HOME

2016年03月 | ARCHIVE-SELECT | 2016年05月

| PAGE-SELECT |

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

英雄。8

「…。」
かちゃ、かちゃと食器同士がぶつかり合う、ある種の心地良さを感じる音がその空間には満ちていた。
周囲には談笑しあい、今日は何をするかを仲間内同士で話し合う者、新聞を読み、昨日の情報を頭に仕入れる者、ぼんやりと外を見つめ一人の世界に入り込む者。
過ごし方は、人それぞれだ。行動も、考えている事も皆、まったく違う。
「どうかしましたか?温かい内に食べないと、不味くなってしまいますよ?」
「…。」
視線を向けること無く、女はリーンにそう告げる。
不貞腐れた様にムスっとしているリーンの前にはサラダにパン、スープそれから目玉焼きとハムが並んだ皿達。
簡素な物であったが、実に朝食らしい朝食…が、まったく手を付けられていない状態で置かれていた。
―こいつ、何を考えている?
女の腰に提げられている自分の剣を見つめ、リーンは思考する。
人から剣を奪って置き、かと言って、自分から逃走するような事もせず…
それどころか、返して欲しいなら取り返して見せよと言ってのけ…あろう事か、自分にこうして朝食まで提供している。
行動に一貫性がまるで無く、何を考えているかまるで解らない。
―まぁ、だが相手の考えはこの際どうでもいい。
大事なのは相手は自分から逃げようとはしない、という事。
つまり、相手の行動に常に目を光らせていれば、取り返すチャンスは必ずある。
だからこうして、先ほどから食事に一切手を付けずに睨み続けているのだが…
「ふむ。このサラダはなかなか美味しいですね。ドレッシングの味が好みです。」
女は全く気にする素振りも見せず、ただただ食事を口に運んでいる。
眼に力を入れ続けるのに、少しばかり疲れと…意にも介さない女の様子に若干馬鹿馬鹿しさを感じ、リーンは半ばヤケクソにスープを胃に流し込んだ。
「おい、聞いたか?今朝方、近くの森で死体が発見されたらしいぞ。」
「げ、マジか。物騒なモンだなぁ…」
ふい、に後ろの席に座っていた男2人の会話がリーンの耳に入った。
聞いた所で、自分には関係の無い話…ではあったが、この距離ではその会話の内容はいやでも耳に入ってくる。
「でもそれがよぉ、その殺された人間ってのはあのマグス盗賊団のキルラなんだってよ!」
「またか…あの盗賊団、もう数人しか残っていないんじゃないか?先日も幹部クラスの人間が一人殺られてたしなぁ…よっぽど恨みのある人間がやってんだろうなぁ…まぁ、自業自得と言えばそうだがこうなると、ちっとばかし同情するな。」
「でも、一体どんな奴がやってんだろうなぁ!あのマグス盗賊団の幹部連中を殺っちまう奴だぜ?きっととんでもなく腕の立つ人間に違いねぇよ!」
(マグス盗賊団…?キルラ…?聞いた事が無いな…)
二人の会話を聞いている分には、それなりに名が知れ渡っている盗賊団のようだが…どれだけ記憶の糸を手繰り寄せてもリーンはその名を聞いた覚えがまるで無かった。
「この後ですが…」
聞こえ始めたら、なんとなく気になってしまいいつの間にかそっちの聞き耳を立てる事に気が回っていたリーンは、ふいに前方から掛けられた言葉でハっとする。
女を見ると、食事をちょうど終えたようで、テーブルに置かれていたナフキンで口を小さく拭いていた。そんな女の様子に、どうしてだか挑発されている様にリーンは感じてしまい、再び女を睨み付けた。それを見て、女は少し苦笑して見せた。
「私は部屋に戻って仕度をしてきます。そうですね…30分。30分程経ちましたら私は、ここを出ます。」
それだけ告げて女は立ち上がった。リーンも後を追おうと同じく立ち上がろうとしたが、女が手を伸ばしそれを制す。
「これから向かう場所はそれなり険しい場所です。着いて来る意志があるなら食事は全てしっかり食べなさい。心配せずとも、この宿屋の出口はそこの扉以外にはありません。」
そう言って、女はすぐ近くの扉を指差して見せた。今の位置から距離は2m程度しか無い、本当に目と鼻の先の位置にある扉だった。
つまり自分を追いたいのならば、そこの扉を見張っているだけで十分。彼女はそう言いたいのだろう。
「盗人を信用できると思っているのか。お前が部屋の窓でも打ち破って外に出ない保障が何処にある?」
「盗人であるのは事実ですが…私が躊躇無く、そんな騒ぎを起こせる人間なのでしたら、きっと私は貴方をこの場で少々暴力的に眠らせて、とっくに逃げ果せている事でしょう。」
人から物を盗んでおきながら、この女は人に迷惑をかける事、社会のルールに反する事を行う事を良しとしていないらしい。それは、昨晩と今朝の事でよく解っている。
それに、さっきまでは感情のままに暴れそうになっていたリーンだったが、少し落ち着いた今、むやみやたらに騒ぎを起こさずとも取り返す方法があるならその手段を取りたいと思う気持ちもあった。
この女の思惑通りに事が進むのは癪だが…きっとこの女は嘘は付かない。リーンは、なんとなくであるが、それを確信していた。
「では、30分後に。あぁ、ですが着いて来ると解った以上、貴方が食べ終わるまで待っているつもりですから、食事はゆっくり取ってもらっても構いませんよ。」
そう告げて、女は背を向けて食堂を後にした。
相変わらず、余裕たっぷりに告げてくる言葉にリーンは腹立たしさを感じたが…そこで、ふいに腹の虫が大きく鳴き始めた。
「クソッ…。」
すっかり冷め切った朝食を口に運び、リーンはブツブツと悪態を吐きながら食べ続けた。
美味、とは言える物では無かったが、胃袋が満たされていく感覚は、何処か心地良いものがあった。

