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英雄。10

―次の日。
今日も同じように宿屋で朝食を取り、どさくさに紛れて剣を取り返そうとし…案の定それは失敗に終わり…2人は宿屋を後にして、ヘネシスの武器屋に訪れていた。
数々の剣や槍が立ち並ぶこの武器屋は確かに、女が言っていた通り品揃えがいい店だった。
だが、そんな場所で不満ありげに言葉を零す人間が一人。

「…本当にこれより軽い剣は無いのか?」
「馬鹿言っちゃいけねぇよ坊主。棒切れを振り回すのとは訳が違うんだぞ?」
「しかし…」
少し震えた手で剣を持ったリーンは、不満げにそう口にした。
「しかしもクソもあるものか!あー…アンタ、保護者の人だろ?悪いが、この程度の重さに音を上げるような坊主にゃまだ剣は早いと思うんだがねぇ?」
「なっ!ふざけ…」
明らかに小馬鹿にした店主の態度にリーンは思わず、大声で異を唱えそうになったが…女はその口を封じるようにリーンの前にスっと移動した。
「そうですねぇ…」
そう言って、女はリーンが手にしていた剣を軽々と片手で持ちあげて見せた。
「これ以上に軽い剣となると、確かになかなか難しいでしょう。」
「お前まで…!だって、僕のけんぐぅっ!!!」
再び大声を上げそうになったリーンの口を、女は今度は本当に塞いで見せた。
「すみません、すみません。」と、つい先日も見た困り顔も付けて。
「難しいですが…それはあくまで鉄製ならば、でしょう?」
柔和な笑みを見せながら女が言ったその一言は、武器屋の店主の肩眉を吊り上がらせた。
「…ミスリル製の武器ならって言いたいのかい?ハッ…こんな坊主にそんな大層なもんを買おうってのかい?」
「えぇ、本人がもっと軽い物を望んでいるようですからね。」
女は笑みを崩さぬまま、そう言った。
「勿論、ミスリル製の剣はあるにはある。だが、それがどんだけ価値があるかアンタなら解るだろ?」
「そうですねぇ…なかなか加工が難しい素材ですからね。まぁ、でも。」
そこまで言って、女は懐から美しい光沢を放つ、丸い物を4枚ほど取り出した。
「これぐらいのメルなら出せますが?」
「…驚いたな。アンタ、随分金持ちじゃねぇか。」
ただの旅人にしか見えない彼女がこれほどの大金を持っているとは、予想だにしていなかったのだろう。なるべく平静を装うように、店主は短くそう答えた。
そんな彼の様子を見てリーンは思考をする。
『あの金属…たぶんお金、なんだよな?あんな貨幣見たこと無いが…それに、メル?』
先ほどから店主と女の間で当然のように話が進んでいるが…そのどれもが、いまいちリーンはピンと来ない。
この女が出した光沢のある金属。それは恐らく通貨なのだろう…そして、メルは恐らく通貨の単位。
『…ここが自分の国からずいぶん離れた所にあるというのは、なんとなく理解していたが…あんな通貨を使ってる国あったか…?』
仮にも、1国の皇をやっていたリーンは、各国の通貨等はそれなりに理解しているつもりだ。
無論、世界中全ての国と交流がある訳じゃ無かったため、全てを知っている。と、言うつもりは無いが…まさか今になって自分が見たことも聞いた事も無い通貨が存在するとは思いもよらなかったのだ。
「金があるなら勿論売ってやるさ。…坊主、こいつを持ってみろ。落とすなよ?」
「え?あ、あぁ…」
そんなリーンの内心の困惑を無視するように、店主は一振りの剣をリーンに差し出した。
先ほどまで持っていた剣と比べて、かなり軽い。素材一つでここまで変わるのかとリーンは驚いた。だが…
『まだ、重いな…』
父の形見。即ち、自分が愛用していた剣。今は、この女が手にしている剣。それと比べるとまだ、この剣は重い。
もっと軽い物は…と、言いかけた時、リーンの持っていた剣はひょいと女に奪われた。
「これは…随分軽いですね。ここまでの剣は中々見つけられないでしょうね。」
「あったりめぇだ。コイツぁ家にある武器の中じゃ極上の一品さ…素人が使うにはもったいないぐらいのな。」
「…これ以上に軽い剣を探すのは間違いなく難しいでしょう。どうですか?気に入りましたか?」
まるで、リーンの思考を読んでいるかのように、女はそう彼に告げた。
「…あぁ、これでいい。」
そして、そう言われてしまった以上、リーンはそう言わざるを得なかった。
重いには重いが…これぐらいならまだ自分が扱える範囲なのは間違いない。そう自分に言い聞かせて。
「値段は白銀貨4枚だ。…だが、本当にいいんだな?言っちゃ悪いが子供のオモチャにするにゃいささか高い気がするがねぇ…」
「えぇ、問題ありません。それに、オモチャにさせるつもりはありませんのでご心配無く。」
「そうかい…まぁ、金が貰えるってのにとやかく言うのは野暮ってもんか…おい、坊主。」
「え?な、なんだ。」
「ほら、受け取れ。」
店主はぶっきらぼうにそう言って、リーンに剣を横向きにして突き付けた。
少し戸惑ったが、リーンはそれを受け取り腰へと提げる。
「ちゃんとこの姉ちゃんに礼を言えよ。それから、絶対にこの剣を無駄にするような真似すんじゃねぇぞ。」
「…あぁ。」
若干、不貞腐れたようにリーンはそう言った。
「それでは行きましょうか。お騒がせしてすみませんね。」
会計を済ませた女は、また柔和な笑みを浮かべて店主に会釈をし、リーンと共に店を後にした。

