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悪魔。(終)

セクトが目を開くと、全く知らない風景が広がっていた。
知らない、というより…存在し得ない空間と言ったほうがいいだろう。
自分の足は地を着いている感覚はあるものの、足場も何も無い宙にその身を置いている。傍から見れば完全に空を飛んでいると言っても過言では無い。
無いのは何も足場だけでは無い、その空間には自分自身の存在以外には本当に何も無く見渡す限り青白い空が広がっている…そんな空間だった。
「…」
余りにも異質な空間にセクトは戸惑いを隠すことができずキョロキョロと辺りを見回す。
(あ、あれ…?…僕は確かあの後魔物狩りをして…それから宿屋に戻って眠ったはずなんだけど…)
と、そこまで考えてセクトは今の光景が一体何なのか即座に説明できる言葉を思い出す。
(あぁ、なんだ…じゃあここは夢か…)
そう考えると至極単純な答えだった。
夢の中であるならばこの異質すぎる空間も説明が付く。
と、いっても夢の中にしてはまるで現実のような感覚であるのだが…そういった事を考えるのを放棄してセクトは安堵した。
「そうだぜぇ?主さん。ここはアンタの夢ん中だよ。」
唐突に聞こえた声に、聞き覚えのあるその声の方へセクトは驚いて振り返る。
その先には自身がよく見知った姿。まるでそこに鏡が置いてあるのかと勘違いしてしまう程に、自分と全く同じ姿の人間が立っていた。
「よう、主さん。」
「え…アレン…?」
その問いに彼はコクり頷く。
そしていよいよもってセクトはここが夢の中である事を確信した。
「あ、アハハ…夢の中とは言えアレンと直接こうやって話すなんて初めてだね…」
「そういえばそうだなぁ?カカカッ」
少し控えめに笑うセクトと歯を出して妙な笑い声をあげるアレンは同じ姿とはいえ対照的だ。
「ま、こうやって折角お互い体を持って喋ってんだ。と、なりゃあやることは一つだなぁ?」
「え?」
「決まってんだろ?主さんの好きな本にはよくある展開…'オキマリナコト'がよぉ?」
そう言われてセクトはアレンの言いたい事を理解した。
たしかに余りにもありきたりで'オキマリナコト'だ。だが、アレンの性格を考えるとそうでなくてもこれには納得がいく。
「えっと…つまり僕と勝負するってこと…?」
「よく解ってんじゃねぇかよぉ?主さんも最近はちったぁやるようになったみたいだしぃ?まさか嫌とかそんな泣き言ホザいたりしないよなぁ?」
そういいながらアレンは背中にかけている剣にもう手を伸ばしている。
仮に「嫌だ」と言った所でアレンは無視して間違いなく斬りかかって来るのは間違い無い…
尤も、セクトにそんな気は毛頭無かったのだが…
「…いいよ。僕と勝負しよう、アレン。」
寧ろこれはセクトに取っても望んだ展開だった。
いつもより力強い声で凛とした表情で彼は答えた。
「でもね、アレン。こういう時に勝つのは'過去の自分が弱かった方'なんだよ。それも'オキマリナコト'だからね。」
「カカカッ。言うようになったじゃねぇか主さんよぉ!?」
「アハハ。これもアレンの影響…かな?」
「んじゃあ…行かせてもらうぜぇ!?」
その言葉と共に二人は剣を抜いた。