彼女が部屋に戻ってから、リーンはものの数分程度で食事を全て平らげた。
特に準備するような物も何も無い、唯一の持ち物はあの女が持っている。それ故に、リーンは部屋には戻らず宿屋の出入口付近の壁に持たれて、女が現れるのを待つ事にした。
つい先刻に大声を張り上げたという事と、ぼろぼろ身なりが酷く目立つのだろう、行き交う人々が自分の方をチラリと見るなりヒソヒソと何かを口にしているのが解る。
そんな奇異の目に晒される事はリーンにとって屈辱でしかなかったが、それらを見えない振り、聞こえない振りをして女をただ待つ。
やがて、階段の方から足音が聞こえ待ち人は姿を現した、女はリーンの姿を視認すると少し柔らかい笑みを浮かべ待っててくれと、言うように手の平をこちらに向けてみせた。
女は食堂のカウンターの前に立ち、店の人間を呼び出して2、3言の用件と軽い談笑(数回程度リーンの方へと視線を向けていた為、恐らく内容はリーンに関する事だと思われる)を交じわし、包みを2つ受け取ってそれを鞄の中に入れた。
そこまでの行動を済ませて、女はようやくリーンの方へと歩いてきた。
「そんなに焦らなくても良かったですのに…お待たせして申し訳ありませんね。」
「…。」
申し訳無さそうにそう言ってみせる彼女をリーンは無言で睨み付ける。
「さて、これ以上お待たせするのも申し訳無いですし…行きましょうか。」
女はそう告げて、扉を開けた。

差し込む強い日差しに思わず目を細めた。
目が慣れた所で、少し辺りを見回す…見覚えが無い場所だ。
ここの周辺にあるのは自分が泊まったであろう宿屋を含めて立っている建物は2、3件ほどのみ。
それらが、恐らく魔物避けであろう柵で囲われている程度の規模だ。多少の囲いに多少のゆとりは持たせているとはいえ、人が住むには聊か狭すぎる。
だから、ここを'村'と呼んでいいのかどうかリーンは少し迷った。
「あそこの門を抜けて、少し行った所に森の入り口があります。」
リーンの隣に立った女がそう言って指を差した。
ちょうど今、自分たち以外の人間が、門から外へと出て行ったのが見える。
「その森を抜けた先にある'ヘネシス'という町が私の目的地です。…あぁ、それから森の中を通るルートは少し旧い道でしてね。魔物の危険もありますし、今じゃそこを使う人間は滅多にいないでしょう。」
わざとらしく女はそう言って、歩き出した。どうやら、掴み掛かってくるのであるならばそこに入ってからにしろ、という事の様だ。
やはり癪に障るが、ここは我慢してリーンも女の後ろをピタリとくっ付いて歩いた。
女の腰に掛けられている剣は二つ。一つは女自身が元々持っている剣なのだろう。そしてもう一つが…自分の剣。
無防備に揺れる自分の剣に手を伸ばしたくなるが…リーンはそれをグっと押さえ込んだ。心配せずとも、取り返すチャンスはこれから山ほどある。
そう言い聞かせて、リーン達は門を抜けていった。

