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英雄。10

―次の日。
今日も同じように宿屋で朝食を取り、どさくさに紛れて剣を取り返そうとし…案の定それは失敗に終わり…2人は宿屋を後にして、ヘネシスの武器屋に訪れていた。
数々の剣や槍が立ち並ぶこの武器屋は確かに、女が言っていた通り品揃えがいい店だった。
だが、そんな場所で不満ありげに言葉を零す人間が一人。

「…本当にこれより軽い剣は無いのか?」
「馬鹿言っちゃいけねぇよ坊主。棒切れを振り回すのとは訳が違うんだぞ?」
「しかし…」
少し震えた手で剣を持ったリーンは、不満げにそう口にした。
「しかしもクソもあるものか!あー…アンタ、保護者の人だろ?悪いが、この程度の重さに音を上げるような坊主にゃまだ剣は早いと思うんだがねぇ?」
「なっ!ふざけ…」
明らかに小馬鹿にした店主の態度にリーンは思わず、大声で異を唱えそうになったが…女はその口を封じるようにリーンの前にスっと移動した。
「そうですねぇ…」
そう言って、女はリーンが手にしていた剣を軽々と片手で持ちあげて見せた。
「これ以上に軽い剣となると、確かになかなか難しいでしょう。」
「お前まで…!だって、僕のけんぐぅっ!!!」
再び大声を上げそうになったリーンの口を、女は今度は本当に塞いで見せた。
「すみません、すみません。」と、つい先日も見た困り顔も付けて。
「難しいですが…それはあくまで鉄製ならば、でしょう?」
柔和な笑みを見せながら女が言ったその一言は、武器屋の店主の肩眉を吊り上がらせた。
「…ミスリル製の武器ならって言いたいのかい?ハッ…こんな坊主にそんな大層なもんを買おうってのかい?」
「えぇ、本人がもっと軽い物を望んでいるようですからね。」
女は笑みを崩さぬまま、そう言った。
「勿論、ミスリル製の剣はあるにはある。だが、それがどんだけ価値があるかアンタなら解るだろ?」
「そうですねぇ…なかなか加工が難しい素材ですからね。まぁ、でも。」
そこまで言って、女は懐から美しい光沢を放つ、丸い物を4枚ほど取り出した。
「これぐらいのメルなら出せますが?」
「…驚いたな。アンタ、随分金持ちじゃねぇか。」
ただの旅人にしか見えない彼女がこれほどの大金を持っているとは、予想だにしていなかったのだろう。なるべく平静を装うように、店主は短くそう答えた。
そんな彼の様子を見てリーンは思考をする。
『あの金属…たぶんお金、なんだよな?あんな貨幣見たこと無いが…それに、メル?』
先ほどから店主と女の間で当然のように話が進んでいるが…そのどれもが、いまいちリーンはピンと来ない。
この女が出した光沢のある金属。それは恐らく通貨なのだろう…そして、メルは恐らく通貨の単位。
『…ここが自分の国からずいぶん離れた所にあるというのは、なんとなく理解していたが…あんな通貨を使ってる国あったか…?』
仮にも、1国の皇をやっていたリーンは、各国の通貨等はそれなりに理解しているつもりだ。
無論、世界中全ての国と交流がある訳じゃ無かったため、全てを知っている。と、言うつもりは無いが…まさか今になって自分が見たことも聞いた事も無い通貨が存在するとは思いもよらなかったのだ。
「金があるなら勿論売ってやるさ。…坊主、こいつを持ってみろ。落とすなよ?」
「え?あ、あぁ…」
そんなリーンの内心の困惑を無視するように、店主は一振りの剣をリーンに差し出した。
先ほどまで持っていた剣と比べて、かなり軽い。素材一つでここまで変わるのかとリーンは驚いた。だが…
『まだ、重いな…』
父の形見。即ち、自分が愛用していた剣。今は、この女が手にしている剣。それと比べるとまだ、この剣は重い。
もっと軽い物は…と、言いかけた時、リーンの持っていた剣はひょいと女に奪われた。
「これは…随分軽いですね。ここまでの剣は中々見つけられないでしょうね。」
「あったりめぇだ。コイツぁ家にある武器の中じゃ極上の一品さ…素人が使うにはもったいないぐらいのな。」
「…これ以上に軽い剣を探すのは間違いなく難しいでしょう。どうですか?気に入りましたか?」
まるで、リーンの思考を読んでいるかのように、女はそう彼に告げた。
「…あぁ、これでいい。」
そして、そう言われてしまった以上、リーンはそう言わざるを得なかった。
重いには重いが…これぐらいならまだ自分が扱える範囲なのは間違いない。そう自分に言い聞かせて。
「値段は白銀貨4枚だ。…だが、本当にいいんだな?言っちゃ悪いが子供のオモチャにするにゃいささか高い気がするがねぇ…」
「えぇ、問題ありません。それに、オモチャにさせるつもりはありませんのでご心配無く。」
「そうかい…まぁ、金が貰えるってのにとやかく言うのは野暮ってもんか…おい、坊主。」
「え?な、なんだ。」
「ほら、受け取れ。」
店主はぶっきらぼうにそう言って、リーンに剣を横向きにして突き付けた。
少し戸惑ったが、リーンはそれを受け取り腰へと提げる。
「ちゃんとこの姉ちゃんに礼を言えよ。それから、絶対にこの剣を無駄にするような真似すんじゃねぇぞ。」
「…あぁ。」
若干、不貞腐れたようにリーンはそう言った。
「それでは行きましょうか。お騒がせしてすみませんね。」
会計を済ませた女は、また柔和な笑みを浮かべて店主に会釈をし、リーンと共に店を後にした。

「…礼は言わんぞ。」
店を出て開口一番にリーンはそう言った。
「礼を要求するつもりはありませんよ。私が自分で決めた事ですからね。」
「ふん…」
飄々とした様子であっさり答える女にリーンは鼻を鳴らす。
その内心は『盗人の癖に…』という気持ちで一杯だった。そう、元はと言えばこの女が自分の剣を盗んだのが悪い。
悪いはずなのに…リーンの胸中には少しモヤモヤとした物が残っていた。
「それより、もう一軒行きたい店があるのですが、いいでしょうか?」
「行きたい店?…好きにしろ。」
「そう来なくては。さ、行きましょう」
そう言うと、女は少しだけ速足に歩きだした。
数分後、リーンは自分の迂闊な発言を後悔する事になる。

