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理由。

ふわり、と見晴らしの良い丘に心地のよい風が吹いた。
空は青く澄み渡りその中にぽつりぽつりと小さな雲がいくつか浮かんでいる。
今日は彼がここに来るようになってからでも一番といってもいいほど気持ちのよい天気だ。
だが、彼はその事実に喜ぶ訳でもなく、顔を綻ばせる訳でもなく、ただ只管に空の一点を見上げているだけだった。
彼、セクト=ノーレインの心と瞳は今、どこまでも空虚な物としか言い様が無かった。

あの時から、アレンと夢の中での事があってからしばらくした後、セクトは逃げるように毎日ここに訪れていた。
アレンが自分の中からいなくなったと判った直後は、彼は泣き続け、どうしてこうなってしまったのかと苦悩しない日は無かった。
自分がもしあの時、アレンに勝ったりなければアレンは今も尚、自分と共に居てくれたのでは無いだろうか?とか、
或いはもっと彼を引き止めていれば「しょうがねぇなァ」と言ってくれたのでは無いのか?とか、
或いは………
そうやって、たらればの妄想を延々と繰り返す事にセクトは疲れ果ててしまった。
だが、ここに座って空を見ていればそんな事を一切考えずに済む、あらゆる苦悶や苦悩から解放される。そんな気がして彼はここに毎日のように逃避しに来ていた。