二人は一瞬で距離を詰め獲物を同じ軌道振り下ろした。
ぎちぃん、と嫌な金属音が鳴り響き、唾競りを即座に切り上げ一度後退し再び剣を振り下ろす。
まるで事前に打ち合わせをしていたかの様に二人の行動はまったく同一の物だった。
このような事を彼是10分近く続けていた。
「へぇ…やっぱりちったぁやるようになってんじゃねぇか、主さんよぉ?」
「僕だって…何もしてこなかった訳じゃないんだ…それに、アレンの戦いはずっと'観て'来たんだから、ねっ!」
そこでまた一度距離を少し離す。
そして即座にセクトはくるりと体を回転させ遠心力を込めた一撃を放った。
無論、アレンも同じだ。
「俺の行動はお見通しってかァ!?…だがなァ…俺とお前じゃやっぱり決定的な違いがあるんだ…よォ!」
「うわッ!?」
ここでようやくにして二人の息の合った行動が崩れた。
セクトがまた距離を離そうとしたその瞬間、アレンはセクトに足払いを掛けたのだ。
セクトの体勢が崩れ倒れそうになるその瞬間にアレンはセクトの腹に向けて正拳を叩きこむ。
「ゴハァッ!?」
セクトの体は勢いよく飛び、そのまま仰向けに倒れこんだ。
手加減など一切も無く、本気の一撃だった。
「主さんと俺じゃ戦いの場数が違うんだよォ!相手に合った戦い方をするなんてこたぁ主さんでもまだできねぇだろォ?」
セクトの代わりに荒事を今まで引き受けてきたアレンはそれだけ戦い慣れをしている。
直面した相手に対して即座に戦い方を変えるのはそれだけ戦いを繰り返してきた者だけができる芸当だ。
いくらセクトが修行した所でこればかりは埋めようの無い、決定的な差だった。
「くっ…ウぅ…」
よろめきながらもセクトは再び立ち上がる。たった一撃とはいえまともに食らってしまった以上立つのも辛い。
脳が揺れ、今にも倒れそうになるが自分に喝を入れ身を奮い立たされる。
アレンは本気だ。勿論、解っているつもりであったがセクトはそれを改めて理解した。
「そんなもんじゃねぇだろォ?主さんよォ!?死ぬ気で来ないとぶっ殺すぞ!?」
だが、それがセクトには嬉しく思えた。
「あはは…やっぱり強いなぁ…アレンは…」
自分の目標であるアレン…そんな彼に認められ本気を引き出すことができたのがたまらなくセクトは嬉しかった。
「行くよ…!アレン!!」
だが、それだけでは駄目だ。
彼に本気を出してもらうのは当然の事だ。それに打ち勝ってこそようやくセクトは本当にアレンに認めてもらう事ができると、そう思っていた。
しかし、相変わらず体はフラついている。長く戦う事はできそうにない。
だから、セクトはこの一撃に全てを掛けた。
アレンに対する尊敬、嫌悪、好意、畏怖…そして、信頼を。全てを乗せた一撃を彼はアレンに向けて振り下ろした…

静寂を初めに打ち破ったのは、地に剣が突き刺さった音だった。
「あ~あ…」
落胆した声をアレンは上げる。
「俺の負けだよ…主さん…」
そういってアレンは大の字に仰向けに倒れこむ、手元の剣は真っ二つに折れていた。
「あ、アハハ!やった…!アレンに…勝てた!!」
歓喜の声を上げて今度はセクトがアレンの隣に仰向けに倒れた。
「あぁ…クソっ…俺、結構ガチでやってたんだがなぁ…負けるとは思ってなかったんだがなぁ…」
どうやら本気で悔しがっているようでアレンの声はいつもよりトーンが低い。
だが、その表情は晴れやかだった。
「…強くなったな…主さん…」
「アレンのおかげだよ…」
「俺は別に何もしてねぇよ…。…主さん、アンタはもう弱くなんかねぇんだ。いつまでもウジウジしてねぇでもっと自分に自信もってもいいんだぜ?」
「あはは、アレンそういっても貰えると嬉しいな…」
セクトがそう言った所で、アレンは身を起こしてセクトの前に立った。
セクトも立ち上がろうとしたがアレンに殴られたのがまだ響いているようで体を半分起こしてアレンを見た。
「あーあ…しかしこうなると魔物狩りとか全部主さんがやっちまっても全然問題ねぇなぁ?」
「え、そ、そうかな…できれば怖いのは勘弁してほしいんだけど…」
「謙虚になんなっての!何せこの俺をぶッ倒したんだぜぇ?もっと誇ってもいいんだぜ?」
「あ、アハハ…」
「ま、だからさ…」
そこでアレンは言葉を区切る。
この先の言葉は言いたく無いのだろう。だが…彼は言わなければならない。
そうでないと態々こんな空間を作り出したのも、セクトの腕試しをしたのも全てが無駄になる。
「もう、俺はイラネェよなぁ?」
寂しそうな表情でアレンはそう告げた。