「わぁ…これも中々似合いますね…んー、店員さんこれ、どう思います?」
「え、えぇ…よくお似合い…ですね…」
「…。」
女が行きたいと言っていた店はどうやら服屋だったらしい。
最初は女が欲しい服でもあるのか、とリーンは思っていたが…どうやらそれは違ったらしく、リーンの為に服も買ってやるという事だった。
最初は面倒だった事もあり、リーンは断ったが、女の勢いに押し切られてしまった。事実、リーンの着ていた服は所々穴は開いているしボロボロだった。
道を歩く時は女が手渡してきた上着を着ていた事もあってそれほど目立ちはしなかったが、それでもみすぼらしい恰好である事に変わりは無い。
だが…いざ、服を選び始めると…
「あ、でもこっちの服も中々似合いそうですね。このズボンと組み合わせれば…」
そう言って女が手に持ったのは赤を基調にしたチェック柄の服と濃い緑色をしたズボン。リーンからして見れば、この組み合わせはハッキリいって論外な物だ。
どうやらこの女、色彩の感覚が常人のそれとはかなりかけ離れているようだった…始めはリーン自身の感覚がおかしいのかと思っていたが、店員の反応を見る限りそれは無いようだ。
とにかく、先ほどから何回も服を持ってきては脱がせ、持ってきては脱がせ…とやっていたが、その悉くがリーンが不快に思うような色の組み合わせの服をピンポイントで持ってきていた。
「…。」
もう何かを言うのも疲れたリーンは、放心したような顔で店員の顔を見た。
そんな様子を見て哀れに終わったのだろう、店員は女にそっと声を掛けた。
「お客様が選ぶ服ももちろん素晴らしいと思うのですが…やっぱりここは着る方に選んでもらうのはいかがでしょうか?」
「んー…まぁ、そうですね…色々な組み合わせは思い浮かんでるのですけど、このままじゃいつまで経っても決まらないですよねぇ…貴方、どれか気にいった服はありましたか?」
『色々な組み合わせって…こんなゲテモナな組み合わせが、まだ思い浮かんでいるのかよ!冗談じゃ無いぞ…』
この女に服を選ばせるのは危険だ。それだけは理解したが彼自身は別に服に拘りがある方では無い。
国にいた時は皇としてそれなりの服は着ていたが、基本的には「見れる程度の物ならなんでもいい」というのがリーンの服に対する考え方だ。
少しばかり辺りを見渡しても、すぐに選べそうに無いと悟ったリーンは店員にこう告げた。
「あー…そうだな…えーと、店員さん…すまないが僕の背丈に似合いそうな服を適当に見繕ってもらえないだろうか?」
「かしこまりました。少々お待ちを。」

少し待った後、店員が持ってきた服は青いジーンズに白いTシャツ、それと黒のカーディガンの3着だった。
派手すぎず、地味すぎず…それでいて思ったより動きやすい服にリーンは驚いた。
「最近の若い冒険家の方にも人気な組み合わせなんですよ。魔物との戦闘にも耐えうるよう、丈夫且つ動きやすい生地でできています。」
「へぇ…これは確かにいいな……うん、これがいい。」
「ありがとうございます。」と、店員は言ってみせたが、ふと女の方を見ると少々気に入らないといった様子でこちらを見ていた。
「本当にそれでいいのですか?…誰かに選んでもらうぐらいなら私が選ん…」
「あー本当に!本当にこれで大丈夫だ!これが気に入ったんだ!」
これ以上ややこしい事になる前に、女の言葉を遮ってリーンはそうヤケクソ気味に言った。
その大声に女は少し気圧されたような様子を見せたが、すぐに苦笑した。
「解りました。すいませんじゃあこの服をお願いします。それから、このまま着て行ってよろしいですかね?」
「えぇ、大丈夫です。えーと、服が3点で…料金は2万メルとなります。」
値段を聞いた女は財布の中から銀貨4枚を取り出し、それを店員に渡した。
「ありがとうございました。」と、店員が頭を下げ…た瞬間、女は「あっ!」と声を上げた。
「これ!この帽子いいじゃないですか!」
そう言って女は壁に掛けたあった帽子を一つ手に取った。
青が基調でつばは黒。そして、大きく「H」と刺繍がされている帽子だった。
「ほら、今の服装とも合いますし。」
そう言って、女はリーンに帽子をそっと被せた。
帽子を被らされたリーンは鏡で自分の姿を確認したが…小奇麗なこの服装に合ってるとは思わなかった。
だが…
「ね?いいでしょう?」
「…あぁ。」
そう満面の笑みで言って見せる女を見て、何も言い返す事はできなかった。
そして、にこやかな笑みのまま会計の続きをする女の背中を見て、リーンはハァ、と大きくため息を一つ。
『まぁ、ゴチャゴチャいって下手なもん着せられるよりはいいか…まだ、見られるレベルではあるしな…』
リーンは少しでも見栄えが良くなるよう帽子を横向きにし、そう思った。
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| 小話 | 11:39 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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英雄。9

―父と母が急逝して、今日で丁度1週間。
ファレンス皇国の皇帝と皇妃が同時に失われたこの悲劇は、当然ながら民にも衝撃的な報せだった。
事故、だった。皇と皇妃が隣国へ出向いたその帰り道、二人を乗せた馬車が崖から落下した。文字に起こせばたったこれだけの話だが、それが起こした騒乱は筆舌尽くし難い物だった。
嵐のようなこの一週間だったが、今日になってようやく少し落ち着きの様な物が見え始め、リーンは漸く、こうして落ち着いて父と母の墓前にやってくる事ができたのだった。
『ファレンス皇国を愛し、民を愛し、そしてファレンス皇国に愛され、民に愛された偉大な者達に安からな眠りを。』
そう刻まれた墓石に手を当てて、リーンは祈りながら目を閉じた。
「父上、母上。この国は僕が、必ず…」
言葉を言い終える前に、リーンは口を紡ぐ。
『真なる決意は口にすれば軽くなる。』
父によく言われた言葉、それを思い出したからだ。
(行こう…明日からはもっと忙しくなる。)
閉じた目を開いて、振り返ると少し離れた所に青年が一人立っていた。
「カノン。」
カノンと呼ばれた青年は、軽く手を上げた。…その表情は複雑な物だった。
リーンに対して、どう接すればいいのか、どう声を掛けるのが正解なのか解りかねているようにも見える。
「もう、いいのかい?」
カノンはリーンにそう優しく声を掛けた。
「あぁ、大丈夫だ…。」
「…君の父上と母上…いや、陛下と皇妃様の事は、本当に…残念だった。」
まるで自分の父と母の事のように、悲しそうにカノンはそう言った。
心の底から自分を想ってくれている彼を安心させるように、リーンは首を横に振った。
「本当に大丈夫だよ。…それに、明日から忙しくなるんだ。いつまでもこうしては居られないよ。」
「そっか。じゃあ、もうリーンは正式に皇帝陛下になるんだね。」
「だからって、'陛下'だなんて堅苦しい呼び方、お前はしないでくれよ?」
リーンはそう言って軽く苦笑した。それを見て、カノンも少し安堵し、同じように苦笑して見せた。
カノンはリーンの幼い頃からの友…親友と呼べる存在だった。
生まれも、身分も全く違う二人だが、そういった物を一切感じさせない'距離'が二人の間にはあった。
「明日、戴冠式が行われる。それで僕は正式に皇帝になる…でも、お前にはこれまでと同じように僕の友でいて欲しい。」
「勿論だよ、リーン。」
少しばかり、頬を紅潮させてそう言ったリーンに、カノンは優しく微笑みながら言った。
先ほどのような苦笑では無く、優しい、本当に優しい微笑みだ。
根っからの善人で無いと、きっとこのような表情は作れないだろう。リーンはそう思う。
「それで…だな、お前さえよければ明日から僕の専属の執事になって貰いたいと思ってるんだが……って、たった今言った事と矛盾してるか…?これは。」
「ははっ、執事として、だけどそれ以前に友として。って事かい?」
「そう、そんな感じだ。…どうだろう?」
「うん、僕でよければ。喜んで力になるよ。」
悩む素振りも見せず、カノンはそう答えた。
それを聞いて、リーンは安堵したのか、少し声を張り上げ、言う。
「…よかった!有難う、カノン。」
正直、これから先の事を思うと、リーンは不安で心が押し潰されそうだった。
だがそれでも、友が傍にいるならきっとどうにかなる。気休めでしか無いかもしれないが、その気休めがとてつもなく愛おしい。
「リーン。一つだけ、いいかい?」
消沈していた友が少し元気を取り戻してくれて嬉しい…嬉しいのだが。
カノンは一つだけ気掛かりな事があった。
「君は…泣かないのかい?」
「…。」
言われてみれば、リーンは父と母が亡くなったにもかかわらず、全く涙を流していなかった。
いや、そう言うより…
「泣いている時間なんて、無いよ。」
父と母が、皇と皇妃が亡くなったという事は次の皇は自分だ。
涙を流している場合なんかじゃない、そんな姿を見せれば民を不安にさせるだけ。
そう直感していたのだろう、だからここまで涙を流す事は無かった。
「君が考えている事は解っているつもりだよ。でも、せめて僕の前でぐらい…そういう姿を見せてくれてもいいんだよ?」
「カノン…」
「リーンの考えている事は本当に立派だよ。でも、涙を見せない強さは諸刃の剣でもあると思うんだ。感情を封じ込めれば…その内に心まで封じ込めてしまう、そんな気がするんだ。」
自分の事を本当に真摯に考えてくれている、その気持ちが痛いほどリーンに伝わってくる。
だが、それでも。
「…でも、僕が悲しい時はお前が泣いてくれるんだろう?」
そう言われて、カノンは自分の瞳から涙が溢れている事に気が付き、それを指で拭いた。
それを見て、リーンはそっと微笑む。
「なら、大丈夫さ…行こう、カノン。」
例え、涙を流せなくなったとしても。自分の為に涙を流してくれる友が傍に居てくれるなら。
きっと、きっと大丈―