「…」
空は青い。
「…」
雲は白い。
「…」
風が小さく吹いている。
この心地よく素晴らしい今日の気候も今の彼に取っては断片的にしか受け取れない物であった。
ここに来るようになって今日で何日目であるだろうか。
自分の心を支配するこの空虚感も未だに埋まる気配が全くと言っていいほど無い。
きっと、こんな事を繰り返していてもきっと何時までたっても何も変わることが無いという事はセクトも薄々は理解している事だった。
何気なく地面の草を数本引きちぎってそれを風に委ねた。
大地という枷から解放されて流れていく草達を彼は心底羨ましいと思った。
自分もこのまま何処かへ行ってしまえればいいのに、何処かへ行った先が一体何処になるのかそれも全く考えないまま彼はそう思った。
「よう」
不意に背後から声を掛けられたがそれに振り返る事はしなかった。誰が来たのかは声を聞いただけで解る。
「…隣、座っていいか?」
「うん…」
よっこいせ、と小さく声を上げて訪問者であるレイ=ミュエルはセクトの横に座り込んだ。
今日であれからどのくらいの月日が流れたか解らないが…普段なら居ても3日程度で次の場所へレイは出発している。少なくともそれ以上の月日はもう流れている。だが、何時まで経ってもレイがリプレに滞在しているのは……他ならぬ自分のせいだ。
そろそろレイも痺れを切らした頃かもしれない。自分一人だけでももう次の場所へ行くと言われてもそれは仕方の無い事だとセクトはまるで人事のように思った。
「今日いつも以上に天気だな…風も心地良いし…」
「…あ…そう、だね…」
予想していた言葉と異なる言葉が出てきた事、そしていつも以上に良い天気で心地よい気候であるということに今更気づくとセクトは少し驚いて答えた。
「こうも良い天気だと昼寝すんのも悪くねーなぁ…」
そう言うとレイはどすっとその身を地面に投げ出して仰向けになった。
「ねぇ…れーちゃん…」
「あ?」
「何も…言わないの?」
「何もって何にだよ?お前になんか用がねーと俺がここに来ちゃいけねーのか?」
「い、いや…そういう訳じゃないけど…」
様子がおかしい。
普段のレイなら…いや、本当に毎日怒っている訳では無いが強引に腕を引っ張たり、話を進めたりするはずだ。
それをしないと言う事は…と、少し考えてセクトはレイなりに自分に気を使ってくれているという事に気づいた。気づいてから、自分が本当に情けなくなった。
「れーちゃんはさ…悲しくないの…?」
「んあ?」
「れーちゃんも、アレンと友達だったでしょ?そのアレンが急に居なくなっちゃって悲しくないのかな…」
「あれは友達っつーか…喧嘩友達っつーか…まぁ、どっちにせよ友達か…そうだなぁ…」
レイはごろんと寝返りを打ち顔をセクトの方へと向け片手で自分に腕枕を作った。
「悲しく無い訳じゃねぇよ…俺は俺でアイツとはそれなりに関わりがあったしな…」
「そっか…やっぱり、れーちゃんは強いね…」
「…」
セクトは顔を若干足に埋めた。表情は見えないが泣いているようにしか見えない体勢だった。
「僕さ…駄目なんだ…あれから…アレンに頼らなくても平気なぐらい強くなろうって決めたのにさ…でも、いざそのアレンが居なくなった瞬間にもう駄目になっちゃたんだ…。」
泣きそうなぐらい悲痛な声をセクトは吐き出していく。レイは何も言わずただそれに耳を傾けていた。
「剣が…重いんだ…もう持ち上げれないぐらいに…結局僕はアレンが居ないと何もできないんだ…本当に駄目だよね…」
「…」
変わらずレイはその声にただ耳を傾けていた…だが表情は段々と険しい物へと変わっていく。
当然セクトはそれに気づくよしも無かった。
「ごめんね…れーちゃん…迷惑かけて…でも、もう気にしなくてもいいからさ………僕、ギルド抜けようと思うんだ…僕なんていてももうしょうがないから…迷惑かけるだけだから…だから、もうれーちゃんは気にしなくても…」
「…あー…」
痺れを切らした様にレイは小さく唸るように声を吐いた。セクトは少しビクっと体を震わせてレイを見た。
(オッサンは傍に居てやるだけで言いっつってたけど…やっぱそういう訳にはいかねーわな…)
「俺はさぁ…お前とアイツの間にどんな事があって…何でアイツが消えたかなんてよく知らねーよ…けど、お前がそうやっていつまでもビービー泣き言吐いてるのがアイツの望みだったのか?」
「そういう訳じゃ…」
「無ぇよな?そりゃそうだ。アイツはいつもお前の事を一番に考えてた。アイツがそんな事望む訳がねぇよな。それを解ってるのにお前は何時まで経ってもここで泣いてるだけなのか?」
「…僕は、れーちゃんみたいに強くないから…」
レイの物言いにセクトは少し苛立ちのような物が込められた声で返した。
レイのように強くないからしょうがないでは無く、自分の気持ちなんて解ってないクセに。そんな心境が込められたような小さい声。
「…お前なぁ…」
「もう…放っといてよ…本当に、僕の事なんか気にしなくてもいいから…僕は、ッ!?」
言いかけようとした言葉が中断された。セクトの体が突如宙に浮くような形になったからだ。
何が起きたか一瞬解らなかったが眼前にレイの顔があるのを見てセクトは自分がレイに胸倉を掴まれているという事を理解した。
「…お前が悲しいのは全部、とはいわねー。だけどそれなり解ってるつもりだ。でもなぁ…お前自身、アイツが自分の事を考えてくれてたっての解ってんだろ!?だったら…お前もアイツの事を考えてんなら…こんな所で何時までも止まってていいと思ってんのか!?あぁ!?」
「あっ…」
セクトは驚いた。急に胸倉を掴まれて怒鳴られた事では無く…レイの頬に涙が伝っていると言う事に。
ハッとしてレイはセクトの胸倉から手を離し、セクトの体は崩れるように地面に落ちた。
「悪い……俺、先に戻ってるから…」
伝った涙を服の袖で拭きながらレイはセクトに背を向けた。
「俺は認めねぇからな…そんな理由でギルド抜けるなんて事。」
そう小さく呟く様に吐くとレイは猛ダッシュで村の方向へと走っていった。

