呟き。新しい自分の剣を腰に提げた。

部屋を出て食堂へとつながる階段を下りると、やはり女はここにいた。
食堂に居る。といった伝言を聞いたわけでは無いが、ここ数日の間はリーンが目を覚ましたタイミングでこの女は必ず食堂にいる。
そして、やはりそれは今日も変わらない様だった。
女は椅子に腰を掛け、新聞を読んでいるようだった。
どのような内容なのかは解らないが、時折軽く頷くような動作をしてみせている。どうやら興味を惹く記事が書かれていたようだ。
遠目からでも見て解るそんな女の様子にリーンは様々な感情が込められた溜息を一つつき、女の元へと歩き出した。
そして女も、テーブルに置かれたカップに手を伸ばした所で自分の方へと向かってくるリーンの姿に気付き、笑みを浮かべた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「…。」
先ほど見ていた悪夢を引きづっている事もあり、特に他意は無いであろう女の質問がリーンは皮肉に聞こえ、少し不機嫌そうに鼻を鳴らして椅子に座った。
まぁ、眠った時間で言えば長い方なのでよく眠れた事は間違いないが、少なくとも目覚めは最悪だった。
「昨日の剣はどうですか?扱えそうですか?」
「…問題は無い。」
剣とは、もちろん昨日この女に買ってもらった剣の事だ。
あれから宿屋に戻った後、部屋の中で抜刀し軽く素振りをしてみた所、扱う分には問題無さそうだった。
それでも、今まで当たり前のように使ってきた剣と比べると明らかに重いと感じてしまうのだが…
「そうですか。ではとりあえず…朝食にしましょうか。」
女はそう言うと、テーブルに置かれたベルを軽く鳴らした。


朝食を食べ終えて30分ほど経った後、二人は宿屋を後にした。
今の現在地はヘネシスの町へ来る際に通った旧道…から更に外れた森の中だった。
旧道自体、人通りがあまり無いという事もあり道の舗装等はされている訳では無かったが、生い茂る草の中ある、剥き出しになった土が「通るべき道」を示していた。
だが、その道から外れた森の中は通るべき道も何も無かった。ただただ歩き辛く、時折水気を帯びた草に肌が触れる感覚が不愉快でたまらない。
下手を打てば戻ってくることすらできなくなりそうな場所だったが、女は迷う素振りも無くしっかりとした足取りで進んでいく。
こんな所の先に何があるのか。いい加減文句を言いたくなったリーンの気持ちを察したかの様に女は言った。
「旧道は人通りが少ないという話はしましたよね。なら、そんな道から更に外れた森の中はどうだと思いますか?」
「…誰も通らないに決まっている。」
「そういう事です。誰も通らないから大きな声を上げても気付く人はいませんし、何より…」
そこまで言った所で女は動きを止めた。後ろを歩いていたリーンが少し遅れて女の隣へ立つと、先ほどまでの鬱蒼した森の中にあるとは思えないような開けた場所があった。
「こういったあまり知られていない、うってつけの場所があったりするのですよ。」
確かに、これから行う事…すなわち決闘をするに置いてはこれ以上ない場所だろう。だがしかし…
『森の中にこんな場所があるとは…自然にできた物とは考えにくいよな…』
明らかに人の手が入っている。だが何の為に?
リーンが立ち止まってそんな事を考えていると、女はすたすたと歩き始めた。
「先ほども言いましたが…ここに近づく人は滅多にいません。叫び声をあげても誰も気付く事はありません。」
1歩、2歩、ゆっくりと歩きながら女はそう口にする。
口調こそは普段と変わらないが、そこにやや力が籠り始めてることにリーンは気付き、身構えた。
「…それから、もし仮にここに死体が一つ転がったとしても、数日の間は誰にも気付かれる事は無いでしょう。」
2人の間に静寂が訪れる。
遠くからは流れる川の音、近くからは長閑な小鳥の囀りが聞こえてくるが、2人の耳には恐らくそれは届いていない。
強い風が一つ吹いた。
木々を揺らし、それに驚いた小鳥達が一斉に飛び立つ。
周囲が一瞬にして騒がしくなったが、そのざわめきも長くは続かない。風が止んだ時、周囲から一切の音は消えた。
それを合図にしたかの様に女は、振り返る。
「遠慮は無用。殺す気で来なさい。」
振り返った女の顔にいつもの笑みは無かった。
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| 小話 | 17:39 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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