「ッ!?」
飛び起きる。日はとっくに落ちており、周囲は闇で覆われていた。
「夢…か。」
リーンはそっと溜息を付く。
いっそあれが夢では無く現実ならば…そう思った瞬間にリーンは首を振り考えるのをやめた。
(結局、何も変わりはしない…)
それはもう解りきっている事だ。だって、何度もやってきた事なのだから。
「ィツツ…」
ベッドから起き上がろうとした時、腰の辺りに痛みを覚える。
その痛みでぼんやりとしていたリーンの思考は徐々にクリアな物へとなっていった。
(確か…森に入って…魔物に襲われて…)
あの、女に思い切り蹴飛ばされた。尤も、それは自分に飛び掛かる魔物から守る為だったのだが。
複数の魔物に囲まれていた筈だったが、女はそれをあっという間に蹴散らし、何事も無かったように自分の元に来たのはなんとなく覚えてはいるが…
そこから先の事は疲れと痛みであまり覚えていない。
いつここに来て、いつから眠っていたのかもいくら思い返してみてもサッパリだった。
それから少し間を空けて、リーンは、ハァと大きく溜息を付いた。
冷静になって考えてみると…正直、女から剣を取り返すのは難しいのでは無いかと思い始めたからだ。
森の中で、どれだけ必死に飛びかかってもリーンの手は剣どころか、女の体にすら触れる事ができなかった。
女だから、と決して手は抜いていない。全力で飛び掛かったり、緩急を付けたり、フェイントを入れてみたりと自分ができうる事をやったつもりだ。
だが、それでも届かなかった。それどころか汗一つ女は流していなかったでは無いか。
(力づくで取り返そうとしても無理、か…)
そう思い至り、リーンはまたしても溜息を付いた。
(そういえば、昔似たような事があったな…)
かなり昔の話、リーンがまだ10歳にも満たない子供の頃の話だ。
皇族出身であるにもかかわわず…いや、寧ろ皇族出身だったからだろう、リーンは学校で嫌がらせを受けていた時期があった。
皇の子供に嫌がらせ等、大人からすれば考えられない事だが、年端のいかない子供にそんなものは通用しない。
確か、その日は体格の大きい子供に自分の筆記用具を盗られたのだったか…確かそんな理由だった気がする。
そして、リーンは何を思ったかその子供にこう言い放ったのだった。
『お前に決闘を申し込む!!』
と。そう言った時にカノンの驚いた顔だけは今でもよく覚えている。全力でそれを止めていた事も。
それから棒きれを手に取ってその子と決闘…という名の喧嘩が始まって…体中傷だらけになって何とかそれを取り戻したのだった。
(あの後が確か大変だったんだよなぁ…向こうの両親が父上に打ち首覚悟で謝罪に来て…僕は僕で父上に『私情で民に手を出すとは何事か!!』と叱られて…)
今にして思えば、あの時カノンが止めていたのはこうなる事が解っていたからだったのではないだろうか?と、今更になって友の真意を理解した。
懐かしい記憶にふっと、笑みが零れそうになった瞬間、
(そうか!)
リーンは何かを思い立ち、体の痛みも忘れて部屋から飛び出した。

「はぁ…決闘、ですか。」
「そうだ。」
場所は変わって女が休んでいた宿屋の一室にリーンはやって来た。…やって来たというより廊下で『何処だ!いるんだろう!?』と騒ぎ立てるリーンを慌てて女が部屋に連れ込んだというのが正しいが…閑話休題。
「決闘というからには武器を使って、という事ですよね?貴方、他に武器があるのですか?」
「そんな物は無い。だから僕に武器をよこせ。」
当たり前の様にリーンは女にそう言った。
そんな尊大なリーンの態度に女は何とも言えない表情をして見せた。
「言っておきますが、この武器は渡しませんよ。」
そう言って、女は腰に提げているリーンの剣にそっと手で触れた。
まぁ、そんな事は言われずとも解っていた話だ。
「別にその剣じゃなくてもいい、なんでもいいから僕に剣をよこせ。それで構わない。」
「ふーむ…」
決闘を申し込み、挙句の果てには武器はそっちが用意しろというリーンの言い分は支離滅裂だ。
だが…リーンのその表情を見て、女はそっと笑みを浮かべた。
「解りました。なら明日は武器屋に行きましょう。幸い、ヘネシスは栄えている町です。きっといい物もあるでしょう。…ちなみに貴方、剣の腕に覚えがあるのですか?」
「当然だ。」
力強くリーンはそう答える。実際、皇族の教育の一環として剣技は昔から叩き込まれている。
だからこそ、リーンは剣を持った逃げ場の無い1対1の戦いなら勝機があるのでは無いか、と踏んだのだから。
「よろしい。では、明日の朝…朝食を食べた後に武器屋へ行きましょう。」
「あぁ、分かった。…逃げるなよ?」
「ご心配無く。決闘から逃げるのは剣士の恥ですからね。」
「…盗人風情がよく言う。」
そう言われ、女はハハハと軽く笑って見せた。
その様子を見て、リーンは小さく鼻を鳴らし、そのまま部屋を後にした。
「…少し、表情が生き返りましたかね。」
女は一人、そっと呟く。
表情も心も全てが死んだ様に思えた少年が、ようやく生きた顔を見せたのだ。それがたまらなく嬉しかった。
「さーて、明日からまた少し忙しくなりそうですね。」
そう呟いて、女は部屋の明かりを消した。