「僕って…馬鹿だな…」
レイの後姿が見えなくなってセクトはポツリと呟いた。
アレンとレイは出会ったら有無を言わさずに即座に喧嘩をしていたが…でも、そういう時の二人の顔は本当に楽しそうだった。
アレンにとってもレイにとっても…お互いは間違いなく友達だったのだから。
悲しくない訳が、無いのだ。
(れーちゃんに、謝らなくちゃ…謝って…)
どうするのだろうか?
謝ってまたレイと共に旅を続ける?
レイの気持ちもアレンの気持ちも理解していても…それでも、セクトは今の自分では到底この剣を振れる自信は無かった。
…そもそもな事を言えば、セクトは目標のつけ方を間違っていたとも言える。
単純に強くあろうと思うのであるならば、悲しみには暮れようとも立ち直ればまた今までのようにできたかも知れない。
だが、セクトの目標はアレンの様に強くなる事。アレンにいつまでも依存しなくてもいいように強くなる事。
しかし、その目標自体がアレンに依存している物であるということにセクトは気づいていなかったのだ。
アレンに勝って、アレンに認められて…アレンが消えてしまった。不本意な目標の達成だが…その結末が、今のセクトの有様だ。
目標が、その剣を手に取る'理由'がセクトから無くなってしまったのだ。
この場所には逃避する為に来ていた為、ここで何か深く考えを巡らせる事はセクトは今まで無かったがセクトの脳裏は今、様々な気持ちが交錯していた。
アレンの事、レイの事、自分の事、そして、これからの事。
前者3つはまだ整理が付くが、どうしても最後の問いの答えが出せない。こんな状態でレイに着いていってもただの足手まといであるのは明白だった。
それからも数刻の間、セクトは考えていたがやはり明確な、納得のできる答えは自分では出すことができなかった。
(帰ろう…)
レイの事は気まずいが、いい加減日も暮れてきた。とにかく今日は一度村に戻ろう。
そう思って立ち上がった矢先…
「――――ッ!!」
唐突に遠くから悲痛な叫び声が聞こえてきた。

(何処から…聞こえて来たんだろう?)
思考の中ですら息絶え絶えになる程に走りながらセクトはそう思った。
初めは聞き間違えかとも思ったがその後、数瞬の間を空けて三度その声が聞こえてくるとセクトはとにかくその方向へと何も考えずに走り出した。
見晴らしもよく、気持ちが良い丘であった為忘れていたがあそこは一応村から外れた場所にある。
それは即ち、魔物が現れてもおかしく無いという事だ。尤も、この辺りに魔物が現れるのは稀と言ってもいいほどなのだが。
だが…もしかしたら、さっきの声は誰かが魔物に襲われている声なのでは無いか?と思うといてもたっても居られず走り出していた。
「助けてくれぇー!!」
今度はハッキリと声が聞こえてきた。セクトは歩調を上げてその方向へと全力で走った。

「く、くそっ…!!誰か!!助けてくれー!!」
大きな荷物を背負った男は走りながら悲痛な叫び声を上げる。
背後には大量の魔物…モリョンと呼ばれる卑劣な魔物達だ。彼等は集団となり醜悪な笑い声をあげながら男を追っていた。
獲物を逃がさないように、彼等もまた走ってはいたがその姿はまるでにじり寄るよっているようにも見える…しかしながら確実に距離を詰めて来ていた。
せめて、男はその大きな荷物を捨てれば彼等を振り切り事もできるかも知れないが…切羽詰ってそんな事を思いつかないのか、はたまた大事な物が入っているのか男は後生大事に荷物を背負い尚も魔物から逃げ延びようと走り続けた。
しかしながらそれは何時までも持つ物では無い、舗装されていない道であるのと疲労で少しずつペースは遅くなり…男はとうとう足が縺れてその場に転げてしまった。
占めたと言わんばかりに魔物が一斉に男に飛びつく、覚悟を決めて男はすぐに訪れるであろう苦痛を待つように目を瞑った。
「ァァァァッァァグ!!」
男に訪れたのは苦痛では無く、断末魔の声であった。