「…礼は言わんぞ。」
店を出て開口一番にリーンはそう言った。
「礼を要求するつもりはありませんよ。私が自分で決めた事ですからね。」
「ふん…」
飄々とした様子であっさり答える女にリーンは鼻を鳴らす。
その内心は『盗人の癖に…』という気持ちで一杯だった。そう、元はと言えばこの女が自分の剣を盗んだのが悪い。
悪いはずなのに…リーンの胸中には少しモヤモヤとした物が残っていた。
「それより、もう一軒行きたい店があるのですが、いいでしょうか?」
「行きたい店?…好きにしろ。」
「そう来なくては。さ、行きましょう」
そう言うと、女は少しだけ速足に歩きだした。
数分後、リーンは自分の迂闊な発言を後悔する事になる。

「わぁ…これも中々似合いますね…んー、店員さんこれ、どう思います?」
「え、えぇ…よくお似合い…ですね…」
「…。」
女が行きたいと言っていた店はどうやら服屋だったらしい。
最初は女が欲しい服でもあるのか、とリーンは思っていたが…どうやらそれは違ったらしく、リーンの為に服も買ってやるという事だった。
最初は面倒だった事もあり、リーンは断ったが、女の勢いに押し切られてしまった。事実、リーンの着ていた服は所々穴は開いているしボロボロだった。
道を歩く時は女が手渡してきた上着を着ていた事もあってそれほど目立ちはしなかったが、それでもみすぼらしい恰好である事に変わりは無い。
だが…いざ、服を選び始めると…
「あ、でもこっちの服も中々似合いそうですね。このズボンと組み合わせれば…」
そう言って女が手に持ったのは赤を基調にしたチェック柄の服と濃い緑色をしたズボン。リーンからして見れば、この組み合わせはハッキリいって論外な物だ。
どうやらこの女、色彩の感覚が常人のそれとはかなりかけ離れているようだった…始めはリーン自身の感覚がおかしいのかと思っていたが、店員の反応を見る限りそれは無いようだ。
とにかく、先ほどから何回も服を持ってきては脱がせ、持ってきては脱がせ…とやっていたが、その悉くがリーンが不快に思うような色の組み合わせの服をピンポイントで持ってきていた。
「…。」
もう何かを言うのも疲れたリーンは、放心したような顔で店員の顔を見た。
そんな様子を見て哀れに終わったのだろう、店員は女にそっと声を掛けた。
「お客様が選ぶ服ももちろん素晴らしいと思うのですが…やっぱりここは着る方に選んでもらうのはいかがでしょうか?」
「んー…まぁ、そうですね…色々な組み合わせは思い浮かんでるのですけど、このままじゃいつまで経っても決まらないですよねぇ…貴方、どれか気にいった服はありましたか?」
『色々な組み合わせって…こんなゲテモナな組み合わせが、まだ思い浮かんでいるのかよ!冗談じゃ無いぞ…』
この女に服を選ばせるのは危険だ。それだけは理解したが彼自身は別に服に拘りがある方では無い。
国にいた時は皇としてそれなりの服は着ていたが、基本的には「見れる程度の物ならなんでもいい」というのがリーンの服に対する考え方だ。
少しばかり辺りを見渡しても、すぐに選べそうに無いと悟ったリーンは店員にこう告げた。
「あー…そうだな…えーと、店員さん…すまないが僕の背丈に似合いそうな服を適当に見繕ってもらえないだろうか?」
「かしこまりました。少々お待ちを。」

少し待った後、店員が持ってきた服は青いジーンズに白いTシャツ、それと黒のカーディガンの3着だった。
派手すぎず、地味すぎず…それでいて思ったより動きやすい服にリーンは驚いた。
「最近の若い冒険家の方にも人気な組み合わせなんですよ。魔物との戦闘にも耐えうるよう、丈夫且つ動きやすい生地でできています。」
「へぇ…これは確かにいいな……うん、これがいい。」
「ありがとうございます。」と、店員は言ってみせたが、ふと女の方を見ると少々気に入らないといった様子でこちらを見ていた。
「本当にそれでいいのですか?…誰かに選んでもらうぐらいなら私が選ん…」
「あー本当に!本当にこれで大丈夫だ!これが気に入ったんだ!」
これ以上ややこしい事になる前に、女の言葉を遮ってリーンはそうヤケクソ気味に言った。
その大声に女は少し気圧されたような様子を見せたが、すぐに苦笑した。
「解りました。すいませんじゃあこの服をお願いします。それから、このまま着て行ってよろしいですかね?」
「えぇ、大丈夫です。えーと、服が3点で…料金は2万メルとなります。」
値段を聞いた女は財布の中から銀貨4枚を取り出し、それを店員に渡した。
「ありがとうございました。」と、店員が頭を下げ…た瞬間、女は「あっ!」と声を上げた。
「これ!この帽子いいじゃないですか!」
そう言って女は壁に掛けたあった帽子を一つ手に取った。
青が基調でつばは黒。そして、大きく「H」と刺繍がされている帽子だった。
「ほら、今の服装とも合いますし。」
そう言って、女はリーンに帽子をそっと被せた。
帽子を被らされたリーンは鏡で自分の姿を確認したが…小奇麗なこの服装に合ってるとは思わなかった。
だが…
「ね?いいでしょう?」
「…あぁ。」
そう満面の笑みで言って見せる女を見て、何も言い返す事はできなかった。
そして、にこやかな笑みのまま会計の続きをする女の背中を見て、リーンはハァ、と大きくため息を一つ。
『まぁ、ゴチャゴチャいって下手なもん着せられるよりはいいか…まだ、見られるレベルではあるしな…』
リーンは少しでも見栄えが良くなるよう帽子を横向きにし、そう思った。
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| 小話 | 11:39 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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