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英雄。8

「…。」
かちゃ、かちゃと食器同士がぶつかり合う、ある種の心地良さを感じる音がその空間には満ちていた。
周囲には談笑しあい、今日は何をするかを仲間内同士で話し合う者、新聞を読み、昨日の情報を頭に仕入れる者、ぼんやりと外を見つめ一人の世界に入り込む者。
過ごし方は、人それぞれだ。行動も、考えている事も皆、まったく違う。
「どうかしましたか?温かい内に食べないと、不味くなってしまいますよ?」
「…。」
視線を向けること無く、女はリーンにそう告げる。
不貞腐れた様にムスっとしているリーンの前にはサラダにパン、スープそれから目玉焼きとハムが並んだ皿達。
簡素な物であったが、実に朝食らしい朝食…が、まったく手を付けられていない状態で置かれていた。
―こいつ、何を考えている?
女の腰に提げられている自分の剣を見つめ、リーンは思考する。
人から剣を奪って置き、かと言って、自分から逃走するような事もせず…
それどころか、返して欲しいなら取り返して見せよと言ってのけ…あろう事か、自分にこうして朝食まで提供している。
行動に一貫性がまるで無く、何を考えているかまるで解らない。
―まぁ、だが相手の考えはこの際どうでもいい。
大事なのは相手は自分から逃げようとはしない、という事。
つまり、相手の行動に常に目を光らせていれば、取り返すチャンスは必ずある。
だからこうして、先ほどから食事に一切手を付けずに睨み続けているのだが…
「ふむ。このサラダはなかなか美味しいですね。ドレッシングの味が好みです。」
女は全く気にする素振りも見せず、ただただ食事を口に運んでいる。
眼に力を入れ続けるのに、少しばかり疲れと…意にも介さない女の様子に若干馬鹿馬鹿しさを感じ、リーンは半ばヤケクソにスープを胃に流し込んだ。
「おい、聞いたか?今朝方、近くの森で死体が発見されたらしいぞ。」
「げ、マジか。物騒なモンだなぁ…」
ふい、に後ろの席に座っていた男2人の会話がリーンの耳に入った。
聞いた所で、自分には関係の無い話…ではあったが、この距離ではその会話の内容はいやでも耳に入ってくる。
「でもそれがよぉ、その殺された人間ってのはあのマグス盗賊団のキルラなんだってよ!」
「またか…あの盗賊団、もう数人しか残っていないんじゃないか?先日も幹部クラスの人間が一人殺られてたしなぁ…よっぽど恨みのある人間がやってんだろうなぁ…まぁ、自業自得と言えばそうだがこうなると、ちっとばかし同情するな。」
「でも、一体どんな奴がやってんだろうなぁ!あのマグス盗賊団の幹部連中を殺っちまう奴だぜ?きっととんでもなく腕の立つ人間に違いねぇよ!」
(マグス盗賊団…?キルラ…?聞いた事が無いな…)
二人の会話を聞いている分には、それなりに名が知れ渡っている盗賊団のようだが…どれだけ記憶の糸を手繰り寄せてもリーンはその名を聞いた覚えがまるで無かった。
「この後ですが…」
聞こえ始めたら、なんとなく気になってしまいいつの間にかそっちの聞き耳を立てる事に気が回っていたリーンは、ふいに前方から掛けられた言葉でハっとする。
女を見ると、食事をちょうど終えたようで、テーブルに置かれていたナフキンで口を小さく拭いていた。そんな女の様子に、どうしてだか挑発されている様にリーンは感じてしまい、再び女を睨み付けた。それを見て、女は少し苦笑して見せた。
「私は部屋に戻って仕度をしてきます。そうですね…30分。30分程経ちましたら私は、ここを出ます。」
それだけ告げて女は立ち上がった。リーンも後を追おうと同じく立ち上がろうとしたが、女が手を伸ばしそれを制す。
「これから向かう場所はそれなり険しい場所です。着いて来る意志があるなら食事は全てしっかり食べなさい。心配せずとも、この宿屋の出口はそこの扉以外にはありません。」
そう言って、女はすぐ近くの扉を指差して見せた。今の位置から距離は2m程度しか無い、本当に目と鼻の先の位置にある扉だった。
つまり自分を追いたいのならば、そこの扉を見張っているだけで十分。彼女はそう言いたいのだろう。
「盗人を信用できると思っているのか。お前が部屋の窓でも打ち破って外に出ない保障が何処にある?」
「盗人であるのは事実ですが…私が躊躇無く、そんな騒ぎを起こせる人間なのでしたら、きっと私は貴方をこの場で少々暴力的に眠らせて、とっくに逃げ果せている事でしょう。」
人から物を盗んでおきながら、この女は人に迷惑をかける事、社会のルールに反する事を行う事を良しとしていないらしい。それは、昨晩と今朝の事でよく解っている。
それに、さっきまでは感情のままに暴れそうになっていたリーンだったが、少し落ち着いた今、むやみやたらに騒ぎを起こさずとも取り返す方法があるならその手段を取りたいと思う気持ちもあった。
この女の思惑通りに事が進むのは癪だが…きっとこの女は嘘は付かない。リーンは、なんとなくであるが、それを確信していた。
「では、30分後に。あぁ、ですが着いて来ると解った以上、貴方が食べ終わるまで待っているつもりですから、食事はゆっくり取ってもらっても構いませんよ。」
そう告げて、女は背を向けて食堂を後にした。
相変わらず、余裕たっぷりに告げてくる言葉にリーンは腹立たしさを感じたが…そこで、ふいに腹の虫が大きく鳴き始めた。
「クソッ…。」
すっかり冷め切った朝食を口に運び、リーンはブツブツと悪態を吐きながら食べ続けた。
美味、とは言える物では無かったが、胃袋が満たされていく感覚は、何処か心地良いものがあった。

彼女が部屋に戻ってから、リーンはものの数分程度で食事を全て平らげた。
特に準備するような物も何も無い、唯一の持ち物はあの女が持っている。それ故に、リーンは部屋には戻らず宿屋の出入口付近の壁に持たれて、女が現れるのを待つ事にした。
つい先刻に大声を張り上げたという事と、ぼろぼろ身なりが酷く目立つのだろう、行き交う人々が自分の方をチラリと見るなりヒソヒソと何かを口にしているのが解る。
そんな奇異の目に晒される事はリーンにとって屈辱でしかなかったが、それらを見えない振り、聞こえない振りをして女をただ待つ。
やがて、階段の方から足音が聞こえ待ち人は姿を現した、女はリーンの姿を視認すると少し柔らかい笑みを浮かべ待っててくれと、言うように手の平をこちらに向けてみせた。
女は食堂のカウンターの前に立ち、店の人間を呼び出して2、3言の用件と軽い談笑(数回程度リーンの方へと視線を向けていた為、恐らく内容はリーンに関する事だと思われる)を交じわし、包みを2つ受け取ってそれを鞄の中に入れた。
そこまでの行動を済ませて、女はようやくリーンの方へと歩いてきた。
「そんなに焦らなくても良かったですのに…お待たせして申し訳ありませんね。」
「…。」
申し訳無さそうにそう言ってみせる彼女をリーンは無言で睨み付ける。
「さて、これ以上お待たせするのも申し訳無いですし…行きましょうか。」
女はそう告げて、扉を開けた。