男の飛び掛った魔物の首は無残にも切り落とされていた。間一髪の所で現れたセクトの手によってだ。
魔物達は仕留めたと思ったら、仲間の一人の首が無くなっているのに気づき一瞬慌てるような声を上げたかと思うと即座に突如現れたセクトを新たなターゲットに切り替えたようだ。
魔物の1匹が誰よりも早くセクトに飛び掛る、3本の指から伸びる長い爪が凶器となってセクトに襲い掛かる。
だが、その爪はセクトに届く事は無い。何も考えて無かったのだろう、セクトが伸ばしただけの剣に自ら飛び掛るような形になってしまった魔物は心臓を刺され即座に絶命する。
「…死にたい奴から掛かって来い!!」
鬼気迫る表情と言葉に数匹の魔物はたじろいだが…それでも血気盛んな1匹はセクトに襲い来る。
少しは学習したのか解らないが今度は飛び掛る事はせず疾いスピードでセクトに向かって走って来た。
セクトは即座に反応はしなかった。一瞬であったが魔物が真正面に対峙するまで待ち…爪で切り裂こうとしてきた瞬間に体を少し横に移動させ左足で足払いを掛けた。
その行動に高速で走る魔物は対処できなかった。体勢が崩れ、うつ伏せに魔物は倒れこむ。その隙を逃さず…セクトは背中から魔物の体に剣を突き立てた。
セクトはまた固まってる集団に顔を向けると剣を魔物に突き立てたまま。
「次はどいつだ…?」
魔物だけでは無く男まで思わずビクりとなるほどの殺気を放ちそう言い放った。返り血が頬に付きその姿が正に鬼人と言っても過言では無い。
その恐ろしい姿と、流石に度々仲間が瞬時に3匹も仕留められてしまい戦意は完全に消失してしまったのだろう、魔物達は一斉に我先にと森の奥へと消えてしまった。
軽く息を吐き、突き立てていた剣を引き抜き血を払うように剣を軽くセクトは振った。
そして、唖然とした表情でこの光景を見ていた男へと顔を向けた。
「あ…」
男はハッとしたように自分の体に触れた。傷も、痛みも何もない。
「助かったのか…俺は…」
安堵の溜息を付き、危機を救ってくれた少年の方へと視線を向ける…すると、少年の体がふいに崩れ落ちるでは無いか。
圧倒していたように見えたが、実は怪我を負ってしまったのだろうか。慌てて男はセクトに近づこうとするが…
「た、助かった…」
その場に座り込んで先ほどまでの殺気からはおおよそ考えられない情け無い声を聞き、男はまたしても大きく転びそうになった。