「い、要らないって…どういう事…アレン…?」
「言葉の通りだよ。主さんが俺より強くなっちまった以上俺が態々出てくる必要もねぇだろぉ?」
「な、何言ってるんだよ…そんな事あるわけ無いじゃないか!?」
アレンの言葉に怒鳴るようにセクトは答えた。
「でも、事実だろ?もう魔物だって主さん一人で倒せるし、俺が出てこないといけねー程今の主さんは弱虫なんかじゃねぇ。レイやギルドの連中だっているしな…」
「ふざけないでよ!!僕は…僕は…魔物狩りとか怖い事とか全部アレンに押し付けたいと思ってる訳じゃないよ!?そういうのを全部抜きにしてアレンは親友だと思ってる…そう言ったじゃないか!!」
それは普段のセクトからは考えられない程の剣幕だった。アレンの言葉にセクトは本気で怒っていた。
(まァ…そういう奴だよな…主さんは…)
こうなる事ぐらいはアレンだって解っていた。
「俺が主さんの体を壊しちまうから。って言ってもか?」
故に彼は、本当の事を告げる事に決めたのだった。
「え…?」
「俺は別に主さんのもう一つの人格なんかじゃねーんだよ…主さんの体に巣食ってる'悪魔'さ。」
「な、何言ってるの…?」
「俺はなぁ…主さんの体を乗っ取って自分の物にしようとしてたんだよ…それが俺達、悪魔…'ニア'の生き方だからな。」
セクトは唐突なアレンの話に全く付いていけていないようだった。
ましてやそんな事を急に言われても信じれるはずが無い。
「信じられねーかもしれねーけどな。ま、それが本当の事だよ。」
「で、でもそれが本当だとしても僕は今ここにいるじゃないか!?体を乗っ取られてなんか…」
「あぁ、だから俺は主さんの体を乗っ取ろうなんて今は考えてねぇよ…まぁ、最初はそのつもりだったんだがなァ…こうやって長い間主さんの事見てきてさ…情が移っちまったのかねぇ…そんな気なんてとっくに無くしてたさ。悪魔失格だな…」
そういってアレンは自嘲気味に笑った。
感動的な話のように聞こえるが…'ニア'という悪魔からしてみれば本能に抗う、'ニア'としての生き方を全て否定している事だ。
「じゃ、じゃあ今は僕の体を乗っ取ろうなんて思ってないんでしょ?だったら…今まで通り…」
「俺もそうしたかったんだがな…だが、そういう訳にもいかなくなってよォ…どうやら俺が主さんに巣食っている、それだけで主さんの体は悲鳴上げてんのさ。主さんだって解ってるだろ?」
「…!」
そう言われ、セクトはここ最近の体の不調の原因を理解した。
「ま、そういう事だからよ。さっさとその剣で俺を刺しな。そうすりゃ俺は主さんの体から出て行ける…」
「…嫌だ…」
「頼むよ…主さん…俺は…俺は…主さんを殺したくねぇんだ…」
「嫌だ!!アレンを殺さないと僕が生きていけないっていうなら…いっそ僕の体を今すぐ乗っ取ってよ!!アレンが死なないといけないぐらいなら…僕が…僕が死ぬから!!」
「フザけた事いってんじゃねぇよ…主さんよォ…!」
「ふざけてるのはそっちだよ!!僕にアレンを殺すなんて…できる訳が無いじゃないかァ!!」
尚もセクトは認めようとはしなかった。
たとえ自分が生きる為とはいえアレンを、親友を手に掛けるなどセクトにできる筈が無かった。
涙を流して俯くセクトを見てアレンはふっと溜息を混ぜたような笑みを浮かべた。
「…本当。」
そう言って。
「こういう所は'弱い'よな。」
アレンはセクトの剣を持った手を取り。
「主さん。」
自らの体を貫いた。


「あ…あ…ああ…」
セクトは眼前に広がる光景に目を見開き絶句していた。
アレンの体はセクトの持っていた剣で痛々しく貫かれ、血が滴りセクトの手元にまで流れていた。
「だけどな…主さんの…ソレは'弱さ'なんかじゃねぇ…それは…'優しさ'だ…」
切れ切れに言葉を紡ぐアレンだったが、苦しそうな表情は一切見せず、どこまでも優しくセクトに微笑んでいる。
「どんだけ…強くなっても…その'優しさ'…だけは…何でも…包み込んじまう…その'優しさ'だけは…絶対に…忘れんじゃ…ねぇぞ…'セクト'…」
そう言い切ってアレンの瞼は閉じた。
そしてゆっくりと…その体は光となって崩れるように消滅してゆく。
「あ…あああああああ…!!」
消えてゆくアレンの姿を見て、セクトは…
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
轟くような、悲鳴のような絶叫をあげた。

「うわあああああああああああ!!」
自らの声に驚いてセクトは目を覚ましベットから起き上がった。
窓の外は光で溢れており朝だという事を理解させる。
「あ、あれ…?」
さっきまで起こっていた凄惨な出来事との余りの状況の違いにセクトは困惑は隠せない。
だが、自分が今ベットで眠っていたという事は…
「なんだ…やっぱり夢か…」
そう理解してセクトはほっと胸を撫で下ろした。
そうなるとさっきまでの出来事が笑い話のように思えてくる。
悪魔?ニア?そんな訳が無い。ましてやアレンがあんな優しい言葉を自分にかけて来るなんて在りえないだろう。
「ねぇ、アレン聞いてよ。僕、変な夢見ちゃってさ…」
早速その奇妙奇天烈な話を心の住人に話してやろうと語りかけたのだが…
「…アレン…?」
返事は無かった。
寝ているのかな、と思ったが…それも違う。
自分の心の中にアレンの存在を'感じ取れない'のだ。
「う、嘘…嘘…でしょ…?」
安堵したのも束の間に。少年の心は再び、絶望に満たされていった。




















-本能に抗い、'悪魔'として生きることを捨てた…か…泣かせる話だな…
-だが、言ったはずだ…
-そんな事、誰も望んでいない、と。
-こんな結末…僕は、認めない。
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