差し込む強い日差しに思わず目を細めた。
目が慣れた所で、少し辺りを見回す…見覚えが無い場所だ。
ここの周辺にあるのは自分が泊まったであろう宿屋を含めて立っている建物は2、3件ほどのみ。
それらが、恐らく魔物避けであろう柵で囲われている程度の規模だ。多少の囲いに多少のゆとりは持たせているとはいえ、人が住むには聊か狭すぎる。
だから、ここを'村'と呼んでいいのかどうかリーンは少し迷った。
「あそこの門を抜けて、少し行った所に森の入り口があります。」
リーンの隣に立った女がそう言って指を差した。
ちょうど今、自分たち以外の人間が、門から外へと出て行ったのが見える。
「その森を抜けた先にある'ヘネシス'という町が私の目的地です。…あぁ、それから森の中を通るルートは少し旧い道でしてね。魔物の危険もありますし、今じゃそこを使う人間は滅多にいないでしょう。」
わざとらしく女はそう言って、歩き出した。どうやら、掴み掛かってくるのであるならばそこに入ってからにしろ、という事の様だ。
やはり癪に障るが、ここは我慢してリーンも女の後ろをピタリとくっ付いて歩いた。
女の腰に掛けられている剣は二つ。一つは女自身が元々持っている剣なのだろう。そしてもう一つが…自分の剣。
無防備に揺れる自分の剣に手を伸ばしたくなるが…リーンはそれをグっと押さえ込んだ。心配せずとも、取り返すチャンスはこれから山ほどある。
そう言い聞かせて、リーン達は門を抜けていった。

鬱蒼とした森への入り口が目の前にあった。
確かに、ここに入ろうとする人間はいないだろうとリーンは納得した。
現に、先ほどの門を抜けてから何人かの人間とすれ違ったが誰も彼もがリーン達とは別方向に足を向けていたのだから。
「さ、行きましょうか。ここから先は魔物が出る危険もあります。剣を取り返すのもいいですが…先ずは、自身の安全を優先して下さい。」
「…。」
いいから黙って行け、とリーンは目でそう告げた。
女は少し肩を竦めると、少し気を張って森へ1歩踏み出し…踏み出した瞬間、ふわりと軽く横に飛んだ。
「ぐえっ!」
続けてそんな情けの無い声が響く。女の足元には体勢を崩し無様に倒れこんだリーンの姿があった。
(く、くそっ…)
不意打ちを掛けたつもりだったが読まれていた。そしてあろうことか無様に倒れこんでしまった。
羞恥に顔が赤くなっていくのが解る。そして次に聞こえてきたのは…
「あははははははは!!」
と、全く遠慮の無い笑い声だった。
「…。」
土を払いながら立ち上がり、リーンは何も言わず、否、言えず女を睨み付ける。
だが、顔に土が付き、あまつさえ赤みを帯びているそれは却って滑稽に見えた。
「さ、行きましょう。捕まえて御覧なさい?」
悪戯っ子の様な笑みを浮かべて女は楽しそうにスキップをするかのように歩き始めた。
「笑うな!!」
絶えかねてリーンはそう叫び、早足で女の後を追った。

「ハァ…ハァ…」
森に入って1時間ほど経過した辺りだろうか。隙を突いて、間髪入れずに、怒涛の勢いで、静かに、ありとあらゆる方法で女から剣を取り替えそうとしたリーンだったが、どれもこれも上手くいくことは無かった。
ただでさえ悪道を歩いているのに、そんな事をしていたら当然体力の消耗は尋常な物では無い。
「ハァ…クソッ。」
現に、こうしてリーンは歩く事すらできないぐらいすっかり体力を消耗し切っていた。
膝に手をつき、ハァハァと犬の様に荒く呼吸をする事しかできない。こうしている余裕なんて無いはずなのに体が動かない。
「大丈夫ですか?」
そこに、声が掛けられた。
顔を上げると、少し先に進んでいた筈の女の姿が見えた。
どうやらリーンの様子を見て、わざわざこっちまで戻ってきたらしい。
「うるさい…。」
荒い呼吸の合間を縫って、なんとかそう言えたがすぐにまたリーンの口は呼吸をする事に専念を始めた。
盗人に心配される事も屈辱であったが…それより何より、間違いなくリーン以上に激しい動きを要求されている筈のこの女が、呼吸を崩さず、涼しい顔をしている事にリーンは情けなさ様な物を感じていたからだ。
「無理はいけません。少し休ん…!」
ふっ、と女の言葉がそこで途切れた。
疑問に思い、再び女の顔を見ると女は何かを探すように、聞くように、周囲を警戒している。
その視線にリーンの姿は無い。
「…!」
これはチャンスだ。今ならきっと、取れる!
そう思い、自身の剣に手を伸ばした瞬間…リーンの体は勢いよく宙へと舞っていた。
「ごあっ…!」
木に思い切り叩きつけられ、苦悶の声を上げる。
叩き付けられた背と、腰の辺りがじりじりと痛む。
(何だ…?何をされた…?)
チャンスだと思い剣に手を伸ばしたら…そう、急に腰が痛くなって…勢いよく体が飛んで…
そこまで考え、ようやくリーンは自分が思いっきり蹴り飛ばされたのだと、自覚した。
そう自覚した瞬間、リーンの中に怒りが込みあがってきた。
「何をす…る…?」
女の方を見ると、女は何かと戦っていた。
獣の形をした其れに見覚えは無い…だが、アレがなんと呼ばれているのかは解る。魔物だ。
この一瞬の間に囲まれていた。数は5匹、飢えているのか、どの魔物も口から多すぎるほどの唾液を地面に撒き散らし、歪んだ口元は狂喜を浮かべている様にも見える。
5匹の内の1匹。丁度、女の背後にいた魔物が飛び掛った。獣型の魔物なだけあってその速度はリーン以上に速い。
「危なっ…!」
気付けば、そう声に出していた。
女は…少し柔らかく微笑んでいる様に見えた。まるで「心配するな」と此方に向かって言っている様に。
そして、女は振り返ると同時に抜刀し、一瞬の飛び掛った獣を寸胴斬りして見せた。

| 小話 | 20:11 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

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英雄。7

―雨。
雨が降っていた。
その冷たい雫は、容赦無く頬を濡らし、こそばゆく伝っていく。
空は一点の青も無く、重い灰色が広がっていた。
(…。)
気が付けば、自分はここに倒れていた。
ここが何処かも解らない…もはや興味も無い。
何もかもが、もうどうでもよかった。自分は、もう生きている価値すら無いのだから。
酷く、眠い。
このまま、意識を手放せば死が訪れるのだろうか?
そんな'ありえない'希望を、やや胸に抱く。
まぁ、どちらでもいい。死のうが、死ねまいが、もう動く気力は残っていないのだから。
がさり。
ふいに、そんな小さな音が聞こえた。
そして、次に感じるのは…視線。
それも一人や二人の物では無い。…それ以前にこれは、人間の物ですら無い。
ぐるる、という唸り声が近くで聞こえて、自分の状況を察する。
(…魔物か。)
どうやら、かなりの数に囲まれているようだ。
だが、それでも男は首を捻って状況を確認しようとすらしなかった。
(…自分の身体は食い物としては、さぞかし打って付けだろうな。)
このまま、魔物の肉として永遠を生き続けるのも…悪く無い。いや、それが自分にはお似合いだ。
(そうすれば…皆、僕を赦してくれるだろうか?)
そう考えて、男は…リーン=ファレンスは今度こそ意識を手放そうと、ゆっくりと目を閉じた。