「本当に助かったよ…本当に、有難う…」
魔物に襲われていた男はセクトの元まで来ると開口一番に礼を告げた。
さっきまでは暗がりでよく顔が見えてなかったがよくよく顔を見るとまだ若い男だった。
中肉中背というのがしっくり来る体型だ。背負っている大きな荷物もどちらかと言うと背負わされているという印象もあった。
「い、いえ…僕も無我夢中で何が何やら…」
そんな男にセクトは少し力の抜けた声で答えた。
先ほどまでの冷静な対処と戦闘時の言葉からは想像できないがセクトは本当に無我夢中だった。
飛び出して、大量の魔物を見て、一人で相手するのは無理があると解るや否や彼は自分にできうる限りの最大限の語調や殺気、そして残酷な行動で魔物達にハッタリを掛けたのだった。
それが功をなして相手にする魔物が3匹で済んだが…魔物がそれでも襲ってくるようであるならばセクトも今頃無事では済まなかっただろう。戦闘中は心中ヒヤヒヤしていた。
「…助けに入るのが遅れて、ごめんなさい…」
「何言ってるんだよ!…正直もうダメかと思ったんだ、自分が今こうやって歩けている事ももう奇跡としか思えないよ…本当に有難う…」
「…」
男の言葉にセクトは胸が痛んだ。
男がまさに魔物に襲い掛かられた瞬間に助けに入ることができたのはその瞬間まで男を発見することができなかった、からという訳ではなかった。
彼は本当に助けに入るのに遅れたのだ。あの瞬間の少し前からセクトは襲われている男の姿をすでに発見していたのだから。
いつでも助けに入ろうと思えば入れた位置にいたにも関わらず…走り周って、いざ魔物に襲われている男を見つけるとセクトはまるで思い出したかのようにその場で動く事も声を出すこともできなかった。
その結果として男は味わう必要の無い、死の恐怖を味わってしまう事になった。まぁ、その姿を見てセクトの体はまるで張り詰めた糸が切れるように動いたのであったのだが…
「それにしてもアンタ強いなぁ!その腕前、もしかしてアンタ魔物狩りギルドの人かい?」
「え、えぇ…はい…まぁ…」
男の問いは正解であったのだがセクトは少し身を硬直させて歯切れ悪く答えた。
それも当然だ、自分はさっきまでそのギルドを抜けようかと考えていたのだから。
「あぁやっぱり!いやぁ、いつも本当に有難う!」
「え?」
思わぬ所でまたしても礼の言葉が飛び出てきてセクトはキョトンとした表情で答えた。
文脈的に先ほどの礼という訳でも無くまた別の礼の言葉であるのは確かだがセクトはその礼に対する覚えが無い。
「この道も数年前までは魔物がウジャウジャいてね、とても通れる道じゃなかったんだよ。でも、アンタ達魔物狩りギルドの人がこの辺りの魔物を退治してくれて俺達みたいな戦えない人間も安心して通れるようになったんだよ。…まぁ、魔物が完全にいないって訳じゃないから今回は油断しちゃってあんなことになっちゃったんだけど…アハハ…」
気恥ずかしそうに笑う男の顔を呆けたようにセクトは見ていた。
セクトは考えた事すらなかったのだ。彼の言った事を。
セクトがこれまで魔物狩りをしてきた事、その全ては「自分が強くなる為」の一点だった。誰かを助ける為、ましてやその自己中心的な行動が誰かの助けになっている等全く考えた事がなかった。
(あ…)
そこでふと、セクトは随分前にレイに投げかけた言葉を思い出した。

「れーちゃんはどうして誰にも頼まれてないのに魔物狩りするの?」
どれくらい前だったかは思い出せないがまだセクトがギルドに加入する前、つまり自分で剣を振るう前。
セクトは毎日のようにボロボロになっているレイを見て耐えかねた様に言った。
「は?」
本人としてはレイの事が心配だから、と言う気持ちであったのだがその意図は読み取ってもらえなかったのだろう。
返って来た言葉は「何言ってんだこいつ。」と言わんばかりの威圧的な返答だった。
「だ、だって誰にも頼まれてないのにこんな危ない事しても意味無いじゃないか…お金だって貰える訳じゃないし…だから意味も無いのにこんな危ない事やめてよ…自分に何かあったらどうするのさ…」
意味無い、と言った辺りで明らかにレイの目が更に釣り上がりセクトは内心ビクりとしたがそれでもなんとか言いたい事を全て言い切る事ができた。
レイは変わらず目を釣り上げたままだったが、セクトは自分の身を案じているのだと解るとそっぽを向いて呟いた。
「…意味ねぇならやってねぇよ」
「え?どういう事…?」
「別に…こっちは趣味でやってるって事だよ。お前にどうこう言われる筋合いはねぇよ。」
「で、でも!!」
その言い草に流石にセクトもムっとして反論しようとしたが…
『ハハッ無駄無駄主さん。コイツはただの戦闘狂さぁ。俺と同じでなヒャハハ!』
頭の中にアレンのそんな言葉が聞こえてきてセクトは口を噤んだ。
アレンと同じなら、何を言っても本当に無駄なのかな…その時のセクトはそう思いそれ以上レイに何も言えなくなってしまった。