鬱蒼とした森への入り口が目の前にあった。
確かに、ここに入ろうとする人間はいないだろうとリーンは納得した。
現に、先ほどの門を抜けてから何人かの人間とすれ違ったが誰も彼もがリーン達とは別方向に足を向けていたのだから。
「さ、行きましょうか。ここから先は魔物が出る危険もあります。剣を取り返すのもいいですが…先ずは、自身の安全を優先して下さい。」
「…。」
いいから黙って行け、とリーンは目でそう告げた。
女は少し肩を竦めると、少し気を張って森へ1歩踏み出し…踏み出した瞬間、ふわりと軽く横に飛んだ。
「ぐえっ!」
続けてそんな情けの無い声が響く。女の足元には体勢を崩し無様に倒れこんだリーンの姿があった。
(く、くそっ…)
不意打ちを掛けたつもりだったが読まれていた。そしてあろうことか無様に倒れこんでしまった。
羞恥に顔が赤くなっていくのが解る。そして次に聞こえてきたのは…
「あははははははは!!」
と、全く遠慮の無い笑い声だった。
「…。」
土を払いながら立ち上がり、リーンは何も言わず、否、言えず女を睨み付ける。
だが、顔に土が付き、あまつさえ赤みを帯びているそれは却って滑稽に見えた。
「さ、行きましょう。捕まえて御覧なさい?」
悪戯っ子の様な笑みを浮かべて女は楽しそうにスキップをするかのように歩き始めた。
「笑うな!!」
絶えかねてリーンはそう叫び、早足で女の後を追った。

「ハァ…ハァ…」
森に入って1時間ほど経過した辺りだろうか。隙を突いて、間髪入れずに、怒涛の勢いで、静かに、ありとあらゆる方法で女から剣を取り替えそうとしたリーンだったが、どれもこれも上手くいくことは無かった。
ただでさえ悪道を歩いているのに、そんな事をしていたら当然体力の消耗は尋常な物では無い。
「ハァ…クソッ。」
現に、こうしてリーンは歩く事すらできないぐらいすっかり体力を消耗し切っていた。
膝に手をつき、ハァハァと犬の様に荒く呼吸をする事しかできない。こうしている余裕なんて無いはずなのに体が動かない。
「大丈夫ですか?」
そこに、声が掛けられた。
顔を上げると、少し先に進んでいた筈の女の姿が見えた。
どうやらリーンの様子を見て、わざわざこっちまで戻ってきたらしい。
「うるさい…。」
荒い呼吸の合間を縫って、なんとかそう言えたがすぐにまたリーンの口は呼吸をする事に専念を始めた。
盗人に心配される事も屈辱であったが…それより何より、間違いなくリーン以上に激しい動きを要求されている筈のこの女が、呼吸を崩さず、涼しい顔をしている事にリーンは情けなさ様な物を感じていたからだ。
「無理はいけません。少し休ん…!」
ふっ、と女の言葉がそこで途切れた。
疑問に思い、再び女の顔を見ると女は何かを探すように、聞くように、周囲を警戒している。
その視線にリーンの姿は無い。
「…!」
これはチャンスだ。今ならきっと、取れる!
そう思い、自身の剣に手を伸ばした瞬間…リーンの体は勢いよく宙へと舞っていた。
「ごあっ…!」
木に思い切り叩きつけられ、苦悶の声を上げる。
叩き付けられた背と、腰の辺りがじりじりと痛む。
(何だ…?何をされた…?)
チャンスだと思い剣に手を伸ばしたら…そう、急に腰が痛くなって…勢いよく体が飛んで…
そこまで考え、ようやくリーンは自分が思いっきり蹴り飛ばされたのだと、自覚した。
そう自覚した瞬間、リーンの中に怒りが込みあがってきた。
「何をす…る…?」
女の方を見ると、女は何かと戦っていた。
獣の形をした其れに見覚えは無い…だが、アレがなんと呼ばれているのかは解る。魔物だ。
この一瞬の間に囲まれていた。数は5匹、飢えているのか、どの魔物も口から多すぎるほどの唾液を地面に撒き散らし、歪んだ口元は狂喜を浮かべている様にも見える。
5匹の内の1匹。丁度、女の背後にいた魔物が飛び掛った。獣型の魔物なだけあってその速度はリーン以上に速い。
「危なっ…!」
気付けば、そう声に出していた。
女は…少し柔らかく微笑んでいる様に見えた。まるで「心配するな」と此方に向かって言っている様に。
そして、女は振り返ると同時に抜刀し、一瞬の飛び掛った獣を寸胴斬りして見せた。
スポンサーサイト

| 小話 | 20:11 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

| PAGE-SELECT |

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。