痛みより、先に生暖かい血飛沫が自分を襲った。
絶望は感覚すら狂わせるのか、と人事の様に彼は思う。
だが次に、聞こえてきたのは、悲痛が入り混じった獣の唸り声。どう聞いても、喜び勇んで餌に食らい付く声とは違う。
顔を動かさないまま目を開くと、視界の端で金属が踊っているのが見えた。
鋭く、空気を裂く音が聞こえた瞬間に獣の断末魔が聞こえてくる事から、誰かが戦っているのだとぼんやりと理解した。
やがて、その誰かが魔物を全て倒したのか、はたまた戦意を喪失して逃亡したのか、どちらかは解らなかったが辺りに静寂が訪れた。
しかしその静寂も長くは続かない。ぴちゃり、ぴちゃりとへばりつくような足音が此方に向かって来た。
「…大丈夫ですか?」
仰向けに倒れる自分を覗き込んで来たのは、透き通った青色の長い髪を持つ、女性だった。

「こんな所で寝ていては危ないですよ。」
顔に笑みを浮かべながら、女性は手を差し伸べてきた。
だが、リーンは視線の向きを一切変えず、空を見たままぼんやりと答える。
「…放って置いてくれ。」
自分に、構わないでくれ。
助けた相手から、こんな反応が返ってくるのは想定外だったのだろう。
女性は少し驚いた様な顔をして見せた後、すぐに困った様な顔になり、頬を掻いた。
「ですが…このままここで寝ていると貴方、死にますよ?」
'死'。
それは今のリーンにとって願っても無い事だ。
ここで倒れているだけで救いが訪れるのならば幾らでも寝ていよう。
リーン、小馬鹿にするように鼻を小さく鳴らす。
「…別にいい。」
そう答えて、再びこの場に静寂が訪れる。
女性は「そうですか…」と小さく呟いた後、ため息を付き…リーンの視界が大きく揺れた。
何が起きたのか理解できたなかった。だが、自分が顔の向きが横になっているのと、鋭い痛みが頬にあるのを感じて、自分が叩かれたのだとすぐに解った。
「子供の分際で、自分の命を粗末にするもんじゃありませんよ。」
そう言われたかと思うと、リーンの身体が浮いた。
姫君を抱くような形で、自分を身体を持ち上げられている。しかし、だらんと力なく下げられたリーンの腕のせいで、どちらかというと死体を運んでいる様に見えるのだが。
「離せ…」
言葉で抵抗して見せるが、身体は動かない。
「離しません。このまま安全な所へ向かいます。」
「―。」
暴言の一つでも吐こうと思ったが、それは言葉にはならなかった。
あぁ、そういえば自分は眠かったのだったか。
それを思い出してから、意識が離れるまで時間はかからなかった。

―この狂王めが!!
違う、僕は。
―君は、この国をどうするつもりだい?亡き父上と母上が積み上げた栄華を全て壊したいのか?
違う、違う、違うんだ。
―殺せ、奴を殺せ。
僕は…僕は!!

「ッ!!」
飛び起きる。
全身に汗がべっとりと張り付いており、尋常では無い不快感がリーンを襲う。
だが、先刻まで見ていた悪夢に比べたらこの不快感など、比べるにも値しない。
少し、呼吸を落ち着けてリーンは自身の周囲を少し見渡す。
自分は小さな一室の中におり、ベッドの上に寝かされており、この部屋の内装は小奇麗だがどこか殺風景な物であり…
そこまで、見て恐らくここは宿屋の一室か何かだろう、とリーンは判断した。
はぁ、と少し大きく息を吐き、リーンはおもむろにベッドから立ち上がる。
―長居は無用だ。
別に、行く当てがある訳では無い。
だが、リーンは「自分自身が安全な場所にいる」と言う事が、我慢できなかった。
リーンは、死ぬ事ができない。死に至る傷を負っても、この身に宿る'国宝'がそれを許そうとはしない。
神が与えた、力。奇跡。そう思えていたのは少し前までの話だ。今は、この身に宿る'国宝'が呪いとしか思えない。
だが…例えこの身に、終焉は訪れないとしても、死に続ける事はできるだろう。
―それが、贖罪になるなら甘んじて受ける。
心臓の付近に、不自然に開いている服の穴を掴み、リーンは部屋から抜け出した。

「…何処に行かれるつもりですか?」
部屋を出て、廊下を歩いている最中、後ろから不意に声を掛けられた。
やはり、この女が自分をここに連れてきたのか、とリーンは連れてこられた事と、見つかってしまった事に舌打ちをした。
「お前には関係無い。」
振り返る事もせず、突き放すようにリーンはそう言った。
「死にに行くつもりですか?」
淡々と女はそう口にする。
リーンは、否定も肯定もせず歩き始めた。
その行動を肯定の意、と受け取ったのか彼女は「そうですか。」と、ため息交じりに答え。
「じゃ、死ぬのでしたら?'コレ'、貰っても構いませんよね?」
…?
何の事だ?言葉の意味が流石に気になったリーンは立ち止まり、ようやく振り返って見せた。
やや、目を細めて小馬鹿にしているようにも見える表情をしている女が手に持っているのは、一振りの剣。
派手な物では無く、美しさは無いが、逆に言えば一切の無駄が無い、違った意味での美しさを感じる事ができる物だ。
あぁ、この剣を自分はよく知っている。
何故なら、あれはリーンの父親の形…見!?
そう気付いた瞬間、リーンは即座に腰に手を添え、目をやった。手に感触は何も無く、目に移るのは自分の腰周りと、床の一部分のみ。
―この女…!!
「返せ!!!!!!!」
そう怒声を上げ、リーンは女に向かって飛び掛る。
女は、やや口角を上げ少し身体を横にずらし、リーンを避けてみせた。
避けられたリーンは間髪いれず、床を蹴り体を180度回し、背後から再度飛び掛る。
しかし、それもまた同じ様に、また体をずらし避けられ…今度は両腕を捕まれ、そのまま後ろで組まれ体を壁に叩きつけられた。
「ぐっ…」
壁に叩き付けれた痛みと、間接を極められている痛みに苦悶の声を上げる。
『うるさいぞ!!!!!!』
叩きつけられている壁からそんな声が聞こえる。
「申し訳無い。すぐに済みますので。」
その声の主に対してだろう、女は少し大きな声で返した。
「この剣、どうやら余程大事な物のようですね。」
右手1本でリーンを押さえつけながら、左手に持った剣を眺め、女はそう言う。
この剣は、リーンの父親、つまり先代の王の形見。
狂王と叫ばれた自身には、持つ資格は無いのかもしれない…だが、何処の誰かが解らない馬の骨に明け渡すつもりも毛頭無い。
「これを返して欲しければ、私から奪い返して見せなさい。」
言われるまでも無く、そうするつもりだ。
だが、どれだけ自分が力を込めても、拘束からは抜け出す事ができない。
本当に、女なのかと問い詰めたくなるほどの馬鹿力にただただリーンは蹂躙されていた。
「…ですが、ここでは周りの方達に迷惑が掛かる。私に飛び掛るのも、殺しに掛かるのも、もっと人目が付かない場所にしなさい。お互いの為にも、ね。」
頭に血が上りきっているリーンは、言われた意味が理解できなかった。
ただ、感じた事は「盗人の分際で何をほざくか。」という事だけだ。
ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせかけたいが、顔を叩き付けられて、口の形を上手く変える事ができない今、それは「もがもが」という間抜けな声にしかならなかった。
「私は貴方の前から無断でいなくなる事は無い、と約束しましょう。貴方がこの剣をもう一度手にする可能性が無くなるのは貴方自身が私から離れた時だけ、と。だから今日は部屋に戻って休みなさい。」
そこで、ほんの一瞬、リーンの力が女の力をやや上回る。
即座に顔を滑らせるようにずらし、言葉を発することができる位置になんとか持っていく。
「ふざけ…!!」
と、声を出した瞬間に首に衝撃が走る。
それ以上声も出せず、それ以前に息をする事もリーンはままならなくなった。
声にならない恨み言を頭の中でぐるぐるさせながら、リーンの意識はまたしてもまどろみの中へと入り込んでいった。