(でも、もしかしてれーちゃんは解っていたのかな…)
自分の行動は決して無駄なんかじゃ無いという事を。
見ず知らずの誰かの助けになっていると言う事を。だからあの時あんな事をいったのだろうか。
だが、それでも見返りを求めず自らの身を危険に晒す事なんて普通できるだろうか?
(やっぱり…れーちゃんはすごいなぁ…)
そう、考えていた時、隣で歩いていた男が前方を指差して声を上げた。
「あぁ、よかった!何とか村に着けたよ!!」
ハっとしてセクトは知らず知らずの内に俯いていた顔を上げた。いつの間にか村は目と鼻の先まで来ていた。
「今日は本当に有難う。ここからなら一人でも大丈夫だよ。」
「いえ…こちらこそ有難う御座いました…」
セクトのお礼の言葉の意味が解らなかったのだろう。男は少し首を傾げたが追求する事はしなかった。
「そうだ、アンタの名前と所属してるギルドってなんていう所なんだい?」
「セクト…セクト=ノーレインです。魔物狩りギルドAssembleに所属しています。」
セクトはそう、力強く答えた。
「セクトか…いい名前だな。じゃあセクト、もし俺の店に来ることがあったらその時は是非安くさせてもらうよ。他のギルドのメンバーにもそのギルド名出したら安くするって伝えておいてくれ!」
魔物に追われてもそれを捨てる事無く、彼が後生大事に荷物を抱えていた訳がようやく解った。確かに商人からすれば商売道具が命より大事な物なのだろう。
「それじゃあよろしくな!今日は本当有難う!また何処かで会おうな!」
セクトが頷くや否や男はそう言って走りだした。
「あっ…待って…」
止めようとしたが男の姿は瞬く間に見えなくなってしまった。
「よろしくされても店の名前が解らないなぁ…」
少し呆れたようにセクトはぽつりと呟いた。
まぁ、リプレで店を出しているのならばきっとまたすぐにでも会う事になるだろう。
そう思ってセクトは少し含んだような笑みを浮かべた。僅かだったがこれがセクトにとって久しぶりの笑みだった。

リプレの村に到着してからセクトは真直ぐに宿に向かった。
もしかして愛想を尽かしてとっくに出発してしまったのでは無いかとやや不安であったが…レイは変わらず同じ部屋にまだ居てくれた。
「ただいま。れーちゃん。」
「…あぁ。」
昼の事がまだ少し気まずいのだろう。ベッドに座ったまま視線はこちらに向けずに低いトーンでレイは呟いた。
セクト自身も気まずさはあったが、こればっかりは自分から言わなければどうしようもならない為セクトはレイの横に座り言った。
「長い間心配かけてごめんね、れーちゃん。でも、もう大丈夫だから。」
「…」
レイは無言だった。
セクトの言葉の意味を「僕は大丈夫だから、一人でもう行ってくれ。」という曲がった捉え方をしたのだろう。
「明日、一緒に違う所に出発しよう。僕、頑張るからさ。一緒に、行こう。」
「え…?どうしたんだよ…お前…」
そう言われてレイはようやくセクトへと顔を向けた。
さっきまで泣いていたと思えば…今は吹っ切れたような気持ちのいい顔だった。
「嬉しい事があったから、解った事があったから、僕ももう少し頑張ろうと思ったんだ。」
「何だよそれ…」
「うーん…れーちゃんはすごいなぁって事。」
「な、何だよそれ…」
唐突にそんな恥ずかしい言葉を吐かれレイは意味も解らないまま照れたようにそっぽを向けてしまった。

(まだ、君がいなくなった悲しみから完全に吹っ切れた訳じゃないけど…こんな僕でも誰かの役に立てるって解ったから…もう一度、この剣を頑張って振るってみようと思うんだ…)
脳裏にはいなくなってしまった友人の言葉がいくつも浮かんでは消えていく。
その一つ一つを噛み締めるように強く目を閉じた。
(だから、君も何処かで僕を見守ってて欲しい。)
心の中でそっと、だが、強く、セクトは願った。
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