「ん…。」
眩しい光を、感じリーンは、ぼんやりと目開いた。
小さな窓から外を見る。地面には、小さな泉のような水溜りがいくつもできていたが、空は澄み渡っており正に、快晴と言ってもいい天気だ。
しかし、リーンはすぐにハッ、としてベッドから飛び出した。腰に剣は…やはり無い。
昨日の出来事は、やはり夢では無い。それが解るが否やリーンは小さな空間を動き回るには不適切な速度で飛び出した。
廊下を駆け抜け、階段をバタバタと大きな音を立てて下りる。
階段の下は食堂に繋がっており、そのただならぬ足音に食事をしていた客の何人かが、リーンに顔を向けた。
「何処だ!!何処にいる!?」
リーンは叫ぶ。
すでにリーンの方へ顔を向けていた人間も、向けていなかった人間も、リーンに向ける視線が'正常でない物を見る'物へと変化していった。
そんな視線の変化も意に止めず、リーンは周囲を見渡す。
何処を見ても、あの女の姿が見えない。
―逃げられた!!!
怒りの任せて、拳を壁に叩き付ける…前に、リーンの後頭部に、ぺちりと小さな衝撃が走った。
「お騒がせしてすみません。ちょっと頭の弱い子でして。」
そう言って、声の主は今度はぐりぐりと、リーンの頭を強引に撫で回す。
リーンはそれを振り払い、振り返るが否や叫ぶ。
「お前、ふざけるな!!!さっさと僕の剣を、むぐぬぉ…」
口に蓋がされる。
柔和な笑みを浮かべながら、またしても女は「すみません、すみません。」と周囲の客に頭を下げた。
そして、ちゃっかり腰に提げてあるリーンの剣を軽く手で叩いて見せ、顔を耳元に近づけた。
「私が逃げようと思えば、昨日の夜の内にでも逃げれたというのはお分かりでしょう?約束は絶対に破りません。ですので、暴れる場所は考えてください。ここでは他の人に迷惑がかかります。」
そう言って、女は周囲を見渡す様に目を動かした。
釣られてリーンも後ろを見る…今も尚、何人かの人間が不審な目を此方に向けている。
「…お前がそれを僕に返せば解決する話だ。」
流石に、多少の羞恥芯を感じ声量を落とし、リーンは至極正論を言う。
それに対して、女は「まぁまぁまぁまぁ。」と爽やかな笑みで返した。
「まずは朝食にしましょう。腹が減ってはなんとやら、です。」
空いてるテーブルを指差して、女はそう言ってみせ、歩き始めた。
あまりの話の通じなさに、リーンはポカんとした表情を見せたが、慌てて後を追う。
追いついた所で…多少周りを気にしたのか、小さな動きで自分の剣に手を伸ばす。
その手は、即座にはね退けられ、額の辺りに小さな衝撃が走った。
女は、ニヤニヤと笑っていた。

| 小話 | 14:20 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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英雄。6

少し、落ち着いた2人は橋の縁を背もたれ代わりにし、座り込んでいた。
リーンは、自分から声を出すつもりは無い。ただただ横で座っているメイフィから掛けられる言葉を待つだけだった。
まだ、彼女から声を出すような素振りは無い。
彼女は迷っていた。
何から聞けばいいのか、そもそも聞いても本当にいいのか。
このまま、放って置けば朝日が昇っても彼女は何も言わないままかも知れない。
だが、リーンはそれでもよかった。彼女が口を開くまでリーンはただただ待ち続ける、そのつもりだった。
「…リーンさんは…リーンさんは本当に聞かれてもいいのですか?」
尚も、迷っている彼女はリーンにそう問う。
勝手に人の記憶を覗き見しようとした人間が、何を言っているのか。
自分の発言の矛盾にメイフィは顔を歪めたが、リーンは特に気にする素振りを見せずに返した。
「まぁ、本来ならば自分の事に付いて何かを問われたら、はぐらかすつもりではあったさ。」
そう言って、リーンは半ば無意識に左手を眼帯の方へと動かした。
紅に染まった眼帯に手が触れた時「くしゃ」と水気が含まった小さな音を感じ、リーンはすぐに手を元あった場所へ戻す。
眼から流れる血は止まっても、まだ乾くのは先のようだった。
「だが、あの'本'を読ませるぐらいなら…自分の口から語った方がまだいい。どうしてメイフィはあの場所に行ったのかは解らないが…また同じ事が起きる可能性は0では無いからな。」
そこまで言い切って少し間を置いた後に、リーンは「それに」と言葉を続ける。
「どうしてだろうな。メイフィなら別に聞かせてもいい。いや…どうしてだろうな。メイフィだからこそ聞いてもらいたい。そう思っている自分もいる。」
それはどういう意味なのか。それはメイフィには解らなかった。
だが、気のせいかもしれないが、やや頬を赤く染めている様に見える彼の横顔はメイフィに安心感を与えてくれた。
その安心感に流されるように、メイフィの口は自然と開き言葉を紡いでいた。
「…貴方は一体、'何者'なのですか?」
自らが'何者'であるのか。
こう聞かれれば大体の人間は言葉を詰まらせる事になるだろう。
自分の本質など理解している人間等少なくて当然だ。
だが、きっとメイフィが聞きたいのは'本質'やそういった物では無く、'他の人間が経験しようの無い特殊な過去'であるという事はリーンは理解した。
そして、'それ'はリーン自身、覚えがある。
「…僕は、この世界の人間では無い。」
その言葉に含まれるのは哀愁、或いは哀感、或いは…懺悔。
「ここでは無い、別の世界から来た。」

その言葉を聞いても、メイフィは特に疑問を抱くことは無かった。
あまりにも馬鹿馬鹿しく、現実深が無い言葉であったが、それをメイフィはすんなりと信じる事ができた。
無論、先ほどあった出来事もそうさせている要因の一つではあったが、それが無くともメイフィはこの言葉をすんなりと信じていたと思う。
「さっきの'力'を見ただろう?これは有体に言えば…「次元を操る力」だ。この力で、僕はこの世界に飛ばされてきた。」
「それは…どうして?」
メイフィの疑問は当然であったし、リーン自身もそれを聞かれたら答えるつもりではあった。
だが、いざ口にしようとすると、様々な想いが蘇り、それを阻もうとする。
聞いてくれ、と言ったのは自分だ。何を戸惑っている、まるで自分自身にそう言い聞かせるようにリーンは首を震わせ、言葉を紡ぎ始めた。
「…その世界にはある国があったんだ。とても大きな国とは言えなかったが…人も、大地も豊かでとてもいい国だった。」
そう、言ってリーンは顔を歪ませる。
だが、それでも言葉を続ける。
「だが、ある時…その国は一夜にして、唐突に、隣国に滅ぼされた。民は殺され、犯され、生き残ったのはまだ若い王一人だった。」
メイフィの脳裏にはその悲惨な光景は自然と浮かんできた。
聞いてるメイフィも辛くなっていくが、それでもメイフィは何も言わずただ、リーンの言葉を待った。
「その時に、王はある'力'を手にした。それは'力'の一言で済ますにはあまりにも途方も無い物で…ありとあらゆる秩序や法則を無視した'奇跡'と言ってもいい物だった。」
「…。」
「その'力'を持って、王は時を渡り、国の運命を変えようとした。隣国からの魔の手を退けるため、国の防備を固めた。奇襲がまさか迎撃されると思ってはいなかったのだろう。その戦に国は勝利する事ができた…だが…」
滅びの運命は、それだけでは変えることができなかった。
ある時は、また別の国からの戦争で。また、ある時は疫病で。また、ある時は災害で。また、ある時は、ある時は、ある時は、ある時は、ある時は。
「国が滅びる度に、王は時を渡り、手を打った。時には民を犠牲にするような事もした。いずれ、国に不利益をもたらすと解った人間は、その前に自らが手にかける事もあった…だが…」
王はそうする事で滅びから回避できる事を理解していても。民はそれを知る術は無かった。
民の一人が言った、「王は狂っている」と、その一声で引き金となり、民の意識は次々と変容していった。
『奴は狂王だ。』『王は悪だ。』『王を倒せ。』『王を殺せ。』と、
「そして、最後には…王は友にその身を剣で貫かれた。その時に、王は理解した。自分のやってきた事は全て無駄だったと。自分は何一つ救う事ができなかったんだ、と。そして、次に彼が目覚めた時、まったく知らない土地にいた。」
そこまで、言い切ってリーンは自嘲気味に息を吐いた。
メイフィは、何も言わない、いや、何も言うことができない。
彼は、リーンは、一人でそのような苦悩を背負い続けて来たのか、と。
そう考えると、のほほんと生きていた自分如きが言える言葉は何一つ無かった。
そのメイフィの気持ちを理解してか、リーンは困ったような笑みを浮かべた。
「まぁ、こんな所かな…異世界の愚かな人間の話さ。」
メイフィは、また謝りそうになった。
やっぱり、踏み込んではいけない領域だった。
こんな話をさせて、辛い話をさせて、ごめんなさいと。
それを口にしようとした瞬間に、リーンの指がメイフィの口を塞ぐ。
「謝る必要は無い。僕が望んで話した事だ。…それに、まだ聞きたい事があるんじゃないのか?」
そう、そしてこの後に及んで、メイフィにはまだ聞きたい事があった。
ギルド本部で見た、あの名は一体誰なのか、と。
「溜め込む必要は無いさ。聞きたい事は全て聞いてしまうといい。」
そう言って、いつもと変わらない朗らかな笑みをリーンは浮かべ…メイフィはゆっくりとまたもう一つの疑問を口に出した。
「フレイヤ…フレイヤ=クルシモさんは…リーンさんとどんな関係があるのですか?」

その問いに対して、リーンの反応は先ほどとは打って変わった物だった。
目を丸くし、自分が何を言われたか解っていない様な、呆けていると言ってもいい、そんな表情を隠すこと無く見せた。
「一体何処で…その名前を?」
やや声のトーンを上げてリーンは逆に問う。
その反応はメイフィにとって少々以外と思える事であったが、その名を知った経緯を正直に口にした。
「今日、ギルド本部でレアさんの手伝いをしていた時です。…過去に存在していたギルド資料がたまたま残されていた様で…」
そして、その資料は「Assemble」という名のギルドの資料であった事、メンバーは「フレイヤ=クルシモ」ただ一人であったという事。
そう伝えると、リーンは「そうか…」と一言、ポツリを零し、回想するように目を閉じた。
その横顔は、やはり悲しげな物であったが、先ほどまでの表情と比べてどこか'救い'がある、どういう訳だがメイフィにはそう感じた。
「こういう偶然も…あるのだな…いや…ここまで来るともはや必然だったのだろうか?」
誰に問う訳でも無く、リーンはそう呟く。
そこで、ふとリーンはメイフィの顔をじっと、見つめた。
どこか、不自然な視線だった。メイフィの顔を見ているが、その瞳は別の誰かを見ている様な。
「フレイヤは…僕の恩人だ。彼女のおかげで、今の僕が居る。そう言ってもいい程の。」
やはり、フレイヤという女性はリーンと関係があったのだ、とメイフィは思う。
リーンが別の世界から来たと聞いた時に、彼女がリーンの祖母、曾祖母では無いとは思っていたが、なるほど恩人。そういう事か………………?
納得しかけた所で、メイフィはある違和感を覚えた。何かが、おかしい。
『はい。開設日を見ると…今から90年程前になりますね…メイフィさん、見つけて下さって有難うございます。』
レアの言葉を思い出し、ハッとした。
今から90年近く前に生きた人間が恩人?だが、リーンの背格好はどう見てもまだ、少年といってもいい程の物だ。
もしかしたら、老年のその女性に世話になった可能性もあるが…どうにもしっくり来ない。
ふと、そこでメイフィは自分の考えを改め直す。
そもそも、自分が一番最初にリーンついて疑問を感じた事はなんだったか?それは、リーンの年齢では無かったか?どうして年齢が気になった?
リーンがその見た目の若さと裏腹にこの世界の歴史や知識をよく知っていたからでは無いか?
そこまで考え、メイフィは半ば確信したようにリーンに問う。答え合わせを求めるように。
「リーンさんは…今、何歳なんですか?」
自分が考えた事が、正しいならきっと…
「年齢、年齢か…あまり数えていないが…単純に生きた年数で言うならもう100年は過ぎた筈だ。」
メイフィの問いにリーンはあっさりと答える。
「これも、'力'の一つだ。簡単に言えば、不老不死だな。尤も、もはやこれは'力'と言うより'呪い'と言った方がいいがね。」
「呪い?」
「'死なない'、というより僕は'死ねない'んだ…ついでに言うと「次元を操る力」も僕にはもう、ほとんど残されていない。今、自分がどうにかできる事と言えば、せいぜい'隣合った次元に渡る'のと、人よりちょっとばかし速く動くぐらいさ。まぁ、それをするだけでも'あのザマ'だから極力やらないようにはしてるがね。」
あのザマ、とは先ほどの出血の事だろう。
どうやら、今のリーンにとって'力'の行使はとんでもなく身体に負担が掛かる物のようだった。
そんな、負担に掛かる事を自分の為にさせてしまったのか、とメイフィは今日、何度目になるか解らない罪悪感を覚えた。
「…少し、長い話になるが…聞いてもらえるか?」
何も言えずにいたメイフィにリーンは空を見ながらポツり、と呟いた。
断る理由は、無い。
今も尚、罪悪感を上回る知りたいという欲求にメイフィは嫌気が差しつつも、無言で首を縦に